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当ブログのSSは女性への暴力行為(いわゆるリョナ的な)の描写を含む場合があります。嘔吐や流血などの表現に現実を見失う方は閲覧をご遠慮ください。 登場人物などは全てフィクションです。存在するわけがありません。

●お知らせ(2022/09/18)
・skeb「不良JK伊藤玲奈」

■マシュマロ
※コメント書きづらい内容とか質問など何にでも使ってください。返事はTwitterをご覧ください。

■skeb■
※リクエストはskebをぜひご利用ください。

目次

女の子がズタボロになってるシーンを手っ取り早く読みたい方は★マークをどうぞ。

『花びらたち』
★序
1-1 ★1-2
★2-1 2-2 ★2-3 ★2-4 ★2-4(BAD) 2-5
★3-1 3-2 ★3-3 3-4 ★3-5 ★3-5(BAD)
★4-1 4-2 ★4-3 ★4-4 ★4-5 ★4-6
5-1 5-2 5-3 5-4 ★5-4(BAD) 5-5
―連続短編―

魔法少女リューコ ★その1 ★その2
果汁系戦士アップルハート ★第1話 ★第2話 ★第3話 ★第4話 ★第5話
果汁系戦士アップルハート・リブート 第1話 ★第2話 ★第3話 ★第4話

―1話完結―
★博士と責め子ちゃん
★NHK
★女王ステラ
★悪魔っ娘サーたん
★シチュエーションプレイ
★がんばれデスアロマ
★スーパーヒロインの資格 ★スーパーヒロインの敗北
★光の国のルナ
★ある日の望月星華
★ウルトラスイマー・ミウ
★未知との遭遇
★おにはそと、ふくはうち
★不良少女あずき
★スカーレット夫妻
★アリス姫の願望
★魔法少女マヤ
★スイート・キャンディ
★少女騎士レイナ
★金と黄の交差
★設定屋さん
★空手美少女アユミ
★赤髪メイジのキティ
★超戦姫マイティ・キッス
★速攻 ―くのいち姉妹―
★大庭こころは諦めない
★エルフ少女リリィの腹責め快楽調教記
★スーパーヒロインライバー・アイカ
―二次創作―
★ポケモンBW2女主人公
★マリィの受難

