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当ブログのSSは女性への暴力行為(いわゆるリョナ的な)の描写を含む場合があります。嘔吐や流血などの表現に現実を見失う方は閲覧をご遠慮ください。 登場人物などは全てフィクションです。存在するわけがありません。

●お知らせ(2020/07/01)
・単発ネタ「マリィの受難」

■お題箱
※読みたいシチュエーションがあればお気軽にどうぞ。ですが必ず書くとはお約束できません。

●質問箱
※感想も含めてなんでもどうぞ。

目次

女の子がズタボロになってるシーンを手っ取り早く読みたい方は★マークをどうぞ。

『花びらたち』
★序
1-1 ★1-2
★2-1 2-2 ★2-3 ★2-4 ★2-4(BAD) 2-5
★3-1 3-2 ★3-3 3-4 ★3-5 ★3-5(BAD)
★4-1 4-2 ★4-3 ★4-4 ★4-5 ★4-6
5-1 5-2 5-3 5-4 ★5-4(BAD) 5-5
―連続短編―

魔法少女リューコ ★その1 ★その2
果汁系戦士アップルハート ★第1話 ★第2話 ★第3話 ★第4話 ★第5話
果汁系戦士アップルハート・リブート 第1話 ★第2話 ★第3話 ★第4話

―単発ネタ―
★博士と責め子ちゃん
★NHK
★女王ステラ
★悪魔っ娘サーたん
★シチュエーションプレイ
★がんばれデスアロマ
★スーパーヒロインの資格 ★スーパーヒロインの敗北
★光の国のルナ
★ある日の望月星華
★ウルトラスイマー・ミウ
★未知との遭遇
★おにはそと、ふくはうち
★不良少女あずき
★スカーレット夫妻
★アリス姫の願望
★魔法少女マヤ
★スイート・キャンディ
★少女騎士レイナ
★金と黄の交差
★設定屋さん
★空手美少女アユミ
★赤髪メイジのキティ
★超戦姫マイティ・キッス
★速攻 ―くのいち姉妹―
★大庭こころは諦めない
★エルフ少女リリィの腹責め快楽調教記
―二次創作―
★ポケモンBW2女主人公
★マリィの受難

★マリィの受難

 そいつはいきなり現れて、みんなを次々とバトルで打ち負かしていった。
「ハハハッ! 弱ぇ! ガラルのトレーナーはこんなもんか?」
 黒に近い紺色の帽子と衣服。トップスの胸元には大きく「R」と赤い文字が描かれている。
「あんた、なにしとんの?」
 ポケモントレーナー、マリィはその悪趣味な恰好の男を睨みつけた。
 二人のエール団員が、屈みこんでポケモンを抱きしめている。それはもうボロボロで、瀕死になってもまだ攻撃を続けたことが分かる。
「そこまでしなくたってええやんか。そもそもどこの誰? あんた」
「なにぃ? この地方は誰も知らないのか? われわれロケット団の存在を!」
(ロケット団って……確かユウリが言うとった……)
 つい先日チャンピオンのダンデを破った、自分と年齢もさほど変わらない少女の顔を思い浮かべる。
 いつも笑顔で、ポケモンたちと仲が良くて、おまけにバトルまで最強レベルという、規格外な女の子――ユウリ。
 その彼女が、ロケット団という名を口にしていた気がする。
 ここガラル地方から離れたところ――そう、確かカントー地方。そこにそういう名前の、ポケモンを使って悪さしている集団がいるって。
「いい歳した大人が何しとんの? ダサいよ。やってることもその恰好も」
 とはいっても、マリィ自身もピンクのワンピースに黒のジャケット、スパイクヒールというパンクな恰好である。
「おいお前! 俺はともかくこのコスチュームをダサいと言ったな? ロケット団を侮辱するのは許さんぞー!」
「自分はええんかい!」
 思わず突っ込んでしまったが、相手が危険人物であることは確かだ。
負けてしまった仲間二人だって決して弱くないのだから。だけど、それ以上に自分は強い。だから――
「とにかく悪さするやつは見過ごせんよ。わたしも一応、ジムリーダーやけんね!」
「チッ、どこの地方にもジムリーダーってのはいるもんだな! お前にもロケット団の恐ろしさを教えてやるぜ! いけっ、ゴーリキー!」
 ロケット弾の男は、彼自身よりも体格のよいポケモンを繰り出してきた。全身が筋肉に覆われ、いかにも物理攻撃主体といった風体だ。
(ゴーリキーは【かくとう】……わたしの苦手なタイプ……けど!)
 全てのポケモンは、【ほのお】や【みず】といったタイプに属している。タイプさえ分かれば、そのポケモンを詳しく知らなくても、特徴や弱点が見出せるのだ。
 マリィは【あく】タイプを好んでパーティを組んでいる。【かくとう】は相性が悪い相手なのだが……タイプ相性くらいで苦しんでいたら、ジムリーダーになんてなれるわけもない。
「ほらっ、モルペコ! いって!」
「うららー!」
 右肩に乗っている小さなポケモンが、主に従って飛び出していく。
 体はゴーリキーよりも遥かに小さく、手足も短い。マスコットのような姿のモルペコは、どちらかといえば愛玩用のイメージが強いかもしれない。
「なぁんだそいつは、ピカチュウみたいな見た目しやがって。そんな弱そうなヤツで勝てると思ってんのか?」
「……知っとった? バトルの前にべらべら喋るトレーナーが、一番弱そうに見えるって」
「な、なんだとこのガキめ! 大人をナメてんじゃねーぞ!」
 煽りにあっさり引っかかり、ロケット団は顔を赤くしている。彼は彼自身のポケモンであるゴーリキーに、
「ひねり潰せゴーリキー! ”クロス――」
「モルペコ、”オーラぐるま”!」
「うらら!」
 モルペコは見た目通りの身軽な動きで攻撃へと転じる。
 小さな体の周りに電気が発生する。オーラのようにそれを体中にまとうと、モルペコは四つん這いになってゴーリキーへと駆け出した。
 円形にまとっている電気オーラは、さながら列車の車輪。
 素早い動きについていけず、ゴーリキーはその攻撃を腹部へとまともに受けてしまう。
 ぶち当たる音と共に、ゴーリキーの全身へと電気が駆け巡った。
「ゴ!? ゴゴゴオオォォォ!?」
「なっ、お、おい、ゴーリキー!!」
 片手でひねり潰せそうなほど小柄なのに、モルペコの”オーラぐるま”は絶大な威力を誇っていた。ゴーリキーの体力は一気に削られて、あっという間に『ひんし』寸前にまで追い込まれる。
「うおおお! さっすがお嬢! 強すぎです!」
 負けてその辺りでヘナヘナになっていたエール団員が、急に元気になってマリィに声援を送った。
「そんな馬鹿な……! 効果ばつぐんでもないのに、たった一撃で……!」
 信じがたい出来事のようで、ロケット団員は膝をついて唇を震わせている。
「レベル差。あんたも一応トレーナーやろ? まともに戦える相手かどうか、少しくらい目利きできんとポケモンがかわいそうだよ」
「お、おのれぇ……!」
 ぎりぎりと歯を噛むロケット団員は、マリィを睨みながら地面を強く殴りつけた。
 ふん、とマリィは鼻で笑ってやる。
(なんだ、ユウリが気を付けてっていうからマジメにやったけど。大したことないじゃん)
 聞いた話では世界征服さえ企んでいるという組織のようだが、ジムリーダーの実力を持つマリィの敵ではなかった。
 この男はたぶんしたっぱなのだろう、と彼女は思う。こんな弱いトレーナーが世界征服なんて考えるわけがない。
 ともかく、ロケット団という組織を公言しているのだから、バトルに勝ったとはいえこのまま放っておくわけにもいかない。
「とりあえず、あんた大人しくしてなよ。しかるべきとこに連れていくからさ」
「なっ、そ、それは……!」
 明らかにうろたえる男。マリィがジムリーダーであると思い出し、今さらながら状況の悪さを自覚したのだろう。
 ジムリーダーはバトルの回数、その勝率、さらに知識量も高水準であるトレーナーの中で、ほんの一握りが辿りつける地位。ジムを任されているため、その町の治安如何もジムリーダーによるところが大きい。
(まーでも、スパイクタウンは……ちょっとアレだけど)
 とにかく、ジムリーダーは一般人よりも上の権力をある程度持っているのだ。今からこのロケット団の男を現行犯逮捕して、ポケモンポリスに引き渡すことだってできる。
「ほら、こいつ連れてくけん、あんたたちも手伝って」
「わ、分かりました!」
 そばでへたれこんでいた二人のエール団員を手招きしつつ、マリィは男へ近寄っていく。敗北を喫した彼は、俯いたままなにやらぶつぶつ呟いていた。
「こんなところで捕まったら――サ、サカキさまに――それだけは――!」
 体を小刻みに震わせていた男は、急に意を決したかのように顔を上げた。
 マリィは一瞬、ひるんだ。
 そいつの顔は、バトル後の表情ではなかったからだ。
 ジムリーダーとしてトレーナーから挑戦を受け、それを返り討ちにしたとき――マリィは色んな表情を見てきた。
 悔しいとか、楽しかったとか――ほとんどのトレーナーはそんな顔になる。どんなに一方的なバトルになったとしても、マイナスの表情にはならない。
 でもそいつは違った。今にも襲いかかってきそうな色をしている。
 だからマリィは驚いてしまって、隙を見せることになった。
「ゴーリキー! ”メガトンパンチ”!」
 バトルが終わっているのに、ポケモンに命令する。『ひんし』のポケモンに。
「ゴ、ゴオオオォォ!」
 倒れ込んでいたゴーリキーは充血した目で、目の前の相手に”メガトンパンチ”を放つ。
「――ッ!? モル――」
 ワンテンポ遅れてしまったことで、モルペコへの指示が間に合わない。
 人間よりもはるかに大きく硬い拳が、マリィの腹部に突き刺さる。
 ズン、とくぐもった音。
 小さく柔らかい内臓が、ミチッ――と圧迫される音を、彼女は体内を通して聞いた。
「ふ、ッぐ――!?」
 ポケモンの――それこそゴーリキーのパンチは、人間のそれとは比べ物にならない。
 剛腕から放たれた拳の威力に、マリィはくの字に折れながら吹き飛んだ。十数メートルほど宙を泳いだ後、うつ伏せ気味に地面へと倒れ込む。
 そこでようやく、彼女は殴られたことに気が付いて――
 腹部の奥が、一気に熱を帯びた。
「ぉ゛ッ――!? ごほッ――ぉぐっ、ッ、ぃぎぎッ――!!」
 腹を押さえてうずくまる。
 ずしりと岩でも埋め込まれたような重み。痛みはもう通り越して、なんだかよく分からない。
 ひたすらに熱い。両腕で抱えていないと、破裂してしまう。
 歯が潰れそうなくらい強く食いしばっていると、腹部の奥で暴れている熱が、喉元まで駆け上がってきた。
「ぅぷッ――――!?」
 両目を剥いて、瞳孔がキュッと細くなる。
 呼吸が、止まった。
 体の痙攣も、止まった。
 一瞬だけ、止まった。
 でも熱だけは、止まらなかった。
 マリィの白い喉から水音が鳴り、脈動する。
 ぷくっ、と頬が膨らんだかと思うと、
「ぉ゛え ぇえぇぇぇぇッ !! ぅぶっ、っ、がはッッ――――!?」
 紫に変色した唇を割って、黄色がかった胃液が溢れ出した。
 砂の地面にビチャビチャと、固形物の混ざった胃液を吐瀉する。昼食を食べたばかりだったら、もっとひどい有様だっただろう。
「はーっ! はーっ! かはっ、はぁ゛ッ――――!!」
 殴られた腹部が引きつり、喉はやけるように熱い。
 呼吸もうまくできず、濁った声で必死に酸素を取り込もうとする。するとまた喉奥から出ようとする胃液を飲み込んでしまい、その嫌悪感に全身が震えて、余計に吐いてしまう。
(な、何なん、これ? おなか殴られただけで、こんなん――!?)
 生まれてから今日にいたるまで、兄であるネズと喧嘩したことはあっても、殴り合いなんてしことない。ポケモンが言うことを聞かなくて、ちょっと痛い目を見たことくらいはある。だけどそこに悪意はなかった。
 トレーナーがポケモンに命令し、相手トレーナーを傷つけることは明確に悪意があるし、この世界ではれっきとした”犯罪”だ。
(痛い痛い痛い――――!! きもち、わるい――――!!)
 頭がじんじんして、いまどこにいるのか、自分がどんな姿勢でいるのかすら、分からなくなった。
「お、お嬢! お嬢ー!!」
 呼ばれている。かろうじて聞き取れる。だけど答えることもできない。
 腹部を押さえながらもなんとか顔を上げると、ロケット団の男は傷ついているゴーリキーを隣に従えつつ、マリィに近づこうとしていた。
「へ、へへっ。ロケット団に逆らったからだ……! おいお前ら、こうなりたくなけりゃ、おとなしく言う事を――」
 ぴたり、と男の言葉が止まる。彼の耳には聞こえたからだった。
 マリィは朦朧としている意識の中で、その音を聞いた。
 足音――ポケモンの足音だ。それは全速力で駆けてくる。地を大きく鳴らしながら、確実に近づいてくる。
 その音は、マリィにとっても馴染みがあった。
 彼女の背後から、猛然とした勢いで追い越すものが現れる。土煙をあげつつ、ロケット団とマリィの間に割って入る――四足歩行のポケモン。
 そして、その背中に乗っているのは――
 赤をベースに金の毛皮をあしらった大きなマントは、ここガラル地方のチャンピオンだけが纏えるもの。
「ユウリ……?」
 現ガラルチャンピオンの少女、ユウリ。年齢がさほど変わらない彼女は、【ほのお】タイプの四足歩行ポケモン、ウインディに乗って駆けつけたのだった。
「な、なんだ、またガキか。ははっ、お友達を助けにきたってか?」
 男は面食らっていたが、ユウリがまだ子供であると分かると手のひらを返す。マリィを倒したから、その仲間なんて余裕だと考えているのだろう。
 チャンピオンの少女は少し間を置くと、
「トレーナーへの直接攻撃は犯罪ってことくらい、知ってますよね? ロケット団、あなたを拘束します」
 と、静かに呟いた。
 声色は落ち着いている――マリィ以外はそう感じた。
「俺を捕まえるって? へっへ、大層な恰好してるだけのガキだろ。ゴーリキー、やっちま――」
 男が命令する前に、ユウリのポケモン――ウインディが牙を見せつけながら、咆哮した。
「グオオォォォオオオオオオォォォォォォンッ!!!」
 空気が震えた。
 砂が舞う。
 脇道にある木から、【むし】や【ひこう】ポケモンが一斉に飛び去っていく。
「ひ、ひっ、なん――!?」
 ロケット団員は、ウインディの咆哮だけで腰を抜かしていた。へなへなと座り込む彼と同じように、ゴーリキーまで縮こまっている。
 ウインディの”いかく”だ。攻撃したわけでもないのに、相手のポケモンはもうとっくに、戦意を喪失している。
「わたしはガラルのチャンピオンです。カントーでいうならレッドさんですか? わたしがここで一番強いってこと、分かりますよね?」
 ユウリはウインディの背を撫でつつ、ロケット団の男を睨む。やはりというか、年齢相応の子供っぽく煽るような言葉の選び方だった。
「お願いですから大人しくそこで座っててくれませんか。わたし、まだ辞めさせられたくないので」
 声色は一定だが――マリィには分かっていた。彼女が怒りを抑え込んでいることを。言う事を聞かなかったら、それこそ、ユウリはあの男に何をするか分からない。
 前チャンピオンのダンデと比べれば、まだまだ成長真っ只中の感情豊かな子供。友達を傷つけられたら、”キレる”のも当然と言えた。
「――ユウリです。スパイクタウンの近くです。はい。――わたしがいるので大丈夫です。はい。よろしくお願いします」
 ガラル地方最強のポケモントレーナーは携帯通話を終えると、ウインディの体をトントンと軽く叩く。
 するとウインディは一つ鳴いてから、いわゆる「伏せ」の姿勢を取った。しかし、その鋭い瞳はいまだにへたり込んでいるロケット団とゴーリキーから外れることはない。
「お願いね」
 ユウリはウインディから降りると、一目散にマリィへと駆け寄った。
 近づくにつれて、チャンピオンだったはずの表情は崩れていき、今にも泣き出しそうな声で、
「マリィ、大丈夫!? おなか? おなかやられたの? ね、痛い? 何したらいい?」
 と、おろおろした様子で肩に手を添えてくる。
 あの気迫はどこへ行ったのだろう。今や友達を心配しすぎて涙を浮かべている、弱々しい少女になってしまった。
「あ、あんたなぁ――。ぐっ!? ぇ゛ほッッ、げほっ――!」
 思わず言葉にしてしまうが、それだけ腹部の激痛と嘔吐感が増す。再度うずくまるようにして体を丸くした。
「あっ、無理しないで、ね? スパイクタウンはすぐそこだし、休も?」
 ユウリは純粋に心配してくれている。それは、分かっている。
(なんなん、あたし。ユウリには実力で負けてるし、あの変な恰好のヤツにまでやられて――)
 ジムリーダーになったというのに、情けない。こんなレベルでは、元ジムリーダーだった兄のネズにも申し訳が立たない。
「う、くっ――! ぐぅぅ――――!!」
 悔しくて悔しくて、涙が溢れて止まらない。
「あわわ、痛いの? ほら、おんぶしてあげるから――」
「ッ――! じ、自分で歩けるけん、そんなんええって――!」
 顔を伏せながら、ユウリをはねのけるためにマリィは強引に立ち上がった。
 腹部は岩でも埋まっているかのように重く、今にも足が崩れそう。内臓が水っぽい音をたてて揺れ動き、また吐きそうになって口元を押さえる。
「うぷっ――!」
「ああっ、マ、マリィ!」
「ッ、ん、ごくッ――!」
 舌のところまで登ってきた酸っぱいモノを、無理やりに飲み込む。
 はあはあと荒く呼吸を繰り返して、マリィは涙を袖でぬぐった。
「……ありがと。ユウリ」
 助けてもらったのは事実だ。マリィは見た目こそガラが悪く勘違いされることも多いが、根っからの正直者である。
 だから、自分のことでユウリの手を煩わせたことに、罪悪感があった。
「ごめん。チャンピオンは忙しいのにね」
「え? いや、何いってるの。友だちでしょ?」
 えへへ、とユウリが微笑む。屈託のない笑み。
 チャンピオンの座を競った者同士――勝者は、多少なりとも気まずい感覚を持っていても不思議ではないが、ユウリはそんなことなかった。
 だから、悔しかったのは事実だけど、清々しい気分だったことを覚えている。彼女とのバトルは、自分の立場とか、そういうのを忘れて夢中になれる。
「……あのさ、せっかく来たけん、バトルしよーよ」
「え、いま!? け、怪我してるんだから、いっかい休んだ方がいいって!」
「こんなん、平気――げほっ! げほっ!」
「ほらダメだってばー! ちょっと、エール団のひとー! マリィを連れていくの手伝――ってなんでみんな倒れ込んでるの!?」
「あんたのウインディ、みんな怖がらせたんよ……」
「あ、ああ! そっか! ご、ごめんなさーい!」

