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★ポケモンBW2女主人公

※ポケットモンスターブラック2、ホワイト2の進行状況によってはネタバレとなります。ご注意ください。




「ルカリオ! はどうだん!」
 メイの命令に従い、ルカリオは体の奥底に秘められた波動の力を両手に込める。球状にチャージされたエネルギー弾が解き放たれ、マニューラへと襲い掛かった。効果は抜群で、一撃で瀕死に陥る。
「ぬう……!」
 プラズマ団幹部のヴィオは、手持ちの三匹がルカリオただ一匹に倒されてしまい唸った。彼はこの少女と戦うのは三回目だが、いずれも惨敗である。
 その隣では、彼の手下が少女の仲間と戦っていた。それもすぐに勝負が決する。
「くそぉ、俺とお前のポケモン、何が違うってんだよ!」
 プラズマ団のしたっぱは舌打ちしながらモンスターボールを床に叩き付けた。彼らは人から奪ったポケモンを使っている。愛情を込めて育てていないポケモンとでは、もはや勝負にすらならない。
「ヒュウ、平気?」
「ああ、プラズマ団なんかに負けてたまるか!」
 少年――ヒュウは、妹のチョロネコというポケモンを取り返すためにプラズマ団を追い続けていた。故郷のヒオウギシティでは近所に住んでおり、メイにとっても兄のような存在である。
「それにしても、ここは一体なんだ……」
「あれ見て」
 メイはガラス張りになっている床を指差す。その向こうでは、白く、そして銀色に輝く巨体が静かに息をしていた。
「凍り付いている……まさか、ソウリュウの……!」
 先日、プラズマ団はこの空飛ぶ船から砲弾のようなものを発射し、ソウリュウシティを氷漬けにしてしまった。その氷はソウリュウのジムリーダーのドラゴンポケモンをもってしても砕くことができなかった……
 視線の先にいるあのポケモンは氷タイプに見える。メイは今まで野生で出会ってきたポケモンたちとは違う何かを感じ取って思わず体を抱きすくめた。明らかにあれは異質だ。
「ふむぅ、存外さといトレーナーだ」
 ヴィオがヒュウの表情を見て呟く。
「それほど分別があるのになぜ、ワタシたちのアジトに乗り込む危険を冒すのだ?」
「決まってる。妹のポケモンを取り戻すためならなんでもする」
 ヒュウは怒りっぽい性格ではあるが、今このときの彼はいつもと違っていた。
「五年前、ヒオウギでチョロネコを奪ったのはオマエか!」
 鋭い眼光で睨む彼にたじろぐことなく、プラズマ団の幹部は鼻で笑う。
「チョロネコくらい誰かが奪い、使っている。だが解せぬ……チョロネコなら他にもいるのに、なぜそこまでこだわるのだ?」
「死んだじいちゃんが妹のために捕まえてくれたチョロネコは、世界にそいつだけだからだよ!」
「ヒュウ……」
 メイは俯いた。彼のおじいさんのことはかすかに覚えている。チョロネコも。ヒュウの妹の笑顔も。
「個人の想いか……それはお前にとってとても大きなことだろうが、他人から見ればどうにも小さなものだぞ」
 全く口の減らないヴィオに、メイもふつふつと怒りを募らせていく。何なんだこの人は。ポケモンをまるで道具みたいに!
「それに比べこの船の威容を見たか? この船そのものが伝説のポケモン、キュレムの力を利用するための装置! これで今度こそ、イッシュを制圧するのだ!」
 両手を広げて、天井を見上げながら声を荒げる。プラズマ団の中には改心した人たちだっているのに、まだ悪いことをしようとするなんて。
「さて、キュレムもすっかり回復したようだ。いでんしのくさびは大切に使わせてもらうぞ」
 いでんしのくさび! あれはソウリュウのジムリーダーが代々受け継いできた宝だという。キュレム、そしてゼクロムとレシラム、三体のポケモンが関係しているという、大切なもの!