―skebリクエスト―
★新堂恵美は目を逸らさない
★花びらたち ―カトレア外伝―
★女騎士ジュリアの姿
★不良JK伊藤玲奈

【skeb】不良JK伊藤玲奈

skebを納品しました。リクエストありがとうございます。
喧嘩の強い不良JKがお腹をボコボコにされる話です。
https://skeb.jp/@otoha_39/works/4
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 制服姿の伊藤玲奈は、人気のない倉庫に足を踏み入れた。
「おい、来てやったよ。さっさと顔出せば?」
 十六歳の女子高生らしいフレッシュな声色だが、言葉遣いは乱暴だった。
 校則を守る気のない金髪はセミロングで、毛先に少しウェーブがかかっている。目つきは鋭く切れ長。ガンを飛ばされたら、大の男でも肩を震わせてしまうだろう。
 スカートは短く詰めて、健康的な太ももがあらわになっている。本人はむしろ見せつけるように、黒いソックスは丈も短かった。
 彼女はいわゆる不良女子高生だが、犯罪などに手を染めたりはしていない。反抗期のレベルが極端に高いというか、異性や大人への反発心がやけに強いのだった。
 そんな玲奈の姿を確認したのか、彼女を呼び出した張本人が柱の影から姿を表す。
「へっ、逃げずによく来たなぁ」
 同じ学年の不良男子、森田健人だ。彼は頬にガーゼを貼っていて、足取りもどこかおぼつかない。
 ふん、と玲奈は鼻で笑いながら、
「おーおー、森田じゃん。あたしがぶん殴ったところ、まだ痛いんじゃないの?」
 そう、ガーゼをしている原因は玲奈にあった。彼女はどうも手を出すのが早いというか、相手の性別に関わらずすぐ物理的な喧嘩になることが多い。”喧嘩女子”と呼ばれたりするくらいだ。
 ちっ、と健人は舌打ちする。
「うっせえよ! いい加減もう我慢ならねえんだよ、お前!」
「なんだよ、仕返しするっての? まさか一人じゃないよねえ?」
 わざわざ倉庫に呼び出しをするくらいだ。彼一人なわけがないだろう。
 予想通り、他の柱や物陰から、男子たちが次々姿を現した。どいつも彼の友人、そして後輩――見たことないやつもいるから、他校の不良もいるのだろう。
 健人を含めて五人。大層なことである。
「ハッ、女一人相手にバッカじゃないの。クソだっせぇの」
「調子乗んなよマジで。女でも関係ねえからな。半殺しだ。ボコボコにしてやる!」
「なんだよ、あたしをマジに殺すくらい言えんの? ダチ連れてきといてまだビビってんの? だからチンコもちっせーんだよ!」
「テメッ……! もういい! お前ら、加減なんかすんなよ!」
 健人が呼びかけると、男子たちは玲奈に向かって襲いかかっていく。
 一人目はロン毛の男子で、背は高いが腕は細い。大して力が無さそうだと感じた玲奈は、殴りかかってきた拳を片手で受け止めた。
 まるで漫画のように簡単に防がれたことで驚愕するロン毛の腹を、玲奈は思い切り蹴り飛ばした。
「ぐへっ!?」
 空き缶みたいに軽々と吹っ飛んでいき、健人の足元にまで転がっていった。
「このやろ!」
 二人目は坊主頭で、体つきがしっかりしている。
 玲奈は彼のストレートパンチを、今度はひょいっとかわして、逆に懐へと入り込んだ。
「――はァっ!」
 彼女の呼気が空気を震わせる。同時に右拳がうなりを上げ、坊主頭の腹部に叩き込まれた。
「う゛おぇ!?」
 情けないうめき声と共に、坊主頭はくの字に折れて後ずさり、やがて両ひざをついた。
 三人目は――、玲奈の強さに躊躇して足が止まっていた。
「ちょ、健人ォ! なんだよこいつ!? なんでこんなつえーの!?」
「知らねーよ! なんかやってんだろ家で!」
 健人の推測はおおむね当たっていて、玲奈の実家は空手教室を営んでいる。親はもちろん、兄も空手の有段者で、名前を聞けば「知ってる」と答える人がほとんどだ。
(こういうときやっててよかったと思うけどさ……)
 ただ玲奈自身は、空手をさほど好きになれていない。幼い頃から練習ばかりで、同学年の女子からも少し敬遠されていた。武道の心得やら何やらで、おしゃれとか、いわゆる”女子”っぽいことはほとんど許されなかったのだ。
 空手のせいだ、と彼女は考えた。我慢してきた反動なのか、中学から高校に上がったとき、それが爆発。もう親の言うことなんか聞くもんか、と彼女は反発心むき出しの女子高生になったのだった。
 ふーっ、と彼女は呼吸を整える。
「マジよわっ。女子に喧嘩で負けるって、恥ずかしくないの?」
 けらけらと玲奈が笑うと、健人はさらに苛々を募らせた。
「つーかお前らバラバラじゃ意味ねーよ! 何のために呼んだんだ! まとめてかかれ!」
 すると三人目と四人目、そして健人が一斉に襲いかかってきた。
 慌ててはいけない、と玲奈は男子たちを観察する。さすがに同時に相手するのは危険だ。こちらの方が身軽だろうから、できるだけ一人対一人になるよう移動しながら――
「――あっ!?」
 しかし、彼女はどきりとして声を漏らした。
 さっき沈めたはずの坊主頭が、床に倒れながらも両方の足首を掴んできていた!
「よし今だ! ぶん殴れ!」
 健人が命令すると、三人目と四人目が、顔面に向けて拳を打ち込んできた。
「くっ!」
 なんと、彼女はそれでも拳を両方受け止めた。だが両手は塞がれてしまったことで、次の攻撃を防御する手段がなくなってしまう。
「へへっ、ボディがガラ空きだぜおい?」
 最後の一人である健人が、あえて拳を見せつけるようにしながら近づいてくる。
 ふん、と玲奈は余裕を見せた。
「別にいいけどさ。ちゃんと殴らなきゃ、ケガするよ?」
「あ? ワケわかんねーこと言ってんじゃねーぞ。オラァ!!」
 苛立ちで我慢できないとばかりに、健人は右拳を玲奈の腹部へと叩き込んだ。
「んくッ――!!」
「ってェ――!?」
 バチッ、と甲高い音が倉庫内に響き、うめき声をあげたのは――両方だった。
 玲奈は腹部への打撃に、確かにわずかに呼吸を乱した。と同時に、健人も拳に痛みを感じていたのだ。
「な、なんだ? なんか入れてんのか!?」
 明らかに腹を殴った音ではない。健人は、彼女の制服を掴んでまくり上げる。
 結論から言えば、何も仕込んでなどいなかった。制服の下からすぐに玲奈の腹が現れたが、その腹筋は一般的な女子高生のものではない。
 縦と横に筋がきれいに入っていて、無駄なく的確に鍛えられた美しい腹筋だった。男子たちが思わず見惚れるほど。
「クソ、やっぱ何かやってんだなこいつ。うぜえ……!」
「はぁっ……そう簡単にやれないよ、あたし」
「うっせーな。なら、こうすりゃいいだろ。おい!」
 健人が合図すると、玲奈は背後に気配を感じた。最初に蹴っ飛ばしたロン毛だろうと気づいたとき、脇腹の辺りに硬い何かが触れた。
 その瞬間、体中にビリッと衝撃が駆け抜ける。
「あがッ――――!!?」
 火花が散るような音さえ聞こえた。視界が一瞬白くなって、健人の姿を見失う。
 スタンガンだ――その電撃をもろに受けた玲奈は、ビクビクッと痙攣して膝から崩れ落ちる。
「つ、使っちまったぁ――! お、おれ、犯罪やっちゃったんか?」
「うろたえんなよ! もとはと言えばこの女のせいなんだ。正当防衛だろ」
 ビビっているロン毛に、健人はよくわからない理屈で落ち着かせている。
(ちっくしょ、そんなもん、ズルいでしょ……!)
 口でなんとか言ってやりたいのだが、全身の痺れは抜けきっておらず、パクパクと金魚のように震えるだけだった。
 無力化されてしまった身体を、ロン毛が引き起こして羽交い締めにした。こいつは筋力もさほどないのだが、スタンガンをくらった玲奈は人形のように何の抵抗もできない。
「よし、今ならその腹、力入んねーよな?」
(バカにしないでよ……!)
 健人が再び拳を引き絞っているのを、玲奈はチカチカする頭でなんとか把握した。ままならない呼吸の中で、意識を何とか呼び起こす。
「そらァ!!」
 拳が打ち出される瞬間を見計らって、腹筋に神経を集中させたが――
 ドグッ!!!
「ぐふッ……!?」
 拳が突き刺さると、玲奈は切れ長の目を見開いた。鈍い痛みが腹部に走って、同時に身体が前へと折れ曲がる。
「おお? いい音だな。効いたかよ?」
 確かな手応えを感じたらしい健人は、にやりとほくそ笑んでいた。
 実際、着弾したときの音は、まさしく肉を打つ音だった。一発目の腹筋で弾いたときの音は消え去っていて、ダメージを受けていることは明白である。
(腹に力が、入んない……!?)
 玲奈は腹部の鈍痛に、苦悶の表情を隠せない。
 スタンガンによる電撃によって神経がやられてしまったのだろうか。非力なロン毛の拘束も振りほどけないし、自慢の腹筋も拳を受け入れてしまっている。
「けほっ、けッほ……!!」
 苦しげに咳き込む玲奈を見て、健人はもちろん、男子たちは次第に余裕を取り戻し始めた。
「効いてるみてえだな。へっ、最初からこうすりゃよかったん――だ!!」
「ふっぐェ――!?」
 再びボディブローが突き刺さって、酸素を叩き出される。鍛えているはずの腹筋がメキッと潰れて、拳が腹の中に潜り込んでくる感触を玲奈は感じた。
 こんなに腹に効かされたのは、久々だった。子供の頃から鍛えていた玲奈にとって、痛みというのはほとんど昔に経験して、それから強くなったことで味わうことがほとんど無かったのだ。
「げほッ! かは! ズルいんだよ――おまえら――!」
「なんとでも言えよ。こっちは正々堂々とかどうでもいいんだって。お前をボコせればな!」
「う゛うッ……!!? ぉごッ――!!」
 またしても拳が埋まり、うめき声を漏らしてしまう。
 スタンガンなんて使わなければ、絶対に負けないのに――!
「健人ぉ、俺にもやらせてくれよ」
「お? ああ、わりぃわりぃ。そうだよな。お前さっき腹やられてんだもんなぁ」
 そう言うと、健人は坊主頭と立ち位置を交代した。
 こいつは先ほど、腹に一撃入れて黙らせた男子だ。玲奈はその時の感触から、こいつも鍛えている側の人間だと感じていた。
 彼女の表情にやけに敏感な健人は、にやりと笑う。
「こいつ、前はボクシングやってたんだぜ。まあ悪いことばっかしてて追い出されたけどな」
「その話やめてくれよ、一応反省してんだぜ?」
 へらへらと笑っているその表情は、とてもそうは見えなかった。
(マジで頭どうかしてんじゃないの……! そんなやつのパンチなんて……!)
 特になにも鍛えてるわけではない健人ですら、十分ダメージを受けるパンチなのだ。ボクシングをやっていた男子の拳を、まともに受けたら――
 坊主頭は指を鳴らしながら、拳を固めている。
「さっきのお返しをしてやるよ。腹に力入れねえと、マジでやばいぜ?」
 ぐっ、と腰を落とすそのさまは、確かに格闘技に触れている者の構えだった。
 玲奈は呼吸をなんとか取り戻し、腹筋に意識を集中させた。絶対に抜かれてやるものか、と坊主頭の彼を睨みつける。
「あー、いいねその顔。めっちゃ好みなんだけどなあ……けど暴力女はゴメンだわ」
 にやけた面が、スッとボクサーのそれに変わる。玲奈は心臓に冷や汗が流れたかと思うほど、寒気がした。
 腕が引いていくのを見て、玲奈は腹筋を固める。スタンガンの影響は確かにまだあるものの、健人に殴られたことで、肉体にある種の喝が入っていた。