 ――しばらくして、ポケモンポリスなど大人たちが大勢かけつけ、ロケット団の男を連行していった。
 マリィも医師に診てもらい、奇跡的にも後遺症になるようなダメージまでは負っていないことが分かった。
 ベッドで横になっているマリィは、そばで椅子に座っているユウリに、
「さすがにもう【かくとう】には殴られたくないなぁ。おなかはきっついよ」
「そうだよねー……あれ? サイトウさんって、いつもゴーリキーとかカイリキー相手に組手とかしてるよね……?」
「あのジムリーダーはおかしいけん、比べんといてよ」
 くすっ、とマリィはこの日初めて、ユウリに笑みを見せた。
 

★エルフ少女リリィの腹責め快楽調教記

 少女はここがどこか、よく知らない。
 別に知りたいとも思わなかった。低俗な人間の住処なんて。
「はあっ、はあっ、くっそ! なんて体してやがる!」
 たぶん、この禿げた頭の人間は性別的にはオスだろう。ほかの人間と比べて確かに体は大きいし、筋肉もそれなりに膨らんでいる。
 だが、たとえ人間がどんな武器を使ったって、彼女にはかすり傷すらつけられない。
「時間の無駄よ。あたしたちは生まれつき精霊の加護を受けてるの。人間じゃどうしようもないもんね」
 彼女はいま、捕らわれの身だ。しかし声に震えは一切なく、裸に剥かれているのに、むしろ生き生きとして小生意気な印象を与える。
 人間視点で見ると年齢は十代半ばほどだろうが、種族的に考えて歳はもっと重ねているだろう。
 肌は透き通るように白く、しなやかな肢体はほどよく肉付いている。首元まで伸びている栗色の髪の間からは、長い耳がのぞいていた。
 この部屋の天井は低く、スペースも狭く、薄暗い。中央にぶら下がっている鎖で両手を頭上で拘束されているが、大したことはない。
「この女……! 調子に乗りやがってぇ……!」
 男はその筋肉質な腕で、再び腹部を殴りつけてきた。
 なんの躊躇もないことは分かる。もはや殺すつもりで殴ってきていることも分かる。
 だが、人間である以上は無理なのだ。
 間違いなく拳は体の正中線に叩き込まれているが、ほとんどダメージが無い。
 彼は甲が赤くなっている手を、痛みから逃げるように強く振った。
「くそぉ! もう腕が痺れて動かねえよ……!」
「一旦ストップ。ふーむ、なるほど。人に決して姿を見せないという自然界の申し子、エルフ。本物であることは分かったわ」
 男の後ろには、彼よりも若いと思われる女が立っている。軍人らしき服装や立ち振る舞いから見て、男の上官であることは察しがついた。
 彼女は姿勢を整え直すと、頭を下げる。
「お目にかかれて光栄です。さて、人間の作法は通用するのかしら」
「知ってるわ。いまのはお辞儀ってやつ? 残念だけど拘束されているからお返しできないよ」
 苦笑してみせたが、女上官は笑わなかった。
「私はキキョウと申します。あなたの名前をお聞きしても?」
「人間には発音できないけど、お前に免じて簡略化したものを教えてあげる。あたしはリリィ」
「ありがとう、リリィ。さっそくだけど、あなたは罪を犯した」
 キキョウと名乗った女は、氷のような瞳で見つめてくる。
「他人の物を盗むというのは、エルフの世界では一般常識なのかしら?」
「こっちのセリフよ。もともとあたしたちの森で育った果実を刈り取ったのはそっちじゃないの。それを返してもらうだけ」
「隠れて生活しているあなたたちの区域を、私たちが知る由もありません。それを言うならそちらも不法侵入ですよ」
 この女はなかなかのやり手だ――リリィは少し苛立って目を細める。
 リリィは確かに、人間側から見れば盗みを働いた。
 だが、侵入した場所がどうも悪かったらしく、何かしらの団体が運用している拠点のようだった。リリィは催涙トラップに引っかかり、眠ってしまったのだ。
(睡眠自体は悪いものではないから、精霊の加護が働かない……運が無かったなぁ)
 昨今、自然界は人間どものせいで日々汚れてしまっている。草木は枯れ、果実も満足に実らず、動物たちもやせ細って。おかげでエルフたちは食べることに困り、餓死するものまでいるのだ。
そう、こいつらのせいでエルフが滅びへの道筋を歩まされている。冗談じゃない。
「ともかく、我々が知りたいことは一つです。あなたの仲間はどこに住んでいるのか」
 やっぱり――リリィはキキョウをにらみ返した。
 人間たちからすれば、エルフを発見したとなれば、世紀の大発見だの何だので大騒ぎになるだろう。
そのあと何をするかなんて、欲望に忠実な人間たちのことだ――自然界が余計に荒らされることになる。
 リリィは決心を新たにして、キキョウに言葉を返す。
「素直に教えるわけないでしょ? お前たち人間のやることなんて分かりきってる」
「まあ、そうよね。ですが私も仕事ですので、なんとしても聞き出さないといけないの」
「ふん、頼みの暴力は通じないって分かったでしょ? お前、そこのオスより力が無さそうに見えるけど?」
「私は文系ですからね。体育会系とはそりが合わないの」
 リリィは煽るように言って見せたが、挑発に乗ってくれなかった。
(でも困ったなぁ……家に帰れない)
 拘束されていること自体は、たいした苦痛ではない。
 痛みはほとんど感じないといっても、エルフは自然を愛し、自然に生きる種族だ。ゴブリンやオークのように筋力が異常に発達しているわけではないので、天井の鎖を引きちぎることができない。
 皆が住んでいる森の奥へと帰れないことが、確かに精神的にも辛い。だが――
(あたしが帰ってこないことが分かれば、すぐに兄さんが動いてくれる……)
 リリィが尊敬してやまない兄は、一族の中でも飛びぬけて優秀な男性のエルフだ。森を守る親衛隊の隊長にして、武勇も数知れず。
 彼の助けになろうとして黙って人里に入り込んでしまったが、目に入れても痛くないほど自分を可愛がっている兄のことだから、状況をすぐに察知し、駆けつけてくるだろう。
 思案しているリリィを眺めていた軍服女が、「ふむ」とうなずく。
「早めになんとかしないといけないみたいね。おそらくお仲間が来るわ」
 すぐそばにいる男もうろたえている。
「なっ、あ、姐さん、そりゃマジですかい」
「彼女の表情を見てみなさい。いや、あなたには分からないか。とにかく、今の状況の絶望もしていなければ、むしろ期待の色が垣間見えるの」
 リリィはこのキキョウという女に、少なからず感嘆した。
 顔色をうかがっただけで判断するこの洞察力――人間の中にも、兄のような優秀な者がいるなんて。いつか、エルフの森を脅かすかもしれない――
(いやいや、考えすぎね)
 自分は待てばいいのだ。兄の到着を。
「も、もうおしまいだ! 居場所を吐かせなきゃ俺たちは殺されるし、このままでもエルフに殺されちまう……!」
 よく分からないが、この人間たちも仕事を全うしなければ死ぬらしい。やはり人間は野蛮だ。
「姐さん! ど、どうすれば……!」
「落ち着きなさいな、みっともない。まだ試していないことがある」
 声色に動揺が見られないキキョウは、軍服の胸ポケットからプラスチックのケースを取り出した。その中から、一本の透明な細い筒を取り出す。先端は長い針が付けられているそれは――
 確か、注射器。人間が使う小道具だ。
「な、なんですかいそりゃ」
「怪しげな商人から買った。説明を聞いて面白そうだったからね」
 注射器を器用にくるくる回しながら、エルフの娘へと迫る。
「あたしは病気なんかじゃないわよ」
「これは風邪薬とかじゃないわ。あなたの感覚をね、良くするお薬です。それとも注射は苦手?」
「あたしたちには、人間レベルの“痛み”なんて感じない。さっきもそうだったでしょ?」
「そうね。だからこれを使うの。手段を選んでいられないから」
 リリィはこの女の目が、ぎらぎらとした光を帯びているように見えた。表情には出さないものの、心の中では焦っているのかもしれない。
 注射器の針が、左腕にぷつりと侵入する。心得があるのか分からないが、静脈にうまく入り込んでいた。
 もちろん針の痛みなど感じないが、透明の液体が流し込まれているところを凝視していた。痛くないとはいっても、体内に得体の知れないものを注入されるのは、気分が良いものではない。
 それにしても――なんだか、妙だ。
 人間が扱う針なんかで痛みは感じないのに、流し込まれた謎の液体そのものが、あたたかい。
(いったい、何をしたの……?)
 左腕から、首、右腕、胸、腹、足、そして脳まで、血液を通してなにやら温かい感覚が行き届いていくのが分かる。それはどこか心地よく、なんとなく甘ったるくて――――
「あの商人の言うことが正しいなら、すぐに効き目が現れるよ。どれどれ……」
 キキョウは何やら色っぽい目つきで眺めてくると、おもむろに両胸をわしづかみにしてきた。
 その瞬間、胸からビリッとした感覚が脳まで突き抜けた。
「ひゃうっ!?」
 びくっ、とリリィの肩が跳ねる。
「おお、良い反応。確かに敏感になっているわね」
「あ、あッ……!? なにをしたの……!」
 見えない手で肌を撫でまわされるような感覚が全身にまとわりついている。リリィは動揺を隠せず、呼吸を乱し始めた。
「エルフといっても人間と構造はほとんど同じでしょう? これも良いんじゃない?」
 そう言ってキキョウは胸の先端へと指を伸ばし、そこを軽く引っかく。
「んっひぃぃぃッ!?」
 稲妻でも走ったかのように、リリィが悶える。
 こんな情けない声をこぼしていることが信じられなかった。
 知らないわけではない。女としての体の構造は理解している。
 ただ、今までそんな行為をしたことがなかった。
「ふうん? この私が羨むくらい美人できれいな体をしているのに、まさか初めてじゃないでしょう?」
「に、人間と一緒にしないで……! この変態種族!」
 性交渉――人間界でいうところの『セックス』は、エルフにとって極めて神聖なものなのだ。
 だって、生涯と共にするパートナーと、子孫を残すための行為なのだから。人間のように性欲を満たすためだけに、おいそれと体を簡単に重ねたりなんかしない。
「よくそれで何十年、何百年と生きていられるわね……」
 キキョウはというと、さも驚いたように口を開いていた。人生を損している、とでも言うように。
 彼女はたぶん、複数の男と“そういうこと”をしたことがあるのだろう。体にはオスの匂いがまとわりついているはずだ。
「触らないでよ! 汚らわしい!」
 リリィは嫌悪感むき出しの瞳でキキョウをにらみ返す。
 しかし女上官の目は、新しいおもちゃを見つけた子供みたいにきらきらしていた。
「あははっ! さすが神聖なエルフさま。ねえ、まさかとは思うけど、自分で慰めたりもしないのかしら?」
「は……? 意味分かんない」
「……言葉を変えましょう。自慰、マスターベーション、オナニー。聞き覚えは?」