「もうひどいことなんて絶対にさせない! ルカリオ、取り戻して!」
 旅を始めた頃に捕獲したリオルが進化した姿、ルカリオ。メイに強く頷きかけると、ヴィオに向かって突撃した――が、突然その体が弾き飛ばされた。愛するパートナーが呻き声をあげて目の前まで転がってくる。
「ああっ、ルカリオ!」
 慌てて駆け寄り、思わず目をみはった。切り裂かれたような傷跡が生々しく残っている。
 ヴィオの目の前には、どこから現れたのか、忍者のような姿をした男が立ち塞がっていた。その隣に、はものポケモンであるコマタナがナイフのような腕を構えていた。
 思い出した。こいつがいでんしのくさびを奪い取った奴だ。
「ルカリオ、ごめんね、ごめんね……」
 失態だ。連戦でルカリオは疲労していたのに、タイプ的にも有利を取れるはずのコマタナ相手に返り討ちにされてしまった。
「あとは任せた、ダークトリニティ」
「ふざけるな! 負けたくせに!」
 怒りを抑えきれないヒュウの背後に、コマタナの主と同じ姿をした忍者が現れた。メイが気付いたときには既に遅く、彼は首に首刀を打ち付けられて倒れこんでしまう。
「ヒュウ! あっ――」
 ぞくりと背筋が凍った。見られている。誰かいる!
 慌てて振り返ったメイの腹部に、背後に忍び寄っていたダークトリニティが慣れた動きで腕を振るう。
 めりっ、と柔らかな筋肉組織に固い拳にめり込む音を、メイは聞いた。
「ぐぅっ……!?」
 両目が大きく見開かれ、体が一瞬だけ浮いた後くの字の折れた。鳩尾を寸分の狂いなく突き上げた拳は、まだ中学生程度の年齢でしかない少女の薄い腹筋を容易く突き破っている。メイは自分の腹部に拳が半分以上も沈み込んでいるのを見た。白地のシャツが大きく巻き込まれ、拳に向かって吸い込まれている。
「え……? あっ……」
 不思議と痛みは生まれなかった。ただとにかく、腹の奥底が重い。
 ダークトリニティはたくましい体つきではないものの大人の男性だ。年齢が一回りも下の少女など、戦えるポケモンがいなければ赤子の手をひねるようなものである。
「かっ……はっ……っ……!」
 肺の酸素を全て叩き出されたうえ、深々と突き刺さった拳が横隔膜を圧迫していて呼吸もできない。ぴくぴくと小さく痙攣し、半開きになった口からは唾液の糸がガラスの床に垂れ落ちた。瞳孔も次第に縮小していく。
 視界が外側から暗闇に染まっていく。黒い絵の具で塗りつぶすみたいに、じわりじわりと。やがて目の前は真っ暗になってしまった。いまだに突き刺さったままの腕に体を預けるようにして、メイの意識は完全に途絶えた。

「メイ! メイ!」
「ん、ヒュウ……?」
 遠くから呼び変えているような声は次第に大きくなり、それが身近な存在であることに気付いたメイは飛び起きた。
「うっ……!」
 腹部に痛みが走った。上半身を前に倒しつつ鳩尾のあたりを抱える。
「だ、大丈夫か?」
「あ、えへへ、お腹やられちゃった」
 メイは無理にでも微笑んだが、少し青ざめていた。
 よほど強くやられたためか鈍い痛みが今もなお後を引いている。女の子のお腹を思いっきり殴るなんてひどい、と思った。
 空の彼方にプラズマ団の船がある。既にこの砂浜から飛び立ったようで、北の方角へと向かっていた。
「プラズマ団、どこへ飛んでも逃がさない……!」
 ヒュウが拳を砂地に叩きつける。逃げられたのはこれが初めてではないから、いつまでたってもチョロネコを取り戻せない自分に対する怒りもあるだろう。
「飛び先はおそらくだけどジャイアントホールだね」
 背後から足音とともに親しみのある声が聞こえてきた。最初に戦ったジムリーダー、チェレンである。
「ジャイアントホール……二十二番道路の裏だな!」
 行き先が分かった途端、ヒュウは立ち上がった。
「じゃ、オレは行く」
「待って、わたしも」
 鳩尾の鈍痛に顔を歪めながらも立ち上がる。ヒュウは心配そうな面持ちだったが、メイがにこりと微笑みながら頷くとわずかに視線を逸らした。
「そ、そうか。メイも来てくれるか」
「もちろん!」
 ここまで来て放っておけるわけがない。それになんだか、プラズマ団との決着が近いような気がするのだ。