「んんッ!!」
 歯を食いしばる。制服で隠れてはいるが、玲奈の腹部には自慢の腹筋がほとんど復活していた。
「――らァっ!!」
 拳が空気を切る音。抉るような軌道。
 ゴツゴツした拳は、玲奈の引き締まった腹筋を、グボッと陥没させた。
「ッ、ごえェッ……!!?」
 腹部への重い衝撃に、玲奈は見開いた目を白黒させた。
 健人のような素人とは違う、的確な殴打。それは腹のほぼ中心に直撃し、それだけで復活したはずの腹筋を打ち崩した。
 腹筋の組織を歪ませながら、拳の指が見えなくなるほど、制服を巻き込んで深く埋まり込む。信じられないほどの痛みが腹部で爆発する。
 衝撃は内臓にまで響き、胃や肝臓が揺さぶられた。
「うッ……!? ッぷ……!!」
 玲奈の瞳孔が次第に細くなり、思わず顎を上げた。
 嘔吐感。
 喉の奥から熱いモノが込み上げてきたのだ。
「おーおー、マジでいい腹してんな。一発で吐かねえのはすげえよ。だけど次は無理だよなあ?」
 言葉と共に拳が引き抜かれる。異物の感触が無くなってわずかに安堵したが、嘔吐感が収まらない。意地でなんとか耐えているだけだ。
「ぅ……や、やぁ……」
 次の打撃が来ると分かると、玲奈は無意識のうちに首をいやいやと振った。
 見せつけるように坊主頭は拳を構え、大きく振りかぶる。
(――――ッ!!)
 もう一度。もう一度、腹筋に意識を向ける。
 痛みは防ぎようがない。なんとかダメージを最小限に抑えるしかない。そうしないと本当に――
「おぉらァ!!!」
 おそらく先ほどよりも力を込めているであろう、渾身のボディアッパー。鍛えているはずの腹筋は、ほんの少し抵抗しただけで、その役割を終えた。
 ボグン! と倉庫内に打撃音が響く。耳を塞ぎたくなるような音。
 足が一瞬、宙に浮いた。
 自分の腹に深々とめり込んでいく拳を、玲奈は瞳孔が開いた目で見送った。
「う゛ェ……ッ!? ごッぱ――――!!」
 女子高生とは思えない汚いうめき声がこぼれて、唾液と胃液の混ざった塊が飛び出す。
 拳は彼女の腹腔内にまで侵攻した。内臓付近にまで到達すると、探すようにして拳は押し込まれていき、やがて胃袋へと到達する。
 ぐにゃり、と胃袋が拳によって変形させられる。
「ふぐッ――!? ぐっぶッ……!!」
 内臓を直接殴られるなんて、初めてだった。
 先にやってきたのは、痛みよりも激しい嘔吐感である。
「うおっ、すげえ。女の内臓、やわらけえなあ。ほら、我慢しねえで吐いちまえよ」
 どこか恍惚とした表情の坊主頭が、めり込んでいる拳をぐるりと半回転させた。
 グチュグチュッ! と、抉られる音。胃袋がよじれる。
 そんなことをされたら、もう無理に決まっていた。
「ぐぶゥッ!?  ごハッ……!! げぼおぉおォォォ――――!!!」
 青白くなった唇から、固形物交じりの黄色い吐瀉液が吐き出された。ビチャビチャと倉庫の床に飛び散り、異臭を漂わせる。
「うわっ! きったね!」
 吐瀉物が腕にかかり、めり込んでいた拳を坊主頭は勢いよく引き抜いた。その反動で位置を動かされていた内臓が元に戻ったことで、再び吐き気を催す。
「んぐぇ!! ごぽッ! ぐぼ、っほォォォ! おう゛ぇ゛ぇぇッ~~~~~!!!」
 内臓まで飛び出してくるのではないか、と思うほどの内容物が、汚い吐瀉物となって撒き散らされていく。
(イヤ、もうイヤ……! 痛い、気持ち悪い! もうイヤ……!!)
 男子の前で無様に嘔吐するなんて。乗り物酔いで吐いてしまうならまだしも、暴力的に腹を殴られて吐き出すなんて。
 玲奈は涙を滲ませていたが、男子たちは――特に健人は、それでもまだ足りないようだった。
「よっしゃ、手首をこれで縛って、そこに吊るせ」
 彼はロープを取り出すと、三人目と四人目に指示した。
 ロン毛の羽交い絞めから解放されたが、嘔吐するまで腹部を殴られた玲奈はもう逃げだす力さえ残っていない。なすすべなく手首をぐるぐると縛られ、反対側を柱の上で結ばれた。
 腕がグイッと持ち上げられて、腹部をさらすような恰好になる。殴られて軋んでいる腹を強引に伸ばされるかたちになって、彼女は激痛で涙を流した。
「おいおい! 泣いてやがる! さっきまでの威勢はどこ行ったんだよ!!」
 と煽りながら、健人は無慈悲にも追い打ちのボディブローをくらわせた。
「ごふッォ!? がはッ……!!」
 目を見開き、口に残っていた胃液を吐き出す。すでに壊滅状態である腹部は健人の拳を易々と受け入れて、内臓にまで衝撃を許していた。
「これで分かっただろ、ああ? 女がイキがってんじゃねえ。大人しく男に媚びて腰振ってろよな」
 漫画のキャラクターみたいに、下品な言動だった。
「…………ッ」
 腹部の痛み。嘔吐。それによる屈辱。そして精神的苦痛。あらゆるダメージに玲奈は呻き、小刻みに痙攣していたが、それがピタリを止まった。
 ――何なんだこいつ、マジでムカつく。
「…………のくせに」
「あ? いま何か言ったのか?」
「――童貞のくせに、イキがってんじゃねえ!!!」
 くわっ、と睨みつけながら、玲奈は力を振り絞って健人の――無防備な股間を蹴り上げた。
 男が聞けば身も凍るような音が、倉庫に響いた。
「~~~~~~~~~~~ッッ!!?」
 顔を真っ青にしながら、健人が股間を押さえて倒れ込む。
「け、健人ぉ!
「うーわヤッバ。大丈夫かよおい」
「~~~~ッ! ま、まじ、お前……!!」
 ふん、と玲奈は笑ってやった。殴られた回数を思えばこんなんじゃ足りないけれど。
 痛みが収まるまで数分をかけ、健人はようやく立ち上がった。膝はがくがく震えている。
「クソが……! 童貞までバカにしやがって……!」
 さっきまで真っ青になっていたが、今は怒りで頭に血が上り赤くなっていた。
 そして彼は何を思ったか、おもむろに倉庫の隅に投げ出されていたモノを拾い上げる。
 それを見た玲奈は、心臓が冷え切ったように、思わず呼吸を止めた。
(マジなにしてんの、こいつ……!?)
 彼は手に、木製のバットを持っていた。
「け、健人、お前さすがにそれはさあ……」
 散々、玲奈の腹を殴って痛めつけた坊主頭でさえ、健人を制止しようとする。
「うっせーな。ビビってんならもう帰れよ。俺が勝手にやったことにすりゃいいだろ」
 ゴツ、ゴツ、と感触を確かめるように床を叩きながら、彼は玲奈の前に立つ。
 バットの先端を、女子高生の腹部をぴったりと押し付けた。
(まさか、本気でやるつもり……なの? だって、そんなことしたら、いくらなんでも……)
 集団で腹を拳で殴っただけなら、まだ理解できる。
 だけど、それは明らかに凶器だ。それで人間を殴ったらどうなるかなんて、勉強をおろそかにしている玲奈にだってすぐ分かる。健人だって同じだろう。
「本気じゃねえと思ってんのか? そんなヤツ頭おかしいって? はっ、上等だこの野郎。本気で頭おかしいヤツが世の中にいるってこと、教えてやる」
 バットを彼女の腹から離すと、ギリッと握り直した。そして、振りかぶるような態勢に入る。
 表情を恐怖で染めた玲奈は、なんとか制止しようとしたが、
「あ、や、やめっ――――」
「やめねえよ。処女マンコがよォォ!!」
 バットが振られる様は、何の遠慮もなかった。
 空気を切る音は、拳のそれとは全く違う。
 玲奈は今にもバットが叩きつけられようとしているのに、縫いつけられたように視線を外すことができなかった。
 ある意味では防御本能だった。パンチを腹筋で防ごうとしたときのように。バットさえも腹筋でなんとか抑えようと、無意識のうちに軌道を目で追っていたのだった。
(あ、無理――――)
 木製バットが自分の腹部に激突する様子を、彼女は視界でしっかり捉えていた。
 人体が発してはいけない音が、した。
「――――か……ッ」
 玲奈の腹を野球ボールのごとく、健人のバットが捉えた。彼はおそらく、バットを伝って感じただろう。
 彼女の肋骨の感触。
「ぅぎッ――かぁッ―――あ゛ッ゛――!!?」
 ビキッ、という音を、玲奈は骨を伝って聞いた。
 肋骨にヒビが入ったんだと分かった。
「がっはッ!!! ごえぇ゛ぇ゛あぁぁぁぁ゛――――!!!!!!」
 再び口から迸る、黄色い胃液。もう胃の中は空っぽだったから、固形物は出てこなかった。
 ガクガク! と玲奈の体が痙攣し、瞳の瞳孔が一瞬で細くなる。
「いい感触返ってきたぜぇ! なあ、お前らもやって――あ? なんだよ、あいつらいなくなってんじゃん」
 健人以外の男子たちはさすがにやばいと感じたのか、すでに逃げだしていた。
 逆に言えば、彼を制止できそうな人間は、もういなくなってしまった。ここに残されたのは、拘束されて身動きできずサンドバッグにされている女子高生と、バットを握っている男子高生である。
「まあいいや。それなら俺一人で堪能できるから、なあ!」
 再びバットによる殴打。狙ったのか定かではないが、さきほどと同じ個所にそれは着弾した。
 ヒビの入った肋骨に。
「ほぐォッ――――!!?」
 メギッ――
(―――折れ、た――)
 腹部に走る激痛は、これまでと比べ物にならない。
 なんとか息を吸おうとして、それだけで刺すような痛みが貫く。玲奈は肋骨が折れた痛みに、意識の混濁と覚醒を繰り返した。
「折れたなぁ? へへっ、そうだ、もう一発くらいパンチでいっとくかあ」
 健人は何を思ったかバットを捨てた。しかし、床に音をたてて転がった音が何なのか、今の玲奈には認識できないほど、余裕が失われていた。
「――おら!!」
 ズドン、と何度目かのボディブローが、玲奈の腹にめり込む。
 玲奈の目が零れ落ちんばかりに、見開かれる。
「ご、ふッ……!!? ~~~~!!」
 それはすんなりと、手首近くまで沈み込んだ。
 拳は、腹の中で漂っていた肋骨の破片と一緒に、ズブズブとめり込み、またしても胃袋にまで到達した。
 そして、拳と一緒に、胃袋を再び抉り上げる。
 喉の奥から走ってくる、生温かいもの――
「ぐッッ――!! ~~!! !? げぇぽッッ!!!」
 ビシャリ。
 何も吐くものがなくなっていた玲奈の口から、赤くくすんだ液体を吐き出した。
 血の混ざった胃液。
 折れた肋骨の破片が内臓器官を傷つけ、胃に裂傷を与えたのだった。
「うおっ、腹殴って血ィ吐くとか、漫画みてえだな。ひひ!」
 仮にも女子である玲奈が血を吐いたとしても、健人は全くひるまない。むしろ嬉しそうに声を荒げ、なおも殴ることをやめるつもりはないようだった。
(――あたし、マジ死んだ、かも――)
 拷問とも言うべき仕打ちを受け、玲奈はどこか達観したように考えた。
 あの逃げだした男子たちが、誰かを呼んでくるとは思えない。そうすれば自分たちのことだってバレるだろうから。
 そして、玲奈自身も一応”不良”に分類される。夜遅くに帰ってこないとしても、誰もなんとも思わないだろう。両親だってそうかもしれない。最近、喧嘩してしまったし。
 だから、もうほとんど諦めていた。
 ここでこいつと二人の時間が、ずっと続く。
 ――ずっとずっと、お腹を殴られる。
 ――お腹の中をグッチャグチャにされる。
(ママ、パパ――悪口言って、ごめんなさい)
 痛みとは違う涙が、頬を伝った。
 涙で滲み、意識がグラグラと揺れる視界には、再び拳を振りかぶっている健人の姿があった。