「人間の言葉なんて興味ないわ」
「それじゃあなんて言うの? ほら、自分の性器をイジり倒して気持ちよくなることよ」
「はっ……!? な、なんでそんなことするの!?」
 頬が熱くなっているのは、さっき打たれた薬のせいだ、とリリィは思った。人間のこんな低俗な話で、心が乱れたりするわけが――
 答えを聞いたキキョウは、ああ、とため息を吐いた。
「なんということ……ランド、聞いた? エルフはオナニーもしないらしい。ていうかそんな知識すら持っていないようだ」
「は、はあ、そりゃあなんとも……いや、姐さん! こんなことしてる場合じゃないスよ!? エルフが襲ってくるってときに!」
「お前ねぇ、それでも男? 自己顕示欲が高くて人間を簡単に見下すエルフ族の女の子がオーガズムを経験したことがないんだよ? 教えてやりたいと思わない?」
 キキョウが後ろに振り向かないまま、背後のランドという男へ呼びかけている。
 すると彼は、明らかに焦っている表情だったのに、次第に口元を歪めて気色の悪い笑みを滲ませ始めた。
「へへ、へっへっへ。そ、そうですね。そりゃあ良い」
「でしょう? まだ時間はあるさ。この高貴な娘さんを下品な性知識で教育してあげよう」
 対して、キキョウはやはりおもちゃでも見つけたような顔。男女の違いなのかどうか知らないが、どちらにせよ気味が悪い。
「ほら、お前の好きにしてみなさい。悔しいことに私よりも胸は大きいし、弾力も申し分ないよ?」
「マ、マジですかそりゃあ! 触らせてくだせえ!!」
 ランドは上官であるはずの彼女を押しのけると、エルフ少女の乳房を両手でわしづかみにした。
「くあッッ!!?」
ただそれだけなのに、胸から全身にかけて、突き抜けるような刺激が駆け巡った。
「うおッ!? こ、こりゃすげえ! エルフの乳ってこんなに柔らけえのか!」
 加えて、男が乳房をグニャグニャと揉み始めると、さらなる刺激が生まれて胸部全体を熱で染めていく。
なんだか、全身の肌が粟立っている。リリィは初めての体験に、目を白黒させるしかなかった。
「ぁッ……! な、なに……!? なにこれぇ……!!」
「おーおー、やっぱり異性にしてもらう方がいいんだねぇ? エルフといっても女はやっぱり女なんだ?」
「な、なにを言ってるの! 馬鹿にしないで……!」
 いまのは明らかな侮辱だ――リリィはそう感じた。
 胸を触られているだけで味わわされているこの感覚も、きっと低俗な行為によりもたらされるものだ。
 絶対に、溺れてはいけない。
 リリィの瞳に力が宿ると、ランドがさらに下品な笑みを深くする。
「へっへっへ! いいぜぇ、そういう強気な女が好きなんだ。堕とし甲斐があるってもんよ!」
染み一つ無いきめ細かい肌が美しい乳房。
 興奮した男はさらに力を込めて、エルフ娘の生の乳房を形が変わるくらいに強く揉みしだく。
 さらに、何を思ったか胸元へ顔を寄せ、きれいな乳首を口に含んだ。
「んひッ!? ああぁぁぁ!!?」
 稲妻を受けたような刺激――それは紛れもない“性的快感”である。
 これは決して受け入れてはいけないものだ。リリィは、性行為というものを経験していない。だが、お互いを認めった異性同士によっておこなわれ、信頼や愛情を確かめ合うものだと信じていた。
 だから、今日初めて会ったような男の――しかも下劣な人間なんかに、快感をもたらされるなんて、あってはならないんだ。
 むしゃぶりつくように胸を嘗め回す男を、キッと睨み付ける。
「んくっ、や、やめて! パートナーでもないのにこんな、んッ、こんなことをするなんて……!」
「おや、さすが高潔なエルフは自尊心も強い。でもね~、男ならみんなこうなんだよ? 目の前に身動きできない女がいたら、襲いたくなるものさ」
「ふざけないで……! 女を襲うなんて、んんっ、は、恥を知、んあ゛ッ!?」
 反論しようとした矢先、新たな刺激に喉から声が飛び出した。
 男が舐め回すだけでは飽き足らず、乳首に歯を立て始めたのだ。
 固い歯でコリッと噛まれる感触――かすかな痛みと快感が入り混じる。
「う、うめえ……! エルフの乳首、すげえ甘いぜ……!」
「はぐっ――、か、噛んでる!? あたしの胸は、んあっ、食べ物じゃ、ない! くあっ、あひぃぃッ!?」
 リリィは身をよじって逃れようとするが、拘束されているため成す術がない。男の分厚い唇、ざらついた舌、固い歯で好きなように弄ばれるしかなかった。
 その様子を見ていたキキョウが、ふーむ、と唸る。
「噛まれてこの反応……もしかしたらマゾ体質かもしれないね。痛いのが好きなの?」
「は……!? なにを言って……!」
「世の中は広いからさ、いろんな嗜好を持つ人がいるものだ。まあ私は好きじゃないけど」
 そう言うと女上官は、胸を愛撫されて悶えているエルフ娘の長い耳に唇を寄せ、
「分かるよ……? 痛くされて気持ちよくなってるんでしょ?」
 浅い吐息と一緒に耳元で囁かれて、ぞわっと体が震える。
 何がなんだか分からない――だけど、揉みくちゃにされている乳房や、体中は火照って熱くなっていることは事実だった。
(意味が分かんない! 痛いのが気持ちいいって……!?)
 リリィとしても、痛みを感じないということもない。人間が介すると“精霊の加護“が働くから痛覚として届き得ないだけで、たとえば森で転んだりすれば痛いのだ。
 だが、痛みはあくまで痛み。転んで足をすりむいたり、動物に噛まれることだってあるけれど、気持ちいいと感じたことなんてない。
(あの注射のせい……!)
 キキョウが手にしていた注射器が頭に浮かぶ。怪しげな薬を打たれた後から、胸への刺激によって体が熱を帯び始めたのだ。
「や、やめてよ……! こんなの、ずるい……!」
「こっちも命がかかってるからね。やめてほしいなら、どうすればいいのか分かるでしょう?」
「くっ……!」
 リリィは口をつぐむ。
 彼女と男の目的は当初から変わらない。それはリリィにエルフの里がどこにあるのかを喋らせることだ。
(みんなを売るなんてあり得ない……人間じゃあるまいし、そんなことするもんか!)
 ならば、リリィとしても決意は変わらない。兄の到着を待つ。それまで耐えればいいだけだ。こんな不純な行為に負けるわけにはいかない。
 強く歯を噛みながら睨み返すと、
「ああ~、良い顔だね。もっと刺激的なことを教えてあげよう」
 女上官は動じずにクスッと微笑むと、いつまでも柔らかな胸をいじりまくっている男に視線を向ける。
「ランド、お前のプライドを取り戻す時がきたよ」
「はあっ、はあっ――――あ? す、すいません、なんですかい?」
「おっぱいを楽しむのもいいけどね……そもそも目的は、口を割らせること。でなきゃ私たちは上から懲罰を受けるんだからね」
「あっ……! そ、そうでした! しかし、こいつの体は頑丈で……」
「今はどんな感覚にも敏感になっているから、もう一回試してみな。自分の力が通用しなくて、イラついていたろ? しかも相手は女だ。男の強さを思い知らせたくないか?」
 リリィのすらすらと言葉を紡ぐと、ランドの表情が次第に怒りへとシフトしていく。先ほどまで女の体をへらへらと笑いながら好き放題にしていた顔がほとんど消えていた。
 このキキョウという女は、言葉巧みに他人の感情をコントロールする話術を持っているようだ。ランドが単細胞といえばそれまでだが、それを踏まえても、誰かを操り人形にする力がある。
「お前のその無駄に鍛えられた筋肉はなんのためにあるんだ? そう、暴力で女を屈服させるためだよ。そして今、お前は人間の代表だ。エルフを力で打ち負かす瞬間を、私に見せてくれない?」
「姐さん……! 承知しましたぜ! エルフだろうがなんだろうが、女は女だ。男には勝てないってことを教えてやる!」
 まんまと乗せられた禿げ頭の男は、右拳を固く握り込んだ。大木もへし折りそうなほど、太くがっしりと発達した腕の筋肉が隆起する。
「だから無駄だって言ってるでしょ……! 精霊の加護があるんだから!」
 精霊の加護は、いわば目に見えない障壁だ。物理法則や悪意を捻じ曲げる効果があり、欲望にまみれた人間の力には特に効果がある。尋問開始時点で殴られていたが、一切ダメージを受けなかったのがその証拠。
 頭の悪い暴力なんかに、自然を司る精霊から授かった加護が負けるわけない――強い意思を宿したリリィは、筋肉の塊のような右腕が大きく振りかぶるのを視線で追った。
「うおおおおおおお!!」
 野太い声で叫びながら、ランドが右のボディブローを打ち込んでくる。
 加護によってたやすく弾き返せるはずの拳が、柔らかな腹へと、ズボッとめり込んだ。
「う゛ッ――――!??」
 エルフ少女は大きく目を見開くと、次に美貌が崩れ、口から唾液の塊を吐き出した。
「かはッ――!? ぅえっ、ぐ、げほっ――!?」
 突然の衝撃と激痛で脳がパニックに陥る。
 殴られたことで下がった視線の先には、きめ細かい腹部の白い肌を大きく巻き込んでめり込んでいる、男の拳。それは半分近く沈み込んでいて、内臓を圧迫していた。
「あらら……あの薬は感覚だけじゃなくて、肉体も人間レベルに落とし込んだみたいだね。あなたはもう、ただの人間と同じだよ。加護とやらはなくなっている」
「げほっ、けほっ……! そ、そんなこと、あるわけ――!」」
「そうは言うけど、苦しそうじゃない? 痛みは感じないんじゃなかったの?」
「ぐっ……、これくらい、なんてことない……! 人間の力なんて……!」
 そうだ、今のは油断していただけだ……人間の力で苦痛を感じるなんてあり得ないのだから……!
 自分にそう言い聞かせて、腹部の痛みから強引に意識を逸らす。
「ふうん? 大したことないそうだよ、ランド。このままだと厳罰だね?」
「そ、そりゃ勘弁ですよ! こいつ、ぜってぇ後悔させてやる!!」
 己の未来が閉ざされかねない状況だから、彼も必死になるしかなかった。再度拳を握りしめると、先ほどと同じ箇所と拳を突き入れる。今度は臍の上だ。
「ふぐッ――――!!」
 二発目は、やや甲高い音で着弾した。リリィが咄嗟に腹筋へ力を入れたから、あまりめり込まずに済んだ。
 彼女も森の中で生きていくために、肉体は適度に鍛えられている。しかし兄のような戦士ではないから、あくまでも“体つきが良い”といった具合だ。
「まだまだぁ!」
 男は遠慮なく、スレンダーな腹へと左右の連打を浴びせていく。やはり殴り慣れているのか、いずれも内臓を的確に責めるようなパンチだった。
「う゛ッ! げぅっ――! ぐッ、うぎッ――!!」
 リリィは俯きながらも歯を食いしばって耐えるが、どんどん腹筋の力が失われていく。それは打撃音が固いものから、次第に柔らかく鈍い音へと移り変わっていくことで、ランドとキキョウにも容易に判断できた。