 メイは船が飛び去った先を見つめ、拳をぎゅっと握り締めた。



※ポケットモンスターブラック2をプレイしていたときのことです。
 プラズマ団という悪の組織がありますが、そのアジトである船に乗り込み、彼らをこてんぱんにした後、ダークトリニティなる忍者部隊のようなやつらが出現します。すると画面が突然切り替わり、いつの間にか外に追い出されているというシーンに遭遇しました。
 いかにして外に連れ出されたのか(他のシーンでもありましたがおそらく瞬間移動みたいな感じでしょう)定かではありませんが、私は女主人公でプレイしていたために興奮を抑え切れませんでした。その日はまるでプレイが進まなかったくらいです。
 あることないこと付け加えて書いたものですので、実際はお腹を殴られて気絶するなんてシーンはありません。
 でもポケモンはすごく面白いからみなさんぜひ遊んでみてください。女主人公めっちゃ可愛いよ。
 

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花びらたち ★4-6

「おねえちゃん、おかえりなさい!」
 帰宅した姉を出迎えたのは、五歳になったばかりの少女。しかし女の子らしからぬ、布切れ一枚をかぶったようなみすぼらしい衣服を着ていた。
「ただいま、アザミ」
 六歳年上の姉であるフリージアも同様で、そのまま外を出歩くのは年頃の少女にとっては拷問に等しいであろう格好だった。肌も汚れているし、髪は邪魔にならないよう適当に切った様子で手入れなどされていない。いかにも「貧しい」という雰囲気を漂わせている。
「ほら見て、きれいな林檎が一つだけ残ってたよ」
「ほんとだ、まっかだね!」
「見つからないうちに早く食べな」
「おねえちゃんも。はんぶんこしよ」
「いいの? アザミは優しい子だね」
 えへへ、と幼い妹は頬を染めた。
 彼女たちは常に空腹と戦っていた。この辺りに住む人々は皆そうだ。貧困した村に生まれ、アザミを生んで間もなく母親は他界した。環境が環境だったし、他の住人も若くしてこの世を去る事例が後を絶たなかった。
 幼い姉妹に遺されたのは、ぼろぼろになった木の家と、花びらの形をした銀色のペンダントだけ。それは二人が常に首から提げている、母の形見でありお守りだった。
「ドラン、お前にはこれ」
 薄汚れた布に包れていたのは、小さな木の実たちである。
 布団というにはいささか寂しいが、丸まった分厚い布から手の平ほどの大きさをした頭がぴょこんと飛び出した。
 魔獣だ。一般的な動物とは違う、一目でそれと分かるほどの異形。恐怖の代名詞。モンスターとも呼ばれるその生物を、姉妹は内緒で飼っていた。
「風邪によく効くんだけど、お前にも効果あるかな。ちょっと苦いけど我慢しなよ」
 ほら、と差し出された茶色い木の実を、ドランは長い首を動かして食べ始めた。
「りんごも食べる?」
 アザミが赤く熟れた果実を見せたが、顎をしゃくった後木の実に再び集中した。「二人で食べろ」ということらしい。
「おねえちゃん、切って!」
「はいはい、ちょっと待ってね。皮は?」
「いらないっ」
 腰に下げているナイフでまず二等分する。片方を口に咥え、もう片方の皮を慣れた手つきで器用に剥いていく。やがてやや黄色がかった果実が現れ、今か今かと待ちわびている妹にそれを手渡した。
「いただきます!」
 小さな口でかじりついた瞬間、妹の顔が蕩けるように笑みが広がった。
 かすかに酸味のある甘みが口いっぱいに広がって、二人は何日かぶりのフルーツに頬を緩ませた。
「みんなにも食べてもらいたいな」
「……手に入れるだけでも大変なんだ。まずは自分のことを考えな」
 貧しい環境の中、村の人々はなんとか皆一緒に生きていこうと手を取り合っているが、実際は限界に近い。食べ物の奪い合いをしているところを見たことだってある。
 妹もそれを知っている。知ったうえで思いやりのある、優しい言葉を紡ぐことができる優しい心の持ち主だった。なんて眩しいんだろう……
 ふと、外で気配を感じた。フリージアは背筋が凍る思いがした。まさかばれたのか?