【skeb】女騎士ジュリアの姿

「――さん! ジュリアさん!」
 聞き覚えのある幼い声に、女騎士ジュリア・レインズは目を覚ました。
 視界に映ったのは、ボロボロの椅子に縛られている幼い少年。ジュリアは混濁した意識が一瞬で覚醒して、彼を助けようと――
「殿下! く、これは……!?」
 手枷にって手首が拘束されていた。天井から鎖で繋がっており、外そうとしても当然ビクともしない。
 薄暗いこの部屋は、壁にかかっているランプが唯一の明かりだった。空気は淀んでいて、血と汗の匂いが充満している。誰かを痛めつけることが目的の部屋であることはすぐに理解できた。
(そうか、わたしは、罠にかかって……!)
 
 ――数十分前。
 誘拐されたエリック・オースティン殿下の救出隊長として、ジュリア騎士団長は率先して敵の本拠地であるここにやってきた。
 夜間の奇襲だったのに、まるでそれを予知していたかのように敵軍勢の待ち伏せにあった。仲間とは散り散りになり、彼女は催眠ガスによって意識を失ったのだ。

 そして今、救出すべきエリック殿下が目の前にいて、自分は無様に拘束されている。
「殿下、申し訳ございません。このような失態を晒してしまうなんて……」
「気にしないで! それより、ケガはないですか? どこか痛いところは?」
「大丈夫です」
 まるでこちらの方が子供であるかのように、彼は不安な表情で見つめてくる。エリックは正真正銘の王族であるが、それを鼻にかけることなく、民と同じ目線の高さで振る舞う人格者だった。
 民からの支持はもちろん、騎士団員は彼に忠誠を尽くすことにためらいがない。ジュリアも彼のためならいくらでも尽くす心構えを持っていた。
(今のところなにもされてはいない……)
 ジュリアの騎士団は比較的軽装で、戦闘時の身軽さに重きを置いている。
 騎士団長である彼女も例外ではなく、長い黒髪が生える白の鎧は胸だけを覆っている。引き締まった腹部をさらけ出してはいるが、臍の下にはパリッとした白のスカートをまとい、膝上までのロングブーツ。
 二十歳の女性という若々しい肉体を惜しげもなく晒す鎧ではあるものの、凛々しく美しい顔つきが相まって、性的ないやらしさを感じさせない。
(とにかく、殿下だけでもここから出さなければ)
 なんとか脱出できないものかと考えたとき、部屋のさび付いた扉が音をたてて開いた。びくりとエリックが震えている。
 ジュリアが視線を移すと、そこには彼女と異なり、分厚い騎士団服をまとった男がいた。その装いには心当たりがあり、ジュリアは声を漏らす。
「あなたは隣国の……!」
「ああ、久しぶりだな、ジュリア団長」
 茶色い髪をオールバックにした体格の良い男で、肌は浅黒く髭も乱雑で、印象の良い雰囲気は無い。
 彼の名はモリス・ケイオス。規模は小さいが同盟国の人間で、役職的には同じ立場の人間と言っていいだろう。
 ジュリアは彼を睨みつけながら、わざとらしくため息をついた。
「まさか、騎士団の人間がこのようなことを……そちらの王が命令されたのですか?」
「そうだ。そっちと違って仲良しこよしの国じゃないんでな。背いたらどうなるか分かったもんじゃねえ」
 彼は苛立っているようで、鼻のあたりをヒクヒクさせている。
 ジュリアは、スパイが我が国にいたのかもしれない、と推測した。だから待ち伏せされたのだろう。
「目的は何ですか? わざわざ誘拐したのですから、何か要求があるのでしょう?」
「そこまでは知らされてねえ――本当だ。俺はこんなお坊ちゃんなんかどうだっていい。ジュリア団長、お前を連れてきたのは、俺の独断だ」
 モリスの視線が、ジュリアを下から上へと流れるように動く。
「……何を、するつもりですか?」
 身体に一瞬、鳥肌が立った。こんなところで女が身動きできない状況なのだ。何をされるのかは想像がつく。女としての危険信号を感じた。
(まさか……殿下の前でそんなことは……!)
 凛々しい表情にわずかな不安の色。モリスはそれを見逃さなかった。
「へっ、ガキの前でヤる趣味なんかねえよ。安心しな」
「それなら、一体なんのために――」
 ふと、ここが拷問目的のような部屋であることを思い出した。
 その時にはすでに遅く、モリスは彼女のむき出しの腹部に拳を叩き込んでいた。
「ぅぐッ――!?」
 端正な顔立ちに驚愕のような色が張り付き、手枷の鎖が音を立てる。
 割れてはいないもののほどよく引き締まった腹筋に、ズシンと拳がめり込んでいた。その威力は訓練などで受けるものより遥かに力強く、痛めつけるという意思が感じられた。
「く、かはっ! ぇ゛ほッ――けほっ――!!」
 突然の衝撃と痛みに、女騎士ジュリアは激しく咳き込む。
 その反応にモリスは気をよくしたのか、ハハッと煽るように笑った。
「やっぱりこうなるじゃねえか。剣が無けりゃ、俺だってこれくらいできるんだよ……!」
 彼の言葉を聞いて、ジュリアは呼吸を整えながらも思い出した。
 数カ月前だっただろうか。各国の騎士たちが集い、剣技による交流戦が行われたのだ。もちろんお互いの親睦を深めるもので、覇権を争うものではない。
 ジュリアの最初の対戦相手はこの男だった。お世辞にも剣技が優れているとはいえず、秒で圧勝する結果となったのだが――
「覚えてるだろ? あのあと俺は国に帰ったら、女に負けた男だって笑いモンにされたんだ!」
「それで……けほっ、逆恨みというわけですか。なんて浅はかな!」
 腹部の痛みに耐えつつ、ジュリアは騎士団長として反論する。
「負けることなんて、誰にだってあります! あなただってあの時は、真剣に勝負していたでしょう! それなのにこんな卑怯なことを!」
「う、うるせえ! 黙れ!」
 またしても強烈なボディブローが、ジュリアの腹筋を襲う。
 ズムッ!!
「――ぅごォ!?」
 あまりの衝撃に、一瞬、両足が浮いた。
 女騎士は目を見開いて、身体をくの字に折る。自分の腹に痛々しくめり込む男の拳が見えた。
 先ほどよりもダメージが大きいのは、一発目で腹筋が脆くなっているからだろう。ジュリアは腹筋が軋むのと同時に、内臓にわずかな衝撃が加わっていることを自覚していた。
(くぅ……! わたしだって、鍛えているのに……!)
 男には負けられない、という思いが確かにある。実際、彼女の剣技は年齢性別問わず誰よりも優秀で、美麗で、人々さえ魅了する。だからこそ一国の騎士団長にまでなったのだ。
 だが、肉体的な違いはどうしても避けられない問題だった。ジュリアも自分の体質は理解していて、筋肉がつきにくい身体なのだ。だから腹部を鍛えてもある程度引き締まっただけで、こうして男の拳を簡単に受け入れてしまっている。
「お前にも! お前にも味わわせてやるんだ! そっちの殿下の前でな!」
 この男の目的は、エリック殿下の前で女騎士団長の醜態を晒すことなのだ。
 ジュリアは咳き込みながら、エリックに視線を向ける。少年殿下はびくびくと震えながら、涙を浮かべて怯えているようだった。
(殿下……! わたしが折れてしまうわけにはいかない……!)
 こんな男なんかに屈服などするものか。
 殿下を安心させるべく、ジュリアは息を荒くしながらも笑みを浮かべた。
「はあ、はあ――これくらい、どうということはありません。殿下、こほっ――ご安心を。わたしは負けません――絶対にです」
 決して弱いところを見せない彼女に、エリックは小さくうなずいた。
 その二人の様子に、モリスはさらに苛々をあらわにする。
「この女……! 絶対にその心をへし折ってやる!」
 彼はギリギリと音をたてるほど、拳を強く握りしめた。インナーの上からでも浮き出た血管が見える。
 再び腹部を狙ってくることは読めたため、ジュリアは呼吸を整えながら腹に力を入れる。引き締まった腹筋に細い陰影が浮いた。
「オラッ!!」
 呼気と共に繰り出されたボディブローは、真正面からジュリアの腹筋に着弾した。
 バン、と甲高い音が部屋に鳴り響いて、同時に女のうめき声が重なる。
「ぅう゛ッ――!?」
 目を見開いて、驚愕の色が表情に張り付いた。
 めいっぱいの腹筋で防ごうとした――そのはずなのに、ほとんど何の抵抗もなく拳がめり込んできたのだ。
 腹筋に走る痛みと、あっさりダメージを受けたという精神的な痛みが彼女を襲う。
 拳が離されると、白く綺麗な腹筋に赤い痕が残された。
「かはッ――こ、ふ――あ゛――!!」
「まだまだこんなもんじゃねえぞォ……!」
 モリスは続けて、左右の連打を浴びせ始めた。人体の急所を心得ているのだろうか、効果的にダメージを与える箇所へと拳が次々と叩き込まれる。
「むぐッ!? けっほ、ぁがッ――!」
 脇腹。
 身体が弓のように曲がって、左肺が揺れるほどの衝撃に酸素が叩き出される。
 酸素がほとんど残っておらず、かすれたように咳き込んだ。
「お゛うゥ゛!」
 反対の脇腹。
 ミシリ、という肋骨の音を、彼女は確かに聞いた。骨まで響く痛みが思考までめちゃくちゃにしていく。
「んお゛ぉ゛ぉ゛ッ!? お、がッ゛――!!」
 下腹部。
 鍛えることが難しいその箇所に、剛腕による拳が深くめり込んだ。
 子宮まで届いたのではないか――それほどの衝撃と痛みが同時にやってきて、ジュリアは喉をあらわにするほどのけぞる。
「ふっぐゥゥ――!? ごぽッ――!! ぉぉ゛――!!」 
 臍。
 そこに、男の拳が全て隠れるほど沈み込んだ。
 繰り返された殴打で腹筋はもう機能しておらず、なすすべなくモリスの拳を歓迎していた。
 腸がグニャリと歪まされるほどに、拳がジュリアの腹の奥深くまで進行している。
(こ、こんな――男の力というのは、こんなに――!)
 美しい顔の口元を唾液で溢れさせながら、ジュリアは激しく咳き込む。
「おい、どうだ? 俺の拳が分かるか?」
 加虐的な笑みを浮かべるモリスは、拳をめり込ませたままジュリアの耳元でささやいた。
 その汚らわしい声色に、びくりと女騎士は震わせる。
 嫌悪感だ。
 抵抗できない女をいたぶって、満足げに笑っている男。こんなの、”気持ち悪い”に決まっている。
「ふくッ――ぐ――ぷッ!!」
 ジュリアは腹部の鈍痛に苦悶しながらも、目の前の男の顔に唾を吐きかけた。騎士としてはしたないと思いつつも、モリスに対する嫌悪感が勝ったのだった。
「こ、この女ァ……!」
 唾が付着したモリスの頬がぴくぴくと引き攣る。
 そして彼は、丸ごとめり込ませた拳をそのままグリグリと捩じり回し始めた。
「ッッ!? ぁがッ!! はあ゛あああ゛ッ――――!!」
 腸がグチャグチャと音をたてながらかき回され、女騎士はビクビクと痙攣する。腹肉を捩じられる激痛と、内臓を揺さぶられる嘔吐感が次第に込み上げてきた。
「んッ、くぷっ、ぉ゛ぼッ――――」
 ジュリアは腹部の痛みに身体を曲げていたが、登ってくる嘔吐感をなんとか抑え込もうと、顔を無理やり天井に向けていた。
 両手は拘束されているから口元を押さえることはできない。腹の中をかき回されることで唾液を溢れるが、ギリギリのところで胃の中身を吐き出すまいと必死に耐えている。
 その様子を見せつけられているエリック殿下は、涙を流しながらぶるぶると震えていた。ジュリアは嘔吐感に堪えながら、鈍る思考で彼を想う。
(これ以上、無様な姿を見せるわけには……!)
 女騎士団長はプライドと彼への忠誠心を胸に、モリスを睨みつける。
 対抗心むき出しの彼女に、騎士とは名ばかりの男は怒りでこめかみが震えていた。
「キサマぁ……!!」
 グボッ――
 モリスが拳を引き抜いたとき、生々しい音が響く。埋没するほどの威力だった拳の痕が、ジュリアの臍まわりに刻まれていた。
「うっぷッ」
 拳を抜かれたときに腸が元の位置に戻ろうとしたことで、ジュリアはまた嘔吐感に苛まれた。生理現象により涙が滲む。
 そしてモリスは、拳を彼女の中心部からやや上のあたりに、ぴったりと押し付ける。
 今からここを殴るぞ、という意味。
(い、いま、そこを殴られたら……!)
 内臓を的確に殴りつけてくる彼のことだ。その拳は寸分違わずに抉ってくるだろう。
 胃袋を。
 吐く寸前でなんとか耐えているのに。
(そんな姿、見せたくない……!)
 殿下にだけではない。この男にもだ。
 自分が無様に嘔吐する姿なんて、誰にも見せたくはない。
 動揺の色を見せてしまったジュリアに、モリスはにやりといやらしい笑みを浮かべた。
「さすがにやばいと思ったのか?」
 へへへ、と彼は笑いながら、密着させている拳を軽く押し込んできた。柔らかくなってしまった腹筋が、ゆっくりとへこんでいく。
「あがッ――! や、やめッ――!」
「なんだぁ? やめてほしいって? 騎士団長っつっても、やっぱり女だなあ! ハッハッハ!」
 勝ち誇ったように肩を揺らす彼に、ジュリアは悔しげに歯を強く噛んだ。
「そうだなあ……ガキじゃなく、俺に忠誠を誓うならやめてやってもいいぜ?」
「なにをッ……!?」
 信じられない、と女騎士団長は彼を再度睨みつけた。
「仮にも騎士で――けっほ、かはっ! ぅぇ、騎士でしょう!? その意味が、ぇ゛ほッ――分かって、いるのですか!」
 無礼にもほどがある。殿下の前で、彼を裏切れと言うのだ、この男は。
「するわけがないでしょう! あなた――いや、おまえなんかに!」
「そうか、それでもいいんだぜ俺は。だがどちらにしろ、ガキの前で無様な姿を晒すことになるがな!」
 拳を捻りながら、ズブズブとさらに深く押し込んでくる。腹筋と腹肉がそれを包み込むように変形していった。
「あ゛ッ――!? はがッ、かっは、ぇあ゛ッ!!」
 内臓を再び圧迫感が襲い、激しく咳き込んでしまう。
 プライドを捨てても、殿下に尽くすのか。
 忠誠心を捨ててまで、自分を守るのか。
 こんなこと、本来迷ってはいけないはずだ。騎士になったとき、彼女は誓ったはずなのだ。国のため、ひいては殿下のために尽くすことを。
 なのに、腹を何度も殴られた痛みで、その判断を鈍らせてしまった。
(殿下、わたしは……!)
 助けを求めるように、彼女はエリック殿下に視線を移した。
 そのとき、はっ、とした。
 彼は確かに怯えていた。年齢相応の幼い顔に、涙さえ浮かべて震えていた。
 しかし、その表情は違う。
「……ジュリアさん!」
 視線に応えるように、少年殿下は叫ぶ。
「あなたは強い! そんな男に負ける人じゃない! 僕はいつも信じています!」
 信頼している、という眼差しだった。
 抵抗できずに嬲られている姿を見ても、エリック殿下はジュリア騎士団長から目を離していなかったのだ。それが国を治める側としての責任であるかのように。
(そうです……わたしは何を恐れているのでしょう……)
 たとえ彼に失望されたって構わない。見放されたっていい。
 それでも忠誠をつくし、彼を支えるのが騎士団だ。
「……あいにく、ですが」
 拳がめり込んでいることで呼吸が浅くなりながらも、彼女はモリスに鋭い視線を投げつける。
「わたしの忠誠心は揺るぎません……! 言わせてもらいます……恥を知りなさい!」
 その言葉が、拘束され、拳がめり込んでいる状態でできる精一杯の抵抗だった。
 殿下と女騎士団長の絆を見せつけられたモリスは、わざとらしくため息を吐いた。
「ああ、そうかい……! じゃあ、殿下の前で無様なところを晒しな!」
 モリスは拳を引いた。ジュリアの薄い腹筋に、目印のような赤い痕が刻まれている。
 男騎士は右腕にさらなる力を込め始めた。今までの殴打が本気ではなかったのか――筋肉が膨れ上がり、インナーが断裂した。
(まさか、そんな、今までよりも威力が……?)
 恐怖の感情を見せまいとしたが、ジュリアの瞳にやや影が宿る。これまでのパンチでも内臓がかき回されるほどだったのに――
「もう遅いぜぇ……! うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!」
 空気を切り裂くような音と共に、すくい上げるような拳――渾身のボディアッパーが放たれる。
 ジュリアはその拳の軌道から目を離せなかった。下から抉り上げるような軌道で、硬い拳はさきほどの赤い痕が残された箇所に、見事に突き刺さる。
 ボグンッ!!!!!
「――――ぁ゛ッ」
 大砲でも発射されたかと思うような、凄まじい着弾音。
 両足が宙に浮く。
 なけなしの力を込めていた腹筋は、何の意味もなかった。
 大きな拳は彼女の腹筋を一瞬で突き破り、ブチブチと腹膜組織を断裂させながらめり込んでいく。
 まばたきほどの間に、彼の拳はジュリアの体内に手首まで埋没した。
 そして拳は一切の躊躇なく、ジュリアの胃袋を抉る。
「お゛ォ゛ッ――!?」
 胃袋を直接殴られ、ジュリアの目が見開かれる。
 それでもまだ、終わらない。拳の進行は止まらなかった。
 そのまま胃を変形させながらズブズブと突き進み、やがて――背骨にまで届いた。
 メキッ、グチャッ――
 ジュリアは、背骨が軋む音、そして胃袋が拳と背骨に挟まれたことで、無残に潰れたことを知った。
「ごぇぇッ――ッ!!」
 ビクンと身体が震え、胃袋から絞り出されたように黄色い胃液が唇を割って溢れた。
「ぬうううううううううううん!!!」
 モリスはそれでも飽き足らず、さらに渾身の力を込めて拳を強く押し込んだ。
 ズボリ!と肘が隠れるほどまでに、拳のみならず腕までもジュリアの腹へと沈み込んだ。
 途端に、メゴッという音と共にジュリアの背中が盛り上がる。背骨の横を通り抜けるようにして、男の拳が彼女の胃袋ごと、背中にまで到達したのだ。
「おぶッ――! ~~~~ッッ! げボッ! お゛うぇ゛え゛ぇぇぇぇぇッ!! うげェろォォッ――――!!!」
 白く濁った吐瀉物が、汚いうめき声と一緒にぶちまけられた。
 ぺしゃんこに潰された胃から、逃げ場をなくしたように内容物が次々と溢れ出す。ビチャビチャと、部屋を一気に異臭で満たし、床を汚した。
 体内の全てを出し切るのではないかと思うほど、ジュリアの嘔吐は続く。
「ごぼろッッ――!  ぇ゛、ぅごエぇぇ――――!! ぐぉェェ~~~~ッ!!」
「はあ……はあ……! 思い知ったかよ、女騎士が……!」
 吐瀉物にまみれた腕を、モリスが引き抜いていく。同時に、背中に生まれた小さな丘が戻っていった。
 彼は拳がようやく現れるまで、十数秒をかけた。グポリ、と最後に音をたてて拳が引き抜かれたが、ボディアッパーの威力は凄まじく、ジュリアの腹に陥没が残された。
 おそらく、胃袋も拳の形に抉られたまま元に戻っていないだろう。それほどまでに彼の拳は強烈だったのだ。
 しかし――
「こ、この女……! なんで意識を持っていられるんだ……!?
 腹筋と腹膜、内臓は特に胃袋、さらには背骨付近にいたるまでのダメージは、彼女を失神させることはなかった。
 鋭い痛みのせいかもしれない。こんな状態ではさすがに失神さえ許されないか――とモリスは考えようとしたようだったが――
「どう、したの、ですか――こんな拳で、わたしを、どうにかできると――」
 それで終わりなのか、とでも言うかのように、ジュリアはかすれた声で呟いた。
 額は汗で濡れ、口元は胃液と吐瀉物でベタベタに汚し、腹はいまだに陥没から戻っていない。
 それでも彼女はまだ、屈していなかった。
 目の色が、死んでいない。
 ひっ、とモリスは明らかに怖気づいた。だが、拘束している以上彼女は抵抗できないし、先ほどのボディアッパーで満身創痍であろうことは明白だ。
 もう一発ぶち込んでやれば、いくらなんでも屈服するだろう。
「な、なら次でトドメを刺してや――」
 彼が再び拳を構えようとしたとき、その背後で何かが動くのを、ジュリアは朦朧とした意識の中で見た。
 エリック殿下が、椅子の縛りを解いていた。
 彼は火事場の馬鹿力と言うべきか、自分の身体ほどもある椅子を持ち上げて、モリスの後頭部に直撃させた。
「ぐげッ!?」
 鈍い音と共に、間抜けなうめき声。彼はその一撃で意識を失ったのか、どさりと床に崩れ落ちる。
 エリック殿下は足元の吐瀉物で靴が汚れることもいとわず、拘束され、腹部への激しい殴打で疲弊しているジュリアに駆け寄った。
「ジュリアさん! ジュリアさん! しっかりしてください!」
「ああ――殿下、お怪我は――」
「ないです、このとおりです! い、いえ、僕はいいのです! ジュリアさんが……!」
 殿下はこらえきれず涙を流して、女騎士団長にすり寄る。傍から見れば、まるで姉と弟のようだろう。
 ジュリアは彼がすぐそばにいることに、騎士として満足感を覚えつつあった。と同時に、今にも消え入りそうな意識の中で、遠くで足音が鳴っていることに気づく。
 乱れぬ足音は、間違いなく我が国の騎士団によるものと分かった。
「援軍が来ました、殿下――もう大丈夫です――」
 これで殿下の危機は去った――そう確信できた女騎士ジュリアは、安堵のためか張りつめていた精神の糸が切れたように、眠りに落ちた。