 特にランドは、拳が柔らかな肉の感触を捉えることで、確実な手応えを感じ始めていた。
「へへっ、どうだ? 俺の拳は効くだろ?」
 一旦パンチを止めて、エルフ少女の顔を覗き込む。
 すると彼の鼻の頭へ、粘っこい唾液が飛んだ。リリィが口に溜まっていた唾液を吹きかけたのだった。
「ぅ、げほっ、ごほッ! 恥を知りなさいよ、はぁ、このクズ――ごふうぅううぅぅぅッ!?」
 反抗する態度を見せつけた矢先、ランドの拳が腹へと鋭く突き刺さった。
 ちょうど酸素を求めて吸い込もうとした時だったから、腹筋にほとんど力が残されていなかった。柔らかな状態で受け入れるしかなかった腹肉は、男の拳をずっぽりと飲み込み、奥にある胃の辺りへ衝撃を与える。
 致命的な猛打をくらったリリィは、胃がよじれる感触を確かに感じ取った。
 腹筋と胃の間を突き抜ける、鈍痛。
 額から冷たい汗が吹き出て、しなやかな肢体がビクッと痙攣する。喉の奥から何かこみ上げてきて、視界が一瞬ぼやけた。
「うぷッ……!? う゛っ、うごぇええぇぇぇぇっ!!」
 美しい声色のリリィとは思えない濁った声。それと一緒に、ぷりっとした唇を透明な胃液が割って飛び出した。びちゃりと床に吐いた後でリリィは深くうなだれ、手首の鎖が音をたてて軋む。
「あはっ、きれいな胃液だね。ちゃんと食べなきゃダメじゃないの」
 痛めつけられている姿を見て、キキョウはやはり笑っている。おそらく彼女にとってはエルフだろうが何だろうが関係ないのだろう。対象を思い通りにコントロールできていることに喜びを感じているのだ。
(ううっ――最悪だ――こんな、汚れた人間なんかに――!)
 確かに、殴られたことにより痛みを感じる。腹部に鉛が埋め込まれているような重みと鈍い痛みが、ズキズキと残っている。胃液を吐いた喉も熱い。
 だが、人間という生き物に好き放題されていることが何より屈辱だった。そしてその悔しいという感情が、リリィの心をまだ折らせてはいない。
「こ、こいつ……まだそんな目ができるのか……!」
「ふーむ、どうやら私たち人間には絶対に負けたくないらしい。エルフというのは本当にプライドが高いね」
「ちくしょう! それならもっと殴りつけて――」
「待った待った。この娘にただの暴力は効かないよ。仮に白状できるとしても時間がかかる。その前にお仲間がやってくるだろうね」
「じゃ、じゃあどうすりゃいいんですか――!?」
「……最初に戻ろうか。ああ、調教だよ調教。このどうしようもなく尊厳の高いプライドを、快楽で堕とすしかない」
 キキョウの声色が少し低くなっていたのは、いよいよ危機感を持ち始めたからかもしれない。ともかく彼女は、あの注射器を再び取り出した。
 それを見たリリィがぎくりと肩を強張らせるが、女上官はわき目も振らずに、針を彼女へと向ける。
「なっ……ど、どこに刺そうとしてるの……!?」
「どこって、おヘソだよ」
 そう答えるとキキョウは、エルフ少女の臍へとためらいなく針を刺し込んだ。
「んぃっ――!!?」
 ぞくぞくっ、と神経が震える。小さく細い針のチクリとした感触でさえ、脳天に何か走る感覚があった。
(ああ……入ってくる……熱い……!!)
 注射器の液体が注がれていく。腕から入れられているときよりもはるかに熱く、そして心地よいものだった。寒い冬に温かいミルクを飲んだときのように、まろやかで、腹部の奥の奥にまで染み渡っていく。
 液体を全て流し込んだ注射器を引き抜くと、小さな臍から血が小さい泡のようになってこぼれ落ちた。
「よし、全部入った。もうあなたのお腹は――内臓全てが性感帯みたいになっているはずだよ? ほら」
 キキョウは注射器を放り捨てると、臍の下を手のひらでグッと押し込んだ。
 するとリリィの子宮が、外から少し押されただけで敏感に反応する。
「んぃぃッ!? ふあっ……❤」
 ついに彼女は、嬌声をその小さな口から漏らした。
(なっ――なに今の!? 声が――!)
 胸を愛撫されるよりも激しい感覚。それは女としての本能を掻き立てる、性的な快楽だった。
 リリィは子宮の役割を知っている。しかし、ただ知識として持っているだけで、それを直接刺激されることでどうなるか、というのは全く知らなかった。
「おおっ、薬の効果てきめんだ。ここを押されるだけで感じるなんてね」
「か、感じてなんかない……! 今のは違うんだから……!」
 その『感じる』という言葉の真意は読み取れなったが、どうにも嫌な気配がしたのだった。きっと認めてはいけない言葉だ。
「そう? それにしてはモノ欲しそうに体が震えてるけど。もっと触ってあげようか?」
 そう言ってキキョウは、次に二本の指を下腹部に押し込んだ。ズブリと細い指が柔らかい腹肉に沈み込んで、奥にある“女の部屋”に接触する。
「あっ❤ ほおぉぉッ❤」
 強気な表情が一瞬で崩れて、艶のある声が部屋に響く。
 指はそのままこね回すようにして、グリグリと下腹部を何度も刺激していく。
「ひっ❤ あ、や、やめっ……おふっ❤ やめてっ……」
「やめてほしいなら、どうすればいいか分かるでしょう?」
「くぅッ……!!」
 崩れてしまった表情を慌てて引き締める。そうだ、エルフの森の場所を教えてしまったら、何もかも終わりなのだ。
 仲間たちを――兄を売るなんてあり得ない。そんなこと、絶対にするものか。
 確かにこんな下劣な行為によって大きな屈辱を味わっているが、自分ひとりがしばらく耐えればいいだけのこと。
 幸いなことに殺すつもりはないようだから、時間さえ稼げば――
「時間を稼げればいいと思ってる? ……そうね、こちらもグズグズしていられない」
 キキョウは下腹部から指を離すと、耳元に唇を寄せた。
「あなたは痛いのが好きなんでしょう? 今ならきっとすごい体験ができる」
 囁き声が鼓膜を通して、腹の中にまで浸透してきた。声だけなのにゾクッと下腹部が反応を示す。
 女上官はにこりと微笑んだ後、隣で興奮気味の男、ランドに位置を譲った。
「ほら、お前の番だよ」
「お、おおお……! 姐さん、もしかして、つ、突っ込んでいいんですかい!?」
「いやダメ」
「え!? そんな、こんな最高の女を目の前にしておあずけなんて!!」
「気持ちは分かるけどね、お前はまだこの娘を負かしてないんだよ? その力でまず屈服させないとヤらせてあげな~い」
「そ、そういうことなら、もう一回チャンスください! 次こそ泣かせてやりますから!」
 美少女といって差し支えないリリィを犯すことができると思うと、彼はさらに躍起になったようだ。再び拳を構えて、呼吸を乱しているリリィを睨み付ける。
 やはり痛めつけようというのだろうが、先ほどのパンチの連続を受けても、リリィの心は折れなかった。むしろ、この男の力なら耐えられるという自信さえある。
「はぁ、はぁ、懲りない男ね……! お前なんかのパンチじゃ、あたしは……!」
「うるせえ黙れ! ぜってえ許しを乞わせてやる……オラァァァァ!!!」
 ランドは角張った拳を握りしめると、リリィの白くて透明感のある腹部へ――臍の辺りに、再びボディブローを叩き込んだ。
 ドブッッ!! とくぐもった音がして、固めていたはずの腹筋がへこむ。
 固い拳が皮膚を巻き込みながら、メリメリと腹肉にめり込む。
 臍の奥にある小腸が、ビクッと震えた。
「ぁ゛ッ――❤」
 殴られた“痛み”の中に、紛れもない“快楽”を彼女は体験した。
「ああ――!? ひ、ひぎっ❤ んひいいぃぃぃッ❤」
 表情が明らかに蕩けている。両膝がガクガクガクッと震え、どうしようもなく甘美な声をこぼした。
(なっ、なにこれ――!? あたし、なにが――!!)
 かつてない体の昂ぶりに、エルフ少女の脳が次第に甘く溶け始めていた。
 そして、彼女の腹を殴打した張本人も動揺を隠せない。
「あ、姐さん……! こいつはいったいどうしちまったんですか……!」
「さっきも言ったでしょう? 薬をたくさんキメちゃったから、この娘の内臓はどうやっても感じるようになってる。痛みさえ快楽として認識するんだよ」
 またしてもおもちゃを見つけたように、キキョウは“悪意のない笑み”を浮かべた。
「ほらほら、もっと殴ってあげたら? このエルフさんは、痛いのが気持ちいいみたいだよ。男なら女を悦ばせてあげないと」
「承知しやした! へへっ、こいつは最高の女だぜ!」
 ランドは下衆な笑みをにじませつつ、むき出しの腹部へと乱暴な殴打を再開する。
 ドスッ! ドスッ! ドズゥッ!!
「ほぐッ――!? んお゛っ❤ や、やめっ……! おぐぅぅぅッ❤」
 二発、三発と臍の周辺に拳が突き刺さるたび、リリィは表情をころころと変えた。拳がめり込む瞬間は痛みで歪むが、すぐに悦楽へと淀む。
「殴られて気持ちよくなるたぁ、とんだ変態だな! エルフの女はみんなこうなのかぁ!?」
「ち、違っ……これは変な薬のせい……お゛ほぉぉッ❤❤」
 もう一発がズムッ!とめり込むと、リリィのしなやかな肢体が悦びで跳ねる。
(ああっ――! 殴られているのに――お腹の奥が熱い――❤)
 体がどうしようもなく反応し、ビクビクと痙攣してしまう。
 彼女はさらに、股の辺りがとろりと湿り気を帯びていることを自覚し始めた。
 キキョウは鋭く気づいて、
「しっかり濡れてきたね。よっぽど気持ちいいみたいだ」
「あ、あひっ――? 濡れ、てる――?」
「ああ、あなたはまだ経験がないんだったね。だけど心配いらない。濡れるのは女として当然の反応だよ」
 しゃがみこんだキキョウは、エルフ少女の濡れた股へと指をあてがう。すると「んはっ❤」とリリィが喘いだ。
「へっ、やっぱりエルフでも女は女じゃねえか。もっと殴ってほしいんだろ? そらぁ!」
「むぉぐッ!? ほぉ゛っ❤ や、やだっ、やだぁ❤」
 また一発殴られると、湿った声と、割れ目からとろりとした蜜が溢れ出す。
「あ、そのままそのまま。拳でグリグリしてみて」
 臍にめり込ませた拳を、ランドは言われたとおりに左右にねじり回した。
「ぐうぅぅぅッ!? んぃぃ❤ いやッ……そ、それだめッ、お゛ぉ❤ だめェ……❤」
 小腸がグチグチ、ヌチヌチと音をたててかき回された。想像を絶する痛みに、滅茶苦茶な快感が伴っている。
 拳がねじられるたびに、まるで雑巾を絞るみたいに愛液が零れ落ちるのだった。
 そして、彼女は気づく。
「はッ……!? な、なにか、くる……広がってくるっ!?」
 体の奥底から、何かが膨らんでいる。
 何が、といわれると分からない。だけど何か、自分の中にある何かが、風船みたいに膨らんで、弾けようとする前兆を感じ取ったのだ。
「イキそうになってるね? よし、とどめはここだ。最高の絶頂を味わわせてやってよ」
「へい! おらっ、その敏感な腹もっと突き出せ!」
 彼らが何を言っているのか、分からない。
 だけどリリィは――女としての本能は欲していた。