 布団から頭部だけを出したドランが興奮したように鼻息を荒くする。
「絶対出てきちゃ駄目。じっとしてて」
 ドランは納得がいかぬようだったが、主であるフリージアが首を横に振ると大人しく頭を布団へと引っ込めた。
 立て付けの悪い木製の扉が蹴破られる。強引に押し入ってきたのは、人間ではない。亜人だ。そいつは貧しいはずなのに体だけは筋肉質でごつい。それもそのはず、彼は熊族だった。獣としての血が濃いのか、顔も熊に近い。
 はぐれ者が寄せ集められたようなこの村では、様々な種の亜人も住んでいる。比率としては人間の方が少ないくらいだった。
 床に落ちている林檎の皮を、進入してきた亜人の男は目ざとく発見する。彼は村で一番の厄介者と陰で言われるほどの、横暴な奴でもあった。
「やはりお前らだったか。その林檎は俺のものだぞ」
 どうやらドランを飼っていることがばれたわけではないようだ。内心で軽く安堵しつつ、睨み返す。
「は? 森の中に一つだけあったんだよ。ベアドって名前書いてあんの?」
 アザミを背中に匿いながら反論した。言うまでもなくフリージアは彼のことが嫌いで、言いなりになるのも御免だから常に反抗し続けてきた。
「あとで食べようと思ってたんだよ! 返してもらおうか」
「もう胃袋ん中だよ。のろまなあんたが悪い」
 ぴくり、とベアドは短い耳を震わせた。一歩前へ出てくる彼に対してフリージアはナイフを構える。
「へっ、お前はいつも歯向かいやがるな。それも今日で終わりにしてやる!」
 言葉を合図とするように、背後から騒音。頑丈とはいえなかった窓が割られ、外から新たな亜人が進入してきた。
 いつもベアドに付き従っているゴミみたいなあいつだった。全体的に数が少ないワニ族の一人だが、プライドも何も持たずにただひたすらボスであるベアドに付いて行くだけの、下衆な子分である。名はダイル。
 彼はフリージアの隙をつき、縮こまっている妹を捕らえてしまった。抱きしめるような形で拘束している。
「アザミに触るなぁ!」
「きひひ、まずはそのナイフを捨てろよ」
 口をつぐむ。アザミはかけがえのない家族で、たった一人の妹。ダイルを睨みつけながらナイフを床に転がす。
「お、おねえちゃん……」
「大丈夫。お姉ちゃんに任せて」
 恐怖に体を震わせている妹に頷いてみせる。
 ベアドに向き直ると、彼はフリージアの顎に手を添えた。
「ふん、癪だがお前はいい女だ。俺の言うことを聞くっていうなら――」
「うるさい熊男。寝言は寝て言え」
「そうか。譲歩してやったんだがな。それじゃ林檎を返してもらおう」
 顎を掴んでいた手が引かれ、一呼吸を置く間もなく室内に肉を打つ音が響いた。
「ふぐっ……!?」
 何が起きたのか分からなかった。勝手に体がくの字に折れて、呼吸もできない。驚愕したように見開かれた両目に映ったのは、自分の腹部に深く沈みこんでいる太い腕だった。
「ぐ、かぁっ……! げほっ!」
 ずっしりと食い込んだ拳に押し上げられるような形で、胃液が溢れた。熊族は木をへし折るほどの筋力を持っており、わずか十歳である少女の柔らかな腹筋では到底防ぎようがなかった。
「加減しすぎたか」
 拳を引き抜かれたが、急すぎるショックで脳がいまだに殴られたことを理解していなかった。腹を押さえることもせず、呆然とした表情のままくずおれそうなる体を、二撃目の拳によって浮かせられた。
「お゛っ……!」
 浮遊感。両足が床に着いていない。すくい上げるようなアッパーが華奢な体を持ち上げていた。薄い肌着一枚が、めりこんだ拳に向かって吸い込まれるように幾筋もの線を走らせていた。腹筋ごと内臓があり得ない形に歪んでいる。ベアドは拳から伝わる確かな手応えに、にやりと笑いを浮かべていた。