 殿下の間。
 女騎士団長ジュリアは、豪華な椅子に座っているエリック殿下の前で膝をついていた。
 まず、エリック殿下が口を開く。
「ジュリアさん、まずはお礼をさせてください。ありがとうございました」
「とんでもございません。騎士団として任務を全うしたまでです」
「お体は大丈夫ですか? 丸二日は眠っていたと聞いたので……」
「ご心配をおかけし申し訳ございません。恐れ入りますが、まだ完全には回復していない状態です」
 実際、特に内臓器官のダメージはまだ残っていた。腹部には痣が残っているし、暴力的な殴打により変形させられた肺や腸、そして完全に潰された胃袋は、いまだ元の形を取り戻してはいない。
「そうですよね、僕のために、本当にごめんなさい……」
「何をおっしゃいますか。殿下をお守りするのが使命であるのに、危険にさらしてしまったこと、わたしの落ち度でございます」
「い、いや、僕の方が悪いんですよ。そもそもさらわれたりしなければ……」
「いいえ! 騎士団長であるわたしの責任です! どうか厳正なる処罰を!」
 頑固、という言葉がぴったり当てはまるほどの様子に、エリック殿下は困ったように頬をかいた。
 ただ、彼は当初の予定どおり、彼女を呼び出した理由を告げることにしたようで、背筋をピンと伸ばした。
「では、ジュリア・レインズ騎士団長」
「はっ」
「その……あの……」
 エリック殿下はもじもじと言い淀んでいる。頬がどことなく朱色を帯びていて、なにをそんなに緊張することがあるのか、とジュリアは思わず首を傾げた。
 しかし、どのような命令でも受ける覚悟でいることは変わりない。彼女は彼の言葉をじっと待つ。
 こほん、とわざとらしく咳払いした少年は、意を決したように女騎士団長を見つめる。
「僕と……婚約してくれませんか」
「はっ。このたびの下命しかと承り――はっ!?」
 ジュリアの方も予定通りの返事をしようとしていたのだが、まったく予想していなかった言葉に素っ頓狂な声を漏らした。
 エリック殿下はというと、それこそ純粋無垢な少年のように、頬を上気させている。
「な、なな、なに、なにを……!?」
「で、ですから、婚約です。僕はまだ結婚できる年齢ではありませんから、その歳になった際に……」
「いや、そういうことじゃなくて! どうしてわたし!?」
 動揺しすぎて騎士としての言葉遣いさえ怪しくなり始めたが、エリック殿下はまったく気にしていなかった。
「こ、こんな、剣を振るうしか取柄のない女ですよ! いえ、騎士となった時点で女を捨てているのです! わたしなんか、女としての魅力なんて!」
「ありますよ! かわいいところをいっぱい見せてくれました!」
「か、かわっ!? わ、わたしの何がかわいいって……!」
「えと、それはその……凛々しい姿とのギャップと言いますか、強気な女性が――色々されているのは、ちょっと、クるものがあると言いますか」
 よせばいいのに、エリック殿下は年相応の少年らしく正直者であった。
 ジュリア騎士団長は、彼の言わんとすることをなんとなく察した。こうして殿下と一緒の時間を過ごしたのは――あの時しかないだろう。
「……殿下? いま何をお考えで……?」
「い、いいえ、別に変なことでは! ジュリアさんが痛めつけられているところを思い出しているだけです!」
「いや変ですが!? 何をおっしゃりたいのかよく分かりませんよ殿下!」
「ですから! とにかく! 弱々しい姿は、女性としてとても魅力的であるということです!」
「それの意味が分かりませんってばぁー!」
 本当に意味が分からないが、意図せずして、あの時の光景が彼の幼い精神的な何かに多大な影響を与えてしまったようだ――
 ジュリア騎士団長は、少年殿下からの求愛をどうしたものかと、これからも頭を抱えるのだった。