 男の腕の筋肉が脈打つのを見たとき、彼女は下腹部の奥が『きゅんっ』と震えるのを感じる。
(あ、あれだけの力で殴られたら……潰れてしまうかも……)
 だけど、子宮が期待している。
 拳を待っている。
 殴り潰してほしい、と声をあげている。
彼女は赤い打撃痕が残っている引き締まった腹部を、無意識に男へと突き出していた。
「へっ、殴られるのが好きなマゾエルフが! 子宮に拳をぶち込んでやるから喜べ! うおおおおおおおおっ!!」
 ランドは咆哮しながら、最大限の力を込めたボディブローを放つ。
 空気が低くうなるほどの速度で、分厚く硬い拳が臍の下に着弾した。
「ひぐッッ――――!!?」
 まず腹の皮膚が、パンッと甲高い悲鳴をあげる。
 続いて腹肉をへこませながら、ズブズブと奥へ沈んでいく。
 快感によってたるんでしまった腹肉は、男の拳を包み込むにようにして歓迎した。
「ぁ……がッ…………!!」
 握られた指関節が、ついに子宮へ到達する。
 弾力のあるコリッとした感触が男に伝わっただろう。
 それでもまだ留まらず、彼は拳を押し込み続ける。
「――――ッ! ――――ッ❤」
 ついに、手首までズボリと腹肉に沈み込んでいた。
 拳は子宮まで完全に届き、その形を歪ませていた。
 ミチッ……と子宮が“喘ぐ”。
 リリィの中で膨らみ続けていた快感の風船が、炸裂した。
「ああ゛っ❤ はあ゛あ゛ぁぁああぁぁぁぁぁ゛――――――❤❤❤」
 エルフ少女は人生で初めての絶頂を迎えた。
 体が逆に曲がるくらい弓なりになって、ビクビクビクッと大きく痙攣しながら、おびただしい量の蜜液を噴き出す。
(ほごっ❤ こ、これすごっ❤ すごすぎッ❤ 頭ヘンになるッ❤)
 パチパチと頭の中で火花が散っている。年頃の少女らしい生意気そうな顔は幸せの色で満たされていた。
 とにかく何もかも真っ白になって、とにかく“気持ちいい”という濃厚な快感のみが全神経に刷り込まれていく。
「おーおー、すっごい。これで達しちゃったらもう他のやり方じゃイケないだろうね」
 悶えているエルフ少女を見つつ、キキョウがまた耳元へ近づく。
「どう? これが絶頂だよ。女が悦んでいる証拠だ」
「ぁひっ、ぜ、ぜっちょ……?」
「そ。ほかにもいろいろ呼び方あるけどね。アクメとかイッたとか。あ、イキたいって言ってあげると、男は喜んで同じことしてくれるよ?」
 悪魔の囁きとも言うべき、キキョウの言葉。
 先ほどのような感覚をまた味わえる――あまりにも下品で、下劣で、非常識で、かつ魅力的だった。
 絶頂の余韻がまだ抜けきっていないリリィは、両脚を震わせながらも、なんとかエルフとしての自覚を拾い上げる。
「ち、ちがぅ――こんなのおかしいっ。殴られて、イ、イクなんて、おかしい――! だって、男はやさしく――!」
「子作りの知識はあるんでしょう? どう聞かされていたの? セックスでは男がやさしく、女をリードしてあげるとか?」
「そ、そうよ……! 女を殴るなんて、あり得ない……ッ」
「人間はもっと最低最悪で欲深いんだよ。痛めつけられることが好きな女だっているんだ、あなたのように」
「だからちがうっ、それは、く、薬が……!」
「うーん、なんでエルフってこうも自尊心が高いんだろうね。楽になればいいのに。ランド、もっとイかせないとダメみたいだ」
 ぎくり、とエルフ少女の体が強張る。
 またあの感覚にされてしまうのか――そう考えると、心は拒否しているはずなのに、子宮がヒクついてしまうのだった。
「バカな女もいたもんでさぁ。だけど俺に任せてください。自分から殴ってほしいって言うようになるくらい、アヘらせてやりますぜ」
「そ、そんなこと、言うわけが……!」
「せいぜい意地を張ってな。すぐ楽にしてやるからよォ!」
 そうして彼は、エルフ少女への殴打を再開する。ランドは大柄で筋肉質で鬼のような体力を持っているから、疲れ知らずだった。
 ほとんど威力の変わらない左右のボディブローが、連打となってリリィの内臓へ突き刺さる。
 ボグッ! ズヌッ! ドブッ!!
「ぐぶッ!? お゛っ❤ こ、こんなの、うぶぅぅぅぅ!? かはっ、ま、負けない――お゛ぉぉぉぉッ❤ はぁッ、す、すごッ❤」
 腹を殴られるたびに、彼女は気持ちよさそうに呻いた。苦痛と快楽が混ざりに混ざって、全神経を麻痺させ、判断力を低下させていく。快楽で強引に脳ミソを改変させ、肉欲だけを感じさせる。
先ほど達したばかりなのに、もう彼女は同じ快感の波が昇ってきたのを感じた。
「ひッ――!? ま、また、くる……! これっ、これダメなのに――! 勝手にあがって来るッ――!!」
「さっさと認めろ! お前は殴られて悦ぶマゾなんだ! 俺の拳で感じるド変態エルフなんだよ! もう一回イッちまえ!」
「ごぽっ❤ んほっ、い、イクっ!? おごぉぉぉっ❤ また、殴られて――!? あ゛ッ❤ お、おなか、おなか殴られてイクッ――!?」
「そうだ、腹を殴られてイけ! 次は胃袋でアクメキメろ!! どらあぁぁぁぁぁ!!」
 グボッ!! と大きな拳が上腹部を突き上げる。
 もはや彼女の薄い腹筋も機能せず、暴力を受け入れるしかなかった。
「う゛ぇっっ――――!!?」
 拳が腹筋まで巻き込んで胃袋に“挿入”される。
 ボチュッという胃袋が潰れる音。あまりの威力に背骨までミシリと軋んだ音を、リリィは体内を通して聞いた。
 その音と痛みが快楽信号に拍車をかけ、一気に脳を真っ白に染め上げる。
「ごぼッ!? う゛ぉ❤ お゛ぅげえええぇぇぇぇぇぇぇぇぇ❤」
 誇り高いエルフ族の少女は、嘔吐と共に絶頂した。
 上の口から汚い液体、下の口からメス汁をビシャビシャと撒き散らす。
 胃袋が潰れた痛み、行き場を失った内容物の逆流さえ、彼女にとっては快楽でしかなかった。
「げぼっ、げほっ❤ ほぉ゛❤ お゛え゛えええぇぇぇぇぇぇ❤」
 白い吐瀉物をボトボトこぼしながら、リリィは恍惚した表情でせき込み、喘ぐ。
 気持ち良かった。
 気持ち良すぎた。
 リリィはすっかり、顔をメスにしていた。
「へっへ、ゲロ吐きながらアクメしやがった。そら、気持ちよすぎてアヘってるじゃねえか。どうだおい?」
「はあ゛――っ! は、はいぃ――❤ 気持ち、良いですっ❤ 良すぎて、吐いちゃいましたァ――❤」
 もう、完全に堕ちていた。
 性感帯にされた内臓を繰り返し殴られ、子宮と胃袋でアクメさせられて。
 それが“男女の性行為”であると認識してしまった。
(こんな、こんなに気持ちいいなんて――❤ 皆にも教えてあげたい――❤ もっと知りたい――❤)
 口から胃液をだらだらと垂らしながら、彼女は目の前の男を見つめる。快楽で淀み、うるんだ瞳は、
 完全に肉欲に溺れる女でしかなかった。
「へへっ、モノ欲しそうな目をしやがる。そんなに俺の拳が気に入ったか?」
「はいぃっ、さ、最高っ――❤ もっと、もっと殴って――❤ あたしの内臓、ぼこぼこにしてッ――❤」
「しかたねえな、この変態エルフめ。ミンチになるまで殴りまくってやるよ。嬉しいか?」
 ミンチ、というワードにリリィはどうしようもなく興奮し、自分の胃や肝臓がペースト状になっている様を想像し、それだけでイキそうになった。
「し、してっ! ぜんぶグチャグチャになるまで、おなかぶん殴ってぇ……! は、はやくイかせて❤」
「へっへ、望み通りにしてやるさ。簡単にくたばるなよ?」
 ギチギチと拳を握りしめ、ランドの視線が赤く腫れている腹部へと注がれる。
 その視線だけでもリリィの子宮は疼く。早く殴ってほしい、と声をあげ、強烈な一撃を待ち望んでいる。
 何度目かのボディブローが放たれ、エルフ少女の上腹部へと打ち込まれる。が、
「オラァァッ!! ――いでッ!?」
 渾身のパンチは確かにリリィの上腹部へと直撃したが、まるで大木を殴ったような音と共に、太い腕ごと弾かれていた。
 え、とリリィは目を白黒させる。拳が突き込まれる感触があったものの、それだけだった。何かが守ってくれたみたいに、痛みを感じないのだった。
 そう、なにか加護が働いたみたいに。
 それまで男と女の性行為を眺めていたキキョウが、
「あらら、どうやら薬が切れちゃったみたい。残念だけどここまでのようだ。はい終了」
「姐さん!? そんな! こ、これからって時に!」
「終了って言ったでしょう。残念だけど今回は彼女の勝ちだ。時間までにエルフの居場所を吐かせることができなかったんだからね」
「え……? え……?」
 嘔吐アクメの余韻と、これから訪れるはずだった被虐的な絶頂がおあずけになってしまい、リリィは口をぽかんと開けている。
 彼女は故郷を守ったということになる。しかし、体の昂ぶりは止まっていないし、子宮を含む内臓も今か今かと拳を待っているのだ。
(もう……終わりなの? そんな……こ、この熱くなった体はどうしたら……!?)
 絶頂を寸止めされた状態のエルフ少女は、紅潮した頬をひくひくと痙攣させている。
 そんなエルフ少女の表情を見つつ、キキョウはさも残念そうに眉尻を下げた。
「負けたよ……いやはやさすがエルフさまだ。私もちょっと反省しよう。こんな下品で頭の悪いやり方でなんとかしようと思っていたんだからね? お詫びを込めて――」
 キキョウは白衣の中に手を忍ばせると、再びあの注射器を取り出した。
 中には、あの液体が満杯。
「念のため予備に持っていたが、んな悪魔のような薬はここで破棄しよう。せめてもの償いだ。今から叩き割って見せるから、そこで見ていて――」
「ま、待って!! んッ――」
 ほぼ無意識で、彼女は叫んでいた。声を荒げたことで腹部が余計に痛んだが、それすらも心地よく、股の下が熱くなる。
 キキョウは何かを確信したのか、フッとほくそ笑んだ。
「おや、どうしたの? この薬はあなたを辱めるものだよ? まあ――」
 たっぷり一呼吸の間、彼女はリリィの淀んだ瞳を見つめ返す。
「大切なことを教えてくれるなら、またこの薬を使ってあげてもいいけど?」
 その言葉は、リリィにとってあまりにも魅惑的で、官能的で、抗えないものだった。腹を殴られると絶頂してしまうように開発された体と脳が、全身に再び“性欲”の信号を送り出す。
 兄や友人の顔が、蜃気楼みたいに消えていく。
「ああっ……! い、言う! 言います! みんなが住んでるところ教えるから……! だから! も、もっとイキたい……❤」
 口元を胃液で汚しながら。
 割れ目から蜜を垂れ流しながら。
 湿った声で。
 子宮をひくひく震わせて。
 エルフの少女リリィは、性欲に溺れた。
 だらしない表情のエルフに、女上官は大きくうなずく。最初からそのつもりだったように。
「いいでしょう。じゃあ先に教えてね? そうしてくれたら、この男がお腹をたっぷり殴ってあげる」
 注射器を見せつけられると。
リリィは欲望を優先し、兄と仲間を売った。