 ぐぽっ、と水っぽい音が腹の底から聞こえた。ひしゃげている胃袋の悲鳴。それは食道を逆流していき、少女の喉を膨らませた後――
「がはっ、ぉげえええええぇぇぇぇ!」
 たまらず内容物を嘔吐した。白く濁った液体を吐瀉し、その中には噛み砕かれた林檎が転がっている。異臭が広くない部屋にすぐさま充満した。
「おー出た出た。お前なんか食べられたなんて考えるだけでも嫌だからな。そうやってゲロってくれた方がマシだ」
 ベアドはフリージアを投げ捨てるように腕を振るった。
「ぐぶっ、ぉっ、ごほっごほっ!」
 床に投げ出されたフリージアは腹を抱えながら蹲った。吐く物がなくなり、空っぽになった胃からは粘液が絶え間なく溢れ出している。
「いやぁ……! おねえちゃん! おねえちゃん! ああ……!」
 妹は狂ったように泣き叫んだ。まだ五歳の少女にとっては残酷すぎる光景。愛する姉が背中を丸めて悶絶し、嘔吐の溜まりに体を転がしている。
「いいザマだ。たいした魔法が使えなくて残念だな」
 常識的に考えればこんな醜態はあり得ない。女性は必ず魔力を持ち、魔法を行使する能力を備えている。普通の人間とは一線を画した存在であるはずなのだ。
 あいにく、ここはとにかく環境が悪い。満足な食事もできない姉妹は体の健康だけでなく、魔力の成長にも影響を与えていた。魔法に関しての知識もほとんどないため、宝の持ち腐れ。目の前にいる大男一人に反撃することさえままならない。
「ぐう、うううううぅぅぅぅ!」
 呻き声に悔しさの色が宿る。自分の情けない姿を妹に晒してしまい、フリージアは涙を溢れさせた。
「ひひっ、兄貴、こいつは俺が貰っていいのかな」
「好きにしろ。ちっこいのには興味ない」
 ダイルはより一層いやらしい笑みを浮かべると、アザミを床へと押し倒した。
「いやっ、やだぁ!」
 未成熟な小さい体で必死に抵抗する。その際右手で子分の頬を張った。思いのほか綺麗に入り、小気味よい音が鳴り響く。
「いって……! おい、なにしやがんだガキィ!」
 逆上したダイルは拳を硬く握り締め、幼すぎる少女の頬に叩き込んだ。なんの遠慮もない本気の一撃。
「えぐっ! あ……ぁ……!」
 口の中を切ったのか、赤い雫が薄い唇から垂れ落ちた。
「悪い右腕だ。ガキはちゃんと教育してやらないとな」
 そう言うとアザミの細い腕を掴んだ。少女をうつ伏せにすると、腕を無理矢理捻るようにして引き伸ばす。
「ぃあっ、痛い! 痛い痛い痛い痛い!」
 ベアドほど筋肉隆々ではないが体格差は一目瞭然である。なにしろアザミはまだ五歳で、彼は二十歳を越えている。
「やめ、ろ……!」
 胃液を垂れ流しながら這いつくばっている姉が、苦悶する妹へと手を伸ばそうとする。その背中にベアドが踵を落とした。
「がっ! ぁはっ……!」
 床に押し付けられるように踏まれ、打撃を受けた内臓がまた圧迫された。手は妹に触れることなく、体は杭を打たれたように動かない。
 その時、なにか砕けるような音が聞こえた。フリージアは自分の背骨が音を立てたのだと目を見開いたが、耳を塞ぎたくなる悲鳴によってそれは違うということに気付かされた。
「うがあああああああぁぁぁあああああああああぁぁぁぁぁぁぁ!」
 妹の愛らしい声とは思えない、それは咆哮のようだった。
 右腕が肘の先からおかしな角度に折れ曲がっている……
「おいおい、そこまでやることはないだろ」
「勝手に折れちまったんでさぁ」
 ワニ族の男は鼻で笑うと、ゴミでも捨てるかのように掴んでいた腕を手放した。糸が切れたように細い腕が投げ出されてさらに悲鳴があがる。
「こんなのって……!」
 夢なら覚めて欲しい――フリージアはこれが現実であることをしっかりと自覚しながらもそう願わずにはいられなかった。わたしはまだいい。でも妹はまだこんなに小さい。それなのに。
 絶対に許さない。許さない……!