【skeb】★花びらたち ―カトレア外伝―

skebで、うちの子であるカトレアのリクエストをいただきました。ありがとうございます。
本編を読んでいなくても問題ないように書いたつもりですが、読んでいない人がいたら、是非本編もどうぞ。
https://skeb.jp/@otoha_39/works/2
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 王妃コスモスの前に現れると、カトレアはすぐに膝をついてかしこまっていた。
 小柄な体躯。艶やかな黒髪はポニーテールに結っている。
 十五歳だが、黒をベースに白のフリルをあしらった法衣は、幼い雰囲気をさらに強調させていた赤いスカートから伸びた両脚は、膝上まで黒く長いソックスで覆っている。
 その姿に軽くため息をつきながら、銀髪の王妃は豪華な椅子に座ったまま口を開く。
「西にある遺跡のこと、分かる?」
 そこでようやく、カトレアは顔を上げて王妃の瞳を見返した。
「はい」
「あなたに行ってもらおうと思って」
 コスモスは手に持っていた紙の資料を見せながら、ひらひらと促した。
 彼女の言葉にはっきりと返事はしないものの、カトレアは立ち上がると、幾分軽快な足取りで王妃の前まで歩み寄った。
 紙の束を受け取ると、ぱらぱらとめくっていく。資料といっても三枚しかないのは、まだ詳しく調査されていないからだ。
 この国はまだ立ち上がったばかりで、馬車などの重要な運行ルートはある程度確保されているといっても、森や山の奥はまだ未開拓だった。
「私でよろしいのですか?」
「ええ。好きでしょう? こういうの」
 意味ありげに微笑むコスモスに、カトレアは頷かなかったが、その瞳には好奇心の色が見え隠れしていた。
 彼女は、こういった『何かありそうなところ』に興味を持っている。普通の感覚なら、不気味で怪しいとか、危険かもしれないと考えるところだが、カトレアにとっては好奇心の方が勝るのだった。
 有り体にいえば、カトレアは「ロマンチスト」なのである。他の者が聞いたら、目を見開いて驚くことだろう。彼女の性格上、基本的に他人とは時間や趣味を共有しないからだ。
「承知いたしました。お任せを」
 背筋をピンと伸ばしたまま、カトレアは王妃を見つめ返した。
 頼もしい返答にコスモスはうなずいたが、少し眉を下げながら言う。
「ねえ、カトレア。あなたがとっても強い子だっていうことは分かってるけどね?」
 わざと一呼吸を置いてから、彼女は続ける。
「たまには誰かと一緒に、探検してみたら?」
 カトレアは、彼女の言わんとしていることをすぐに悟った。
 一人は危険だ、と言いたいのだろう。当然の意見ではあったが、カトレアは首を横に振った。
「わたし一人で十分です。定刻になっても戻らないときは、お願いします」
 そう返しながら一礼。半ば逃げるようにして踵を返し、扉に手をかけた。
 尻尾のように揺れる黒髪が見えなくなると、コスモスはまた一つため息をつきながら、銀髪を撫でた。
「……友だち、欲しくないのかしら」

 そこはまだ、国の手が及んでいない遺跡だった。
 周囲の森林はある程度伐採が進み、近隣へと道筋が確保されているものの、奥へと進んだ箇所はまだ手つかずだった。
「……」
 腰に刀を携えたカトレアは、臆することなく、むしろこの目で確かめたいとでも言うかのように、遺跡の入口へと足を踏み入れた。