*

 何度達したのか、もう分からない。
 足元には唾液や胃液、小さな固形物が混ざった吐瀉液、そして割れ目からあふれ出た愛液が大量にまき散らされている。
 汗や吐瀉物の匂いが充満する部屋。その鉄製の扉が、唐突にけたたましい音をたてて切断された。
「な、なんっ――!?」
 部屋の中で少女に暴行を繰り返していた禿げ頭の男は、そちらに振り返った瞬間に声を出すことができなくなった。
 侵入者に首を斬り落とされたからだった。
 筋肉の塊のような胴体と頭部が見事に切断され、汚れきった床にどさりと崩れ落ちる。
「リ、リリィ……! なんということだ……!」
 その力強くやや低音の声色は、エルフ少女の耳に溶け込んでいくようだった。
 耳長のリリィよりも分厚く長い耳に、同じ色の頭髪。剣を手にしている彼は、紛れもなく彼女の兄である。
 その背後にいる部下の一人が、
「隊長、女の匂いがもう一つありますが、いません」
「逃げたのか。探せ!」
「承知」
 兄の命令が飛ぶと、部下たちは部屋から退出していった。
「あぁ……にいさん……?」
「リリィ……! こんなになるまで殴られたのか?  この男が……!!」
 激高した様子で、兄は床に転がっている禿げ頭を剣で突き刺した。赤黒い血がどろりとあふれ出す。
 普段は感情をあらわにしない彼が、こんなになるとは。妹であるリリィは、自分が兄に思われている感じ、安心感を得た。
 