 姉妹の嗚咽で満たされている部屋に、場違いともいえる軽々しい音が割り込んだ。ここの者にとっては馴染み深い。それは空腹を表す音だった。
「ああ、ボス、腹が減ってきたんで食べていいですかね」
「ガキのをか? お前も物好きだな!」
「どうせもう役に立ちませんからね。ひひっ」
 折れた右腕をダイルが手にしただけで、突き刺すような痛みが走ってアザミはさらに顔を歪める。
 そして彼は口を大きく開けた。ワニ族らしい、その太く尖った歯。牙と言った方が正しいかもしれない。顎もただの人間とは違って分厚く頑丈であることは容易に想像がつく。
 再び少女の体を抱きかかえるようにすると、掴んでいる腕に躊躇なく噛み付いた。
「ひぎっ!?」
 骨折したとはいえまだ神経が通っている右腕に鋭い牙がめり込む。皮膚が破け、薄い筋肉が抉られて血液が飛んだ。
 姉は思わず顔を伏せたが、ベアドに頭を掴み上げられて無理矢理視点を固定された。目を瞑ろうにももう片方の手で下瞼を広げられ、どうあがいても絶望的な光景から視線を逸らすことができない。
「姉ちゃんなんだから、妹のことはちゃんと見てやれよ」
「やめて! もうやめてよ!」
 当然受け入れてくれるはずもない。
 やがてダイルの顎がこれ以上動かないところまでに達すると、噛み付いている腕ごとひねった。ぶちりと肉が引き裂ける音。
「ぎいいいぃぃあああぁぁあぁぁああああああぁぁ!?」
 もう喉が潰れてもおかしくないほどの悲鳴だった。夥しい血液が腕から滝のように流れ、床一面に真っ赤な泉を生み出していく。下半身からは新たな液体を溢れさせた。
 ゆっくりと味わうように租借したダイルはごくりと少女の肉を飲み込んだ。
「うん、やっぱり若いのはうまい。もう年老いたのなんて食ってられないぜ」
 半円形に欠けた細腕からは既に骨が覗いており、そこへ牙を突き立てていく。
「やめてええええ! お願いだから! なんでもするから! だから……!」
「お前は後だ。大人しく待ってろ」
 ベアドも幾分興奮した様子でこの狂った状況を楽しんでいた。
 また硬い音が砕ける音。今度は折れたんじゃない。噛み砕かれた。
 ごっそりと消えている。妹の右腕が。
「――ッ! ――ッ!」
 幸いというべきなのか、もう痛々しい悲鳴が漏れることはなかった。アザミの体は部屋の隅へと転がされ、両の瞳をむき出しにして陸に打ち上げられた魚のように小刻みに痙攣する。
 五歳の腕をばりばりと両手で豪快に貪るワニ族の男。部屋に充満する血液の匂いは意識が薄れそうになるほどだ。フリージアは見せ付けられた惨状に涙を溢れさせたが、悲しみや悔しさよりも、もっと激しい感情を滲ませていた。
「くっ……殺してやる……!」
 ベアドに頭を掴まれたまま、呪いを紡ぐように言葉を重ねる。
「殺してやる殺してやる殺して殺して殺してやる殺してやる!」
「ははっ、ナイフはそこだぞ。やってみろよ」
 床に転がっているナイフなら確かに殺せる。だがそれを手にさせてくれるほど甘くない。頭も体もがっちり押さえつけられているのだ。
「ボス、この首飾りいい感じじゃないですかね」
「そういえばいつも着けてやがるな。光モンだし高く売れるかもしれねえ」
「あっ……!」
 フリージアは仰向けに転がされ、ペンダントの鎖が引きちぎられた。花びらの形をした銀色の輝きが熊族の手に収められている。
「返して! 返してよ! それは母さんの――ぐぼっ!?」
 反抗の意思は力ずくで押さえ込まれた。潰れるような短い呻き声。フリージアの内臓を半壊させた猛打が、鳩尾へと突き刺さっている。床と挟まれるような形で腹肉が陥没し、横隔膜に衝撃を与えた。呼吸が止まって視界が一瞬ぼやけた。
「なんだって? 聞こえなかったぞ」
「かっ――はっ――ひゅ――」
 酸素を取り戻すことができないまま断続的に痙攣を繰り返す。視界が再び歪んでいき、意識が薄れていく。
 一瞬、母親の顔が浮かんだ。走馬灯というやつかもしれない。三十代でこの世を去ったきれいで優しい自慢の母。彼女の形見さえこんな奴らのいいようにされてしまう。
 魔法の使い方を知らない自分を心底憎んだ。この際なんだっていい。力が欲しい。魔法じゃなくたっていい。とにかく、こいつらをどうにかする力が……
 力が欲しい!