 空気は少し重たいが、毒素は無い。このまま進入しても問題ないと判断する。
 ランタンを掲げながら、少女は観察するように壁や転がっている石などを確認した。
(さほど古くはない……後期のものかもしれない)
 周囲からもクールで感情を表に出さないと評されている彼女は、顔には表れていないものの、確かに気分が高揚しているのだった。
 しばらく歩を進めるにつれて、壁のつくりなどに変化が見え始めた。土や岩で構成されたものと思われるが、どことなく人工的で、表面がやけに滑らかに感じられる。
 やがて、目の前に壁が現れた。ランタンで照らした状況を見る限り行き止まりで、引き返すしかないように思える。
(いや、壁ではなく、扉だ)
 視覚だけで判断したカトレアは、ランタンを置いてから、腰に提げている刀の柄を握り込む。
 抜刀する構えを取ると、長く息を吸い込み、ピタリと呼吸を止める。
「――――ッ!!」
 ため込んだ酸素を吐き出すと同時に、刀が暗闇の中で空を薙いだ。それはあまりに一瞬で、どれだけ洗練された戦士であっても、斬られたことに自覚なく絶命するほどの速さだった。
 壁と思われた扉が、斜め上に一直線の亀裂が走る。紙を切るようにあっさりと、音たてながら扉はただの瓦礫と化した。
 彼女は『戦器士』だ。何らかの武器の扱いに長けた魔法使いである。
 ゴトリと扉が落ちた先には、開けた空間があることをカトレアは目にする。
 ランタンを手に取って明かりを強めながら、刀を納めた彼女は中に足を踏み入れた。
 そこはさほど広くないが、ランタンでは天井が見えないほど高い。動き回るには十分な広さだから、何かを目的に用意された場所であることは間違いなかった。
 それに、先ほどとは違って、空気が少し生ぬるいと感じた。外と遮断されていたから――だけではなさそうだった。
(これは――雷の魔力――? いや、人工的だ)
 おそらくカトレアほどの熟練者でなければ、感じ取ることさえできなかっただろう。
 事実、ここには雷属性と言ってもよい性質がわずかに残っていた。ただし、それは雷の魔法を行使した残滓には感じられない。
 カトレアがさらに一歩踏み出したとき、唐突に部屋全体に明かりが灯った。
「――ッ!!」
 ランタンは必要ないと即座に判断して投げ捨てる。同時に、彼女はもう抜刀まで完了していた。
 この部屋はやはり、広くもなければ狭くもない。ふと、カトレアは剣術の試合場を連想した。
『――エントリーを――認しました――』
 無機質で、途切れ途切れの声が天井付近から聞こえた。誰かいるわけではない、と彼女はすぐに悟った。どういう理屈かは調査しないと分からないが、自分の存在に反応してこの部屋は機能を回復したらしい。
『訓練者は――レベル――に設定』
 見れば、向かい側になるのも壁ではなく、先ほど斬ったようなさび付いた扉があった。それが音をたてながら、ギギギ、と開いていく。
 奥は暗くてよく見えないが、歩いてくるような音に伴って、そいつは姿を表す。
「機械人形……!」
 思わず呟いた彼女の瞳は、むしろ好奇心の色がありありと表れていた。
 遥か昔に栄えていた文明で”いた”とされる、自律行動する人形だ。今目の前に出現したのは骨組みがそのまま見えていて、細く脆そうに見える。
『時間は――とします――練を開始』
 声が命令しているのか、機械人形はその細い体で襲いかかってきた。明らかな敵対行動と見ていい。
 この存在は持ち帰るべきだ、とカトレアは考えた。無力化することは容易いが、できるだけ傷をつけたくない。
 だから彼女は背後の出入口へと後退しようとしたが、一瞬、寒気を感じた。
「くっ!?」
 その正体を見極めるより前に、肉体が動いていた。ぐっと膝を曲げると、突進してきた機械人形を飛び越えるように跳躍する。
 あまり性能の良い代物ではないのだろう。カトレアを見失った機械人形はそのまま、扉を斬った穴へと突進していく。
 あちら側へと飛び出す瞬間、機械人形はけたたましい音をたてて火花を散らした。それこそ、雷の性質を持った魔法攻撃が命中したかのように、全身が痙攣している。
 やがて煙を噴き出しながら、ガシャリと床へ崩れ落ちた。
(――出られないか)
 カトレアはすぐに確信した。魔力の性質は感じられないものも、出入口は目に見えない結界のようなもので塞がれているのだろう。しかも電撃で覆われているのだ。
『クリアを確認――残り時間は――分――レベルを――します』
 カトレアの鼓膜を、再度機械人形の足音が叩いた。彼女は数少ない事象の中から、情報を整理する。
(時間は分からないけど、終わるまで続く)
 おそらく機械人形が次々と現れて襲い掛かってくるのだろう。”残り時間”という言葉から、無限に続くわけではないことも理解した。
 仕方ない、とカトレアは刀を握り直す。ここを突破するには、機械人形を撃退しなければならない。
 再びあの扉が開き、二体目が現れる。その機械人形は先ほどよりも骨組みが太く、全体がどっしりとしていた。
(先手――!!)
 動きが鈍そうに見えたため、カトレアは先に仕掛けた。ポニーテールが揺れる。
 一呼吸のうちに機械人形へ肉薄すると、刀を上から下へ振り下ろした。
 ヒュッ、と空気を斬る音と共に、機械人形の身体に一筋の線が走った。一瞬のうちに機能停止になったそいつは、真っ二つに割れて床へと崩れ落ちる。身体の中からバチバチと火花が散っているのが見えた。
 そして予想通り、次の声が流れてくる。
『クリアを確認――残り時間は――分――レベルを――します』
 次の足音は、幾分軽い印象がある――とカトレアが感じたとき。
 扉が開いた瞬間、その機械人形は身軽な動きで扉の奥から突撃してきた。
「こいつ――ッ!?」
 まるで格闘戦になれた戦士のごとき俊敏さ。カトレアは動揺したものの、一瞬のうちに最適な行動を判断する。
 身を屈めながら刀を走らせると、機械人形が繰り出していた腕を回避しながら、そいつの身体を横一線に薙ぎ払っていた。
 ものの数分で、機械人形が三体、床に転がった。その姿かたちを見比べ、カトレアは眉をひそめる。
(学習しているのか? 私を)
 その推測はすぐに確信へと変わった。次に現れた機械人形は、ほぼ人間と同じような体格で、しかし急所となるような箇所は厚みのある金属で覆われている。
(面倒な――!)
 倒せば倒すほど、機械人形の強さが増していくことになる。
 それに、相手は人間ではない。体力的な問題を考えれば、続ければ続くほど不利だ。
 ならば、とカトレアは距離を取る。できるだけ倒さずに、制限時間が来るのを待つのが得策と考えたからだ。
 しかし、そう簡単に事は進んでくれないようだった。
『進行の停滞――訓練者に――を実行』
 訓練者とは、自分のことだろう。カトレアが訝しんだ途端、視界が明滅した。
「がッ――――!!?」
 バチッと音がして、神経という神経が悲鳴をあげる。まるで雷の魔法が直撃したような激痛が全身に響き渡る。
 硬直してしまったカトレアへと、大柄な機械人形が接近する。痺れによって満足に動けなくなった少女の腹部に、金属の拳が叩き込まれた。
「げふッ――!!」
 肉を打つ鈍い音が響き渡る。
 カトレアの華奢な身体がくの字に折れて、衝撃のあまり吹き飛ばされる。壁に背中から叩きつけられると、刀を落として崩れ落ちた。
「ッ、かっは……! ぐッ――!!」
 酸素が吐き出されて、視界がぐらりと揺れた。
 ズシン、と足音が近づいてくる。
 正体不明の電撃によって身体が痙攣しているものの、カトレアは命の危険を感じ、
「く、ああああああああああああああ!!!」
 そばに落とした刀を掴むと、奮い起こすように叫びながら、膝立ちになって刀を振るった。
 機械人形は足元を掬うように斬られ、胴体がゴトリと床へ落ちる。
「はあ、はあっ――! 厄介な――!」
 呼吸を乱す彼女の額には、汗が浮かび髪が張り付いていた。なんとか立ち上がったものの、電撃が四肢にまで影響を及ぼしていて、膝が小刻みに震えている。
 ガシャリ、と足音。再度、機械人形が扉から出現した。
「はぁ、はぁ、ふっ――」
 汗を拭いながら、カトレアは冷静さを取り戻そうと深呼吸した。
 状況が悪いとはいえ、分かりきっていることはある。聞き取りづらい天井からの声は、確かに「制限時間」と言っていた。
 だから、この戦闘はいつか終わりが来るということだ。”いつ”かは分からないが、訓練と銘打っているのだから、半永久というわけでもあるまい。その事実だけでも十分希望と言えた。
(……最も不安要素なのは、私自身か)
 肝心な体力的問題があった。相手は人間ではなく、しかも、おそらく無尽蔵に湧き続ける機械人形だ。時間が長引くほど、カトレアの方が不利である。
 ふと、コスモス王妃の言葉が頭をよぎった。
『たまには誰かと一緒に、探検してみたら?』
 歯を噛みながら、彼女は刀を握り直す。後悔などしている場合ではない。
『――――!』
 機械人形が声らしき音を響かせながら、攻撃を仕掛けてくる。
「ふぅ――ッ」
 再度呼吸を整えながら、敵の挙動を見極める。
 カトレア自身はもちろん戦器士として鍛えているものの、線は細く筋肉量も少ない。剣術の技術的なスキルの高さが、彼女のもっとも信頼できる武器なのだ。だから、いかに体力を温存しながら戦うかが重要だった。
「ッ!」
 機械人形の放ってきた金属の拳が迫る。それを紙一重で回避すると同時に、金属の身体は真っ二つに避けた。
 重心を下半身に落としながら、カトレアは扉を睨みつける。この地点から一歩も動かぬという意志が瞳に宿っていた。彼女はすべて、カウンターで機械人形を全て斬り伏せるつもりでいるのだ。
『クリアを確認――残り時間は――分――レベルを――します』
 ガシャリ。
 次の機械人形は、先ほどまでとは違って装甲が薄くなっていた。両脚部分は細いが、その割に腕の部分は厚く不格好と言える。
 そいつは両腕おもむろに前へと突き出す。カトレアが眉をひそめたとき、機械人形の両腕が爆発したかのような音をあげながら、”発射された”。
「くっ――!」 
 勢いよく迫ってくる機械の腕を、カトレアは斬り払った。一瞬のうちに二本の腕は四つに分かれて、壁に激突してバラバラに砕け散る。
 そして、肝心の機械人形はというと、発射したところから一切動かないのだった。
 チッ、とカトレアはらしくもなく舌打ちをした。このまま停滞していたら、またあの電撃を受けてしまうかもしれない。
 苛立ちを抑えきれないように、彼女はその場から駆け出す。無防備に直立している機械人形へと刀を振り下ろすと、火花を散らしながらガラクタと化して床へと転がる。
(体質がこうでなければ――!)
 そう、カトレアは一般人の女性よりも、はるかに魔力の保有量が少ないのだった。
 氷属性を有する彼女だが、水たまりを軽く凍らせるだけでほとんどの魔力を使い果たしてしまう。
 満足に魔法が行使できれば、遠距離から攻撃も可能だったろう。今の状況はまさに運が悪いと言えた。
 いつもの天井の声が次の機械人形を呼ぶのだろうと思っていたが、
『――遠距離型への――を感知――における――違反――を実行』
 どういう意味かは分からなかったが、何が起きるかはすぐに悟った。だがそれに対抗する術もなく、
「ぎッ――!? あががががががががッ!!」
 再び強烈な電撃が襲いかかってきて、視界が明滅した。全身隅々にまで電撃が広がり、激痛に耐えられず膝を折る。ビクビクと痙攣する小柄な身体から煙がたちのぼった。
『残り時間は――分――レベルを――します』
 それでも無機質な声が鼓膜を叩く。
 ガシャリ。ガシャリ。
 機械人形の足音が、もう一つ増えた。
 心臓がひやりとする。
(た、立たないと――!)
 カトレアは刀を杖がわりにして立ち上がろうとするが、両足にうまく力が入らない。
 ふらふらする頭とぼやける視界で見えたのは、体躯の厚い機械人形が二体。白と黒の体をしていた。
1.  それらはすでに肉薄してきており、もう黒い金属の拳が迫ってきていた。
「う゛ッ――!?」
 腹部の中心に重い拳が抉り込まれる。電撃で全身の筋肉が引き攣った状態では、カトレアの引き締まった腹筋もほとんど意味を為さなかった。
「く、かっは、けほッ――――!!」
 片手で腹部を押さえながら後ずさる。
 人間とは違った硬く無機質な拳は、確実に彼女の肉体へダメージを与えていた。もともと筋肉量も少ないカトレアにとって、単なる殴打でさえ致命的な攻撃になりえる。
(人形ごときに、遅れを取って――!)
 敵を侮るような彼女ではないが、今の状況には己の不甲斐なさと後悔すると同時に、運の悪さに苛立っていた。
 息を乱すカトレアに対して、呼吸の必要がない機械人形はお構いなしに近づいてくる。二体同時に。
 真正面から来るなら対処しやすい。カトレアは刀を振ろうとしたが、腕に力が入らなくなっていることに気づいた。
(こんな、ことが――!)
 腕の神経がびりびりと痺れている。すでに二回も正体不明な電撃を受けていて、その影響は想像よりも深刻だったのだ。もはや気力だけで柄を握り、かろうじて立てている状態なのである。
 動揺してしまったカトレアに迫るのは、もう一体の――白の機械人形によるボディブローだった。
「ぐぶッ!?」
 ミシッ、薄い腹筋が軋みをあげた。カトレアの目が見開かれる。
 金属の拳が半分以上隠れるほど、黒の法衣にずしりとめり込む。華奢な体が敵の腕にすがりつくようにくの字に折れた。
「がっは、かッ――ぇ゛ほっ――――!!」
 苦しげに咳き込むたび、彼女の口から唾液が飛び散る。
 機械人形たちの動きが止まることはなく、拳を引き抜いた白の方は、彼女の体が崩れる前に首を掴み上げた。
「ぅぎッ――!?」
 軽々と持ち上げられて両足が浮く。呼吸さえままならなかったのに、首を圧迫されたカトレアの瞳孔が細くなった。
 白の機械人形はそのまま前へ歩き、カトレアを乱暴へと押し付けた。
「かはッ――」
 なけなしの酸素が吐き出される。
 首を閉められているものの気道はかろうじて隙間が残っているのか、呼吸自体は可能だった。カトレアはなんとか酸素を取り込もうとしたが、
 ボグッ!!
「ごォ゛ッ――!!」
 小さな口から、唾液の塊が飛ぶ。
 再び猛打が腹部に叩き込まれたのだ。
 壁を背にしていることで、衝撃は逃げることなく少女の腹部、内臓にまで響き渡る。
 激しく咳き込むカトレアの腹へと、次は黒の機械人形の拳が突き刺さった。
「おぐッ!? ぅ゛ぇ、ぐッぷ――――!!」
 白と遜色ない威力のボディブローは、腹筋を突き破り、拳が隠れるほど沈み込んだ。
 内臓が音をたてながら突き動かされ、舌が飛び出す。
 黒の腕が引かれると、次は白の腕。少しへこんでいる腹部に着弾し、さらに深く陥没する。
「ぅぐゥ゛ゥ゛っ! ――――ごふッ!?」
 ぐぽり。
 金属の拳にって腹筋ごと内臓が押し込まれる。ついに濁った胃液まで吐き出し、突き刺さっている白の腕に垂れ落ちた。
 痛みと嘔吐感に苛まれたカトレアは、混濁している意識の中で一つの事実に気づいていた。
(ウィークポイントを、理解、している――)
 おそらく、この訓練とやら開始された時点で、こちらの肉体的なレベルが解析されていると思われた。だからこそ三体目の機械人形も、真っ先に腹部を狙ってきたのだろう。
 人間において重大な機能を集約しているのは、間違いなく内臓器官と言える。だから効率的な行動を主とする機械人形たちは腹部しか狙わない。
 自分の肉体を強化することだってできるまっとうな魔法使いならともかく、カトレアにはそんな余裕のある魔力を持ち合わせていない。だから単純な殴打さえ、そのままの威力でまともに受けるしかないのだった。
 二体の機械人形は、執拗に少女の腹を殴打した。訓練場に肉を打つ音が連続で響き渡る。
「ふぐッ!? ぐ、ぇ゛――! お゛ッ! うぅ゛グッ――!!」
 壁に釘を打つかのように、カトレアは蹂躙とも言える攻撃を受け続けた。
 ただ、肉体的には年齢相応でも、彼女の気力や精神力は並大抵ではない。むしろそれが逆に、意識を失わせずにいた。
「ぅげァ――ッ!? ぐぅ゛――! げッ、ぇぼッ――――!!
 ドスンドスン、と。
 華奢な腹部に、金属の拳が何十発とめり込んだ。
 そのたびに、内臓が揺れ動き、苦悶する。
 普段はクールな彼女とは思えないほど、濁ったうめき声になっていく。
 殴打をひたすら繰り返されて、法衣の腹のあたりが破れ始める。わずかに覗いた彼女の肌はすでに内出血で赤黒くなっており、内臓も相当なダメージを受けていることが窺えた。
(このままでは――もたない――)
 とどまるところを知らない機械人形の集中攻撃に、カトレアは意を決した。
 首を掴んでいる白と、黒の肩に手で触れる。
「凍結――ッ!!」
 己の魔力を解放した。一日でほぼ一回しか使えない程度の魔力保有量で、生き延びるために魔法を行使する。
 二体の機械人形が、ピタリと動きを止めた。よく観察すれば、表面が次第に凍りついていく様子が確認できる。
 ほんの数秒で、それらはただの氷像と化した。首の圧迫から解放されたカトレアは、腹部を抱えるようにして床にうずくまる。
「ごえぇッ! がッ、は――、ゲホっ、ぅっえ――――」
 気道が広がったせいなのか、押さえこまれるようになっていた胃液が再び溢れ出した。
 苦痛に喘ぐ少女に構わず、部屋全体にあの声が響き渡る。
『クリアを確認――残り時間は――分――レベルを――します』
 ガシャリ。
 新たな機械人形の足音。
 なんとか意識だけは保っているカトレアは顔を上げて、敵の姿を確認する。
 赤色の機械人形。一体だけだったが、手足が、これまでの人形よりも遥かに重量感を増していた。
 かと言って鈍重な動きでもなく、一目散にカトレアへと接近する。
「はあっ――はあっ、か、ふッ――!」
 手から零れ落ちた刀がそばにあるのに、身体が言うことを聞かない。ギリギリな状態で魔法まで使ったせいで、彼女はもうとっくに限界を超えていたのだった。
 逃げだすこともできずに、少女の頭が鷲掴みにされる。
「づあッ――!」
 まるで子供でも持ち上げるような軽々しさで、またしても壁に押し付けられる。カトレアは、もう為す術もなかった。
『――――』
 無機質な声がそいつから聞こえてきた。理解はできないが、これから何をされるかは想像に難くない。
 自分の腕より三倍近く太い金属の腕。それが音をたてながら引き絞られると、真っすぐにカトレアの腹部へと突き込んだ。
 ゴオン! と、火の魔法が爆散したかのような音が響いた。
 カトレアが背にしている壁に、幾筋もの亀裂が走る。
「――がぁッ、はア゛っ゛――!!?」
 零れ落ちんばかりに、少女は目を見開く。
 赤い拳は腹筋を断裂させながら、あらゆる内臓器官を滅茶苦茶に動かしながら突き進んでいく。
 機械人形の狙いは、胃だった。
 カトレアの決して大きくはない胃袋に、分厚い拳が激突する。
「げっはッ!!」
 胃への衝撃で、カトレアは再び胃液を零す。
 それでも、機械人形の拳は止まらなかった。
 胃袋をそのまま押し込んでいく。
 そのまま背骨にまで到達し、拳と両方から挟まれるようにして、胃が潰れた。
(あッ――――)
 グチャッ、と音がした。
 その瞬間に、腹の奥から一気に熱いものが込み上げてくるのを、カトレアは感じた。だが当然、押さえ込むことなど不可能だった。
 少女の喉が蛇のように波打ち、水っぽい音が鳴る。そして青ざめている顔の頬が一瞬膨らむと、
「ごぶ゛ゥッ――!! う、ごえ゛えぇぇェェェ! ぐぼろぇッ――!!」
 ドパッ、と。
 小柄な少女は、黄色く濁った吐瀉物を撒き散らした。突き刺さっている赤い腕に、びちゃびちゃと降りかかる。
「お゛え゛ッ! ぐっぷぅぇ――、んオ゛ッ、ごぽッッ!!!」
 調査前に食べていた野菜や魚類が、消化しきれていない状態で床に飛び散っていく。
 全身がガクガクと痙攣している少女の姿は、それこそ無邪気な子供に弄ばれる人形のようであった。
 嘔吐が一旦止まると、機械人形は拳を引き抜いた。ぐぽり、とカトレアの内臓が喘ぐ。拳が抜かれても、腹の陥没は戻らないままだった。
 呼吸困難になっているカトレアはパクパクと口を震わせている。そこへダメ押しのもう一発が、無常にも襲いかかった。
 すでにへこんでいる腹部へ吸い込まれるように、大きな拳が再びズドンと沈み込む。
「~~~~~~~~~ッッ!!!!」
 今のはもはや、うめき声とも言えなかった。再度カトレアは吐瀉物をぶちまける。
 金属の腕と床にバシャリと、吐瀉粘液が音をたてた。異臭が部屋に広がっていく。
 こんなに、なるまで。
 腹筋を断裂させられ、腹腔が内出血するまで、胃袋を完全に潰されるまで、殴られているのに。
(――私には)
 カトレアという少女の瞳の色は、
(使命がある――)
 決して消えなかった。
 訓練場となるこの部屋は、いつまでも少女の腹を打つ音と、うめき声が繰り返された。