 だが――
 先ほどまでの昂ぶりは止まっていなかった。

(い、いまさっき、イクところだったのに……! 次で気持ちよくなれたのに……!)
 禿げ頭の男――ランドは殺される直前まで、少女の腹部をひたすらに殴り続けていた。細かい連打で絶頂感を次第に高めていき、達するときは必ず大きく振りかぶるようなボディブローで盛大にイかせてくれる。
 そのとどめとも言うべき一撃を前にして、兄が彼を殺してしまった。
 だから、今のリリィは寸止めされて生殺しの状態なのだった。体が小刻みに震え、頬を朱色に染め上げ、犬のようにハッハッと呼吸を繰り返している。
「かわいそうに……! いま解放してやるから、じっとして」
 兄は優しい声をかけながら、剣を構えて天井の鎖を見上げた。
 その姿を潤んだ瞳で見ていた妹は、ボコボコに変形している子宮がブルッと反応したことを感じた。
(ああっ……兄さんの腕……たくましい……)
 剣を手にしている腕。ランドのような暴力的な塊ではなく、戦士として鍛えられ、ほとんど無駄のない筋肉。
 きっと、妹である自分を守るために肉体をつくりあげてきたであろう兄。そんな彼を見ていると――
(だ、だめっ……兄さんをそんな目で見ちゃいけない……でも……)
 血がつながっている肉親なのに、リリィは弱りきっていた心臓の鼓動が早くなるのを感じた。じわり、と胸があったかくなり、痣だらけの腹筋がヒクヒクと反応する。
(もし兄さんが殴ってくれたら……ぜったい気持ちイイ……❤)
 イキかけていた体が、”男”を求める。
「にい、さん……お願いがあるの……」
「ああ、待ってくれ。今すぐ鎖を斬って――」
「違う……! あたしの、お腹を……殴って……!」
 そう口にした彼女の目は、兄を男として見上げ、媚びを売る”女”になっていた。
 兄は妹の言葉を理解できず、固まっている。
「お願い……! い、一発だけでいいのッ! このままだとあたし、あ、あたし……!!」
「ど、どうした……何を言っているんだ!」
「我慢できないっ、イク寸前で、気が、狂っちゃうッ! だから、お願い……! お腹殴ってェ……❤ 兄さんの拳でイかせてくださいぃぃぃ❤」
 目を潤ませて。
 ボコボコに殴られて変色した腹部を突き出して。
 秘部からとろとろに蜜を垂れ流して。
 リリィは壮絶な絶頂を求めて、兄を誘惑するのだった。

★大庭こころは諦めない

お題箱からいただいたものを書きました。全部じゃないので、続きあるかもしれません。

・空手を習っていて腹筋が割れてるスレンダーな女子中学生が、空手の大会の前日に潰し屋と思わしき連中に路地裏に連れこまれ、壁際で何十発も発勁を腹に叩き込まれてゲロを吐きのたうちまわって悶絶。
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 空手の稽古の帰り道、大庭こころはスーツ姿の男たちに取り囲まれた。
 日はほとんど暮れて薄暗く、路地裏だから他に誰も見ていない。もし誰かいたとしても、巻き添えを避けて見て見ぬフリをするだろう。
「なーによ、たった女子中学生相手に大人が三人がかりとか。恥ずくない?」
 ショートヘアにセーラー服の大庭こころはむしろ鼻で笑って、大人たちを見回した。
 こころは小柄というわけでもないが、やはり中学一年生の少女と成人男性では体格が異なる。しかしそれでも男たちの方が怖気づいていた。
「や、やれぇー!」
 一人が迷いを振り払うようにして、彼女へと襲いかかっていく。
 こころはまず、通学鞄を右から来る痩せ気味の男の顔面へ向けて放り投げた。男は咄嗟にそれを受け止めたが、その隙にこころが懐に入り込んでいて、
「ふッ!!」
「ぐえっ!?」
 相手のボディ目がけて右拳を打ち出すと、鈍い音が響いて男の体が吹っ飛んだ。
 続いて左から来る男から、大振りなストレートパンチが飛んでくる。分かりやすい軌道の拳をするりと避けて、軽く足を払ってやると、男は無様にひっくり返った。
 あっさりと二人の大人を返り討ちにした女子中学生のこころは、まだ殴りかかってこないもう一人の男に視線を送る。
「……あんた、なんかやってるみたいね」
 三人のうち、その一人だけはすこし様子が違った。
ただ立っているだけだが、姿勢がやけに良い。雰囲気もなんとなく、自分と同じ系統の人間だと察した。
「見ただけで分かるとは、さすが大庭こころさん。お会いできて光栄です」
 男は、顔を隠すためのサングラスを外した。
 こころの観察力で見ると、二十代後半といったところだった。顔立ちは別に悪くないが、良く言えば優しそうで、悪く言えばあまりパッとしない。二、三日経ったら忘れてしまいそうな顔だった。
 ただ、地面で転がっている二人の男よりは、間違いなく強い。
「僕は……そうですね、クラッシュとでも呼んでください」
「なーにそのあからさまな偽名っていうかあだ名みたいな……」
「まあまあ、それはともかく。前々からあなたに会いたかったのです。まずは挨拶を――」
 そう口にしたクラッシュとかいう男は、軽く膝を曲げた。
 彼の体がゆらりと動く。陽炎のように。
 その直後、彼の体が一瞬で接近してきた。数歩の距離があったのに、一呼吸よりも早く肉薄してきたのだ。
(ッ!?)
 訓練してきた視認力と判断力で、こころはほぼノータイムで反応した。だがそれでも、男の攻撃を避けることは不可能だと分かった。
 だから、彼が拳を打ち込もうとしている箇所の筋肉を固めて、守りに徹する。
 バチッ!
「んっ――!」
その拳は、確実に少女の腹部をとらえていた。しかし、打撃音は肉を打ったような音でもなく、人体が発するような音でもなかった。
 むしろ、クラッシュの方が弾かれるようにして、足元をよろめかせながら拳を引いたのである。
 こころは軽くため息を吐いてから、おもむろにセーラー服の裾をまくり上げた。
「パワーが足りないじゃん。まあ、速いのはビビったけどさ。見てみ?」
「おおっ……」
 クラッシュが感嘆するのも無理はない。
 女子中学生である大庭こころが見せた腹部には、見事に鍛え抜かれた腹筋が浮き上がっている。それも年相応のものではなく、成人男性でもこうはなるまいと思えるほど、凹凸のある腹筋が形成されていた。
「ほら、殴った痕すら残ってないよ」
「これは素晴らしい! いやその、こころさんの腹筋にパンチするとご利益があるという噂があってですね」
「なにその噂!? あたしは大仏かっつーの! なんもないよ!」
「まあとにかく、さすが空手大会を連覇するだけあります。その肉体には誰も勝てませんよ」
 彼は右拳を撫でながら、どうにも考えが読めない笑みを浮かべている。
 実のところ、こころにとってこの状況は三度目だった。一度目はボクサーっぽい学生で、二度目は武器を持ったヤクザっぽい大人。どちらもあっさり返り討ちにした。
 しかし、おそらく同じ人物から依頼を受けたのであろうこの男、クラッシュは、なんだか得体が知れない。
「なんかもうなりふりかまってられないって感じね。プライドないのかなあの人」
「あなたには絶対勝てないって分かっているようですし、自覚あるだけマシでしょう」
 こころは、明日の大会に出場する同じ年齢の少女――園城寺桜子を思い浮かべる。
 名前でイメージできるようにいわゆるお嬢様で、容姿も良ければ頭も良い。かつ、本人は武闘派ということもあって空手にも精通している。こころと同じようにメディアでも取り上げられる女子中学生だった。
 だけど性格に難ありで、なんでも自分の思い通りにいかないと気がすまないらしい。過去にこころと試合をして敗北したお嬢様は、こうしてお金を使って腕っぷしを雇って、出場できなくなるくらいにボコボコにしたいようだ。
「いやしかし、現役ボクサーの男子大学生でも勝てないとは。あなたは本当にただの空手少女なのですか? いくらなんでも強すぎますって」
「よく言われるけどね、チートとかなんとか。言っとくけど全部実力だからね。あんたもさっきのパンチで分かったんなら、さっさと帰ってよ」
「そうもいかないんですよね。一応、前金を貰ってますから」
「はぁ……あんたにもプライドとか無いわけ?」
「儲かりませんからね~、うちの流派」
 あっはっは、とクラッシュは笑っている。
 やっぱり、この男もお金に目が眩んだ奴らと一緒だ――こころはため息をついて、通学鞄をアスファルトに置いた。
「ふーん、じゃ、さっさと片づけてあげる!」
 こころは、クラッシュが動き出す前に駆け出した。彼の挙動がやけに素早かったから、こちらから攻めにいくのだ。
「ふッ!」
 先ほどのお返しとばかりに、空手少女は男の腹部に拳を放つ。直前で腰を軽く落とし、重心を固定した状態での正拳突きだ。これをまともにくらえば、その日は何も食べられなくなる。
 しかし――
「あっ……!?」
 こころの拳は空を切っていた。
 クラッシュが寸前のところで体をずらして避けると、伸びきった右腕を掴み、さらに左肩も掴んで、ぐいっと体を塀に押し付けられる。
「くはッ!?」
 コンクリートに背中を強かに打ち付けられたから、衝撃で肺から酸素がこぼれた。
 その隙に、クラッシュの左手がこころの両手首を拘束した。大人の男の手であれば、女子中学生の両手首を片手で掴むこと自体は容易だった。
 さらに、脚で反撃したかったのだが、背中への強打で体が思うように動かない。
「ふう、危ない危ない。良い判断力ですね」
「……それで? 掴まえただけじゃ負けじゃないよ?」
「もちろん。ここからが本番です」
 そう言うとクラッシュは、空いた右の拳を、こころの腹部に添える。
「懲りないね。あんたの力じゃあたしの腹筋を破れないよ?」
「実のところ、力技は苦手でして。だから僕はいわゆる”気”の道を進んだのです」
 クラッシュは終始笑みを浮かべている表情だったが、それを初めて変えた。
 彼の呼吸音が止まったのが分かる。訝しんだこころが一呼吸を終えた頃に、
「破ッ!!」
 と呼気と共に拳を軽く押し込んできた。
 同時に――こころは腹部の奥で激痛を感じた。
「ぐッは――――!?」
 目を見開き、口から唾液が飛ぶ。
 久しぶりに感じる腹部の痛み。だがそれは幼い頃に組手などで受けた打撃よりも、性質の異なる痛みだった。
(なっ、なに? なにをされたの――!?)
 目を白黒させて、こころは彼の拳を見下ろす。
 殴られたわけではない。クラッシュの拳はただ、セーラー服の上から添えられているだけだ。
 それなのに、腹部の奥に激痛が走っている。
「”浸透勁”」
 と彼が呟く。
「”発勁”は聞いたことがあるでしょう? その仲間みたいなものです。こうして――破ッ!」
「ふぐぅッ……!?」
 再び、殴られたような痛みが生まれる。違うのは、外の痛みではなく、中。内臓を直接殴打されるような激痛だった。
「気が腹筋に浸透して、内臓へ響かせているのです。どうやら初体験のようですね」
「かはッ! あ、がぁッ……!!」
 こころが咳込むと、さらに唾液の塊が飛んだ。腹部を押さえたいが、クラッシュの左手で拘束されていて何もできない。
「気を弾き飛ばすことは不可能です。こころさんのように、どれだけ鍛え込んでも」
「くっ、げほっ、けほっ! このっ……!!」
 脚で反撃しようとしたものの、うまく動かない。クラッシュのいう”気”とやらのせいかもしれない。
 しかし、こころの目はまだ死んでいなかった。なんとかして彼を倒そうと、必死にもがく。
「なんと……二回もこれを食らっているのに、まだ戦う気力があるのですか」
「か、勝手に、けほっ、負け扱い、しないでよっ……!」
「やりすぎると後遺症も残るのですが……やむを得ないですね」
 クラッシュは右手を少し上へと移動させた。左胸の下――胃の辺り。
 こころの背筋にひやりとした何かが走る。
「あ、や、やめっ……」
「これも仕事なので……破ァッ!!」
 グチッ――!
 こころの腹筋の奥で、何かがよじれるような音がした。
 腹膜内――人体にとって重要な器官である内臓のうち、胃袋へとそれが直撃する。
「ごッ――――!?」
 今まで受けたことがない強烈な技に、こころの視界はピントが外れたようにぼやけ、意識がふらついた。
しかしすぐに、凄まじい嘔吐感がこみあげてきて、嫌でも意識が覚醒する。
「う゛っぷ!? むぐッ……!! んん゛っ!」
 喉を下からあったかいものが駆け上がってきた。手が自由ではないから、歯を強く噛んで必死に耐える。
「胃を直接殴られたようなものなのに、耐えるとは……筋肉だけでなく内臓器官も強靭なのですね」
 体を小刻みに震わせながら堪えているこころに、クラッシュはまたしても感嘆の声。彼の表情は、どこか悲しみの色も滲ませていた。
「こころさん、あなたは素晴らしい人物だ。僕も格闘家の端くれですから、できれば正々堂々と勝負したかった」
「ぐぅッ、んぐっ」
 男の言葉を聞いたこころは、口内にまで登ってきたモノを強引に飲み込んだ。
生暖かい感触が食道を降りていく感覚が気持ち悪い。しかし彼女は頭に血を登らせていて、それどころではなかった。
「ふざけないでよ……! お金に釣られて他人を潰すような真似してるくせに、格闘家とか名乗んな!」
「……反論の余地はありません。僕は格闘家失格だ。しかし、それを自覚したうえでこの依頼を受けたのです。金が必要なんです!」
 クラッシュもまた、自分の思いを口にしている。それはこころにも分かる。
どんな境遇が知らないけど、格闘家としてのプライドをかなぐり捨てても、お金のために動いた。理解はできても、賛同はできない。
「依頼としては、あなたが優勝さえしなければいい。あの方との試合でわざと負けるか、出場を辞退していただけませんか? でなければ……本気で潰さなければいけなくなる」
 何を言ってるんだ、この男は。
わざと負けるなんて、失礼極まりない行為だ。相手にも、自分にも顔向けできない。園城寺桜子は確かに嫌いだが、試合というフィールドでは実力勝負なのだ。
クラッシュだってそれくらい理解しているはず。それなのに、こんなことをお願いされるなんて屈辱的だ。
 馬鹿にするな。
「あんた……! マジで、ふざけんな! 絶対イヤだ! 誰がそんなことするもんか!」
「そうですよね。あなたはやはり、精神的にも立派な人だ。尊敬しています。しかし……今の僕はただの潰し屋。金のために仕事を果たす……!」
 右拳が引き絞られる。ギチギチと音をたてて、痛いくらいに握りしめている拳を見て、こころは少し――ほんの少しだけ同情した。
 彼も本当はこんなことしたくないだろう。ポーカーフェイスで気取っているが、実際は感情を隠すための仮面だ。
 余計にムカムカする。結局のところ、園城寺桜子のせいだ。彼女は自慢のお金をちらつかせて、格闘家の真っすぐな心を強引に捻じ曲げたのだから。
 でも、だからといって、自分も負けるつもりなんかない。
「来なさいよ……! 絶対に負けないからね……!」
「その意気や良し! 望むところです!」
 この一瞬は、間違いなく格闘家同士の勝負になっていた。クラッシュも報酬金のことを、この時だけは忘れたかもしれない。目の前の相手と戦って勝ちたいという、本来の望み。
 その戦いの拳――ボディブローが空手少女の上腹部へと突き刺さる。
「んくッ――!」
 実質、筋肉にダメージを負っていないこころのたくましい腹筋は、やはりその拳をほぼ痛みなく受け止めた。
 だが、クラッシュの本命は“浸透勁”にある。
「――――破ァァッ!!!」
 呼気というよりは、むしろ咆哮。
 セーラー服越しに触れている拳から、おそらく全身全霊を込めた“浸透勁”がぶち込まれる。
 ボゴッ――!!
 腹筋が、陥没した。
 凄まじいエネルギーが注ぎ込まれたと同時に、どんな拳も弾き返してきた強靭な腹筋が、べこりとへこんだのだ。
 外からの貫かれたというよりは、内側へ吸い込まれるみたいに。
 それどころか、浸透勁の衝撃は腹筋と腹膜と内臓器官と脊椎を一気に貫いて、背にしている塀の壁にまで届き、ビキビキッとヒビまで走らせた。
「ぁ゛っ――――」
 大きく目を見開いたこころの口から、唾液の糸が零れ落ちる。
 衝撃が規格外すぎて、何が起きたのかはすぐに理解も追いつかなかったが、やがて自覚しなければならない。
(息が、でき――)
 肺が機能していなかった。そのほかの内臓器官も、あまりの衝撃にフリーズしてしまったのだ。
 心臓の鼓動すら、弱弱しい。
「か……はっ」
 呼吸ができないまま、わずかに残っていた酸素によって、かすれた声がこぼれる。
 おそるおそる視線を自分の腹部へ移すと、いまだにセーラー服の生地と一緒に、腹がへこんだままだった。
(ぁ……痛い……)
 腹の奥から、じわりとした痛みが泡のように浮かび上がってきた。
 フリーズしていた内臓器官が、ようやく我を取り戻して本来の機能を再開させようとしている。
 それが、全ての痛みを一気に呼び起こす。
「~~~~~~~~~~~~!!?!?」
 びくんっ、と空手少女の肢体が勝手に痙攣した。
 浸透勁の効果は少しばかりのタイムラグをもって、内臓たちに作用したのだった。
 腸はよじれて絡み合い。
 肺は小さくなるほどぎゅっと潰されて。
 胃は背骨にまで強制的に移動させられ、ぺしゃんこになった。
「う゛ぉ゛ッ……!?」
 女子中学生とは思えない呻き声。
 潰れた胃から熱いモノがせり上がる。喉が排水溝みたいにゴボッと音が鳴ると、こころの頬がリスのように大きく膨らんだ。
「げぷッ――――ぉぼおぉぉぉォォッッ!!?」
 耐えられるはずのない嘔吐の波。彼女は激しく嘔吐し始めた。固形物が混じった白い吐瀉物が、黒いコンクリートを染めていく。
 すでにクラッシュは彼女の拘束を解放していた。
 自由になった両手で、まだ陥没したままの腹部を抱え込み、膝をついてうずくまる。吐瀉溜まりに顔を押し付けるのも構わずに。
 こころがこうして嘔吐するのは、初めてだった。小学生のときから体を鍛え始めて、大人顔負けの筋肉と身体能力を獲得して、負け知らずだった彼女にとって、これ以上ないダメージ。
「ぐふっ、げほ! おげっ、え゛え゛ぇぇぇ゛ッ!!」
 ぺしゃんこにプレスされた胃から絞り出された内容物を、ただひたすらに吐き出す。
 腹の中が破れたみたいだった。殴らるような痛みとはワケが違う。こころがいくら屈強な肉体を持っているとしても、年齢としてはまだまだ幼い中学一年生だ。とてもじゃないが、許容範囲を超えている。
 けれど――――
「なっ、あ、あなたは……!」
 嘔吐を繰り返す少女を眺めていたクラッシュは、びくっ、と肩を震わせた。
 こころが、睨みつけていたからだ。
 腹筋を貫かれ、内臓を潰され、胃の中を空っぽにするまで吐瀉した少女が、小刻みに震える頭を必死に上げて。
「げほっ――! はぁっ、はぁーッ! はぁーっ!」
 自分の吐瀉物で汚れた顔や髪の隙間から見えるその瞳は、死んでいなかった。荒い呼吸はむしろ、今にも飛びかかってきそうなほど。
 圧倒されたクラッシュは、じり、と後ずさりする。
「全力の浸透勁で失神すらしなかった……これは、僕の負けです。しかし、あなたの臓器が回復するにも時間がかかるでしょう。明日の大会は諦めるのが賢明ですよ」
 彼にしてみれば、格闘家としての勝負は本来の問題じゃなかった。依頼をこなして、前金よりも何倍も高い報酬を受け取れるかどうかなのだ。だから、仕事としては成功と言えるだろう。
「……さようなら、こころさん」
 そう言い残すと、クラッシュは少女に背を向けた――逃げるようにして。
 駆けていく男の背中を、こころはずっと睨んでいた。激痛が走る腹部を押さえ、全身の痙攣で歯をかちかち鳴らしながら。
(諦める――――? 誰が――――!)
 内臓をズタズタにされたにも関わらず、こころの精神はやはり死んでいなかった。
 試合で負けたのなら、まだ諦めもつく。だけどこんなことされて、黙っていられない。無関係であるはずのあんな男にボロボロにされて、めちゃくちゃにムカついている。
(諦めるもんか、絶対に――――!!)
 暗くなっている路地裏で、空手少女は膝を震わせながら立ち上がった。