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「――――あ」
 かすかな光を感じて、カトレアは瞼を開いた。視界は遺跡の天井ではなく、日常的に目にしている天井があった。
「あら、おはよう」
 聞きなれた声に、視線だけを動かす。そこにはコスモス王妃が椅子に座っていて、手には本を持っていた。
 鋭い洞察力を持つカトレアは、すぐに今の状況を理解する。ここは病室で、清潔なベッドで眠っていたのだろう。
「……ありがとうございます」
「ううん。お礼はモミジちゃんにも言ってあげてね」
 おそらく、救出班メンバーことだろう。定めた時刻を過ぎてもカトレアが戻らなかったため、緊急事態のステップへと移行したのだ。
「あの子、あなたのこと憧れているのよ。少しは気にかけてあげてもいいと思うわ」
「……」
 明確には答えず、カトレアは体を起こそうとしたが、
「ふ、ぐッ――!」
 腹部に激痛が走り、思わず呻いた。
「あーダメダメ、寝ていなさい。治療士三人で二時間もかけたの。この意味分かるでしょう? それとも、あなたのお腹の中がどうなっていたか、聞きたい?」
 ぐ、とカトレアは口をつぐむしかなかった。
 いくら肉体的なダメージが深いからといって、何時間も費やすのは異常だ。絶命寸前であったことは想像に難くない。むしろ、生きているのが不思議なくらいだった。
 少女は呼吸を整えつつ、頭を枕に戻す。うん、と頷いたコスモスは腕を組んで、
「ともあれ、さすがにもう分かったんじゃない? ――あなた一人では限界がある」
 コスモスには悟られないように努めたが、無意識のうちに顔を背けてしまっていた。
 ふふ、と王妃が微笑む声がした。
「とにかく今は休みなさい。わたしの権限で休暇を与えます。そしてもう一つ……あなたにはパーティを組んでもらうわ」
「それは――ッ!」
「あーら? これは命令なのよ、王妃直接の。お分かり?」
 卑怯だ、とカトレアは視線で訴えかけた。しかし王妃は気にも留めない。
「カトレア、あなたの使命はあなただけのものじゃないわ。わたしも、みんなにも同じことが言える。――あなたは一人じゃない」
 優しく諭すように、コスモスは語りかけてくる。なぜか、心がふわふわと浮遊するみたいになって、気持ちが安らいでくる気がした。
 やがて、カトレアは諦めたように視線を外した。
「どうすればいいのか、分かりません。私は、ずっと一人だったから」
 今さら誰かと組んで行動するなんて、考えたことすらない。友人と呼べる人間は必要ないとさえ感じていたのだから。
 他人とどう接すればいいのか、何も分からない。
 まるで子供のように目を伏せるカトレア。そんな彼女を安心させるように、コスモスは続ける。
「大丈夫よ、わたしが選んだから。きっと仲良くなれる」
 端麗な顔で柔らかい笑みを浮かべながら、彼女はその名前を告げた。
「チューリップとマーガレット。今度からよろしくね?」
 二人の名前をカトレアは心に刻みつける。名前だけは間違えないようにしよう、と思ったからだ。
 それに、なんとなく――
 なんとなく、運命的なもの感じるのだった。