 意識が飛びかけていたフリージアは気づかなかったが、金目の物を発見して喜んでいたベアドは眉をひそめた。
 手にしている銀のペンダントが、溶けたのだ。間違いなく金属であるはずのそれは、高熱を浴びせられた鉄のように融解して――
 ベアドの脳天を銀色の針が貫いた。
「けほっ! あかっ……!」
 腹部に突き入れられていた拳から力が抜けた。貪るように酸素を取り込みながら咳き込みつつも、正常に戻った視界で何が起きたのか確認する。
 熊族の大きな体が仰向けに倒れていく光景が映った。額から血液が迸っている。彼の手から母の形見が滑り落ち、フリージアの胸元へと落下する。硬い金属の塊であるはずなのに、ふわりとした感触だった。
「な、なっ……!?」
 ボスが突然倒れたことに子分は狼狽していた。それはフリージアも同様で、まだ状況を把握しきれていなかった。
 だが、まだこいつがいる。
 腹部の痛みなど構っていられない。荒く呼吸しながら立ち上がると、握り締めた母の形見が熱を帯び始めた。手の中で形が変わっていく。
 それはナイフだった。いつも腰に下げている愛用の物と全く同じ。彼女にとって生きる者を殺す手段がそれだった。
「うわあああああああああ!」
 叫ぶ。体ごとぶつかるようにしてワニ族に突撃する。得物が肉を突き破る感触。手応えが妙に柔らかく、全身が総毛立った。だがためらうことなく刃を男の胸元へと沈めていく。
 うまく心臓に突き刺さったのか――子分は耳障りな呻き声などあげることなく事切れた。血が手と衣服を汚していくが、今のフリージアには他人を殺したことよりも、とにかく妹のことで頭がいっぱいだった。
「アザミ! しっかりして!」
 銀のナイフをダイルの体に残したまま、横たわるアザミの傍で膝を着く。妹の目にはほとんど光がなく、ただ宙のひたすら見つめているだけだった。食いちぎられた右腕、肘からはむせ返るほど出血している。
「やだ! 死んじゃやだ! 返事して!」
 妹の肩を掴んで必死に訴えかけるがほとんど反応がない。顔面蒼白で、体中の血液が全て流れ出しているかのように感じられた。
 ふと、首元のペンダントが目に入る。母に貰った銀色に輝く花びらを、姉は手に血が滲むほど強く握り込む。
「お願いなんとかして! わたしを助けてくれたでしょ! アザミも助けてよぉ!」
 その願いは聞き届けられた。
 手の中のペンダントが熱を発したかと思うと一瞬にして水へと溶け、指の間から溢れ出した。意志を持っているかのようにアザミの体を伝い、半開きになっている口の中へと消えていく。
 妹の閉じかけていた両目が見開かれた。
「ごっ、ごぼおおおおおぉおぉぉぉぉ!?」
 液体が食道を通ってあらゆる内臓器官を駆け巡っていく。暴れ狂うようにのたうちまわる妹の小さな体を、姉はぎゅっと抱きしめた。恐ろしく冷たくなっていた。
「がひぃっ はがっ、ああああああああっぁぁぁぁ!!」
 片腕で抱きしめ返され、肩にアザミの爪が食い込んだ。その痛みに顔を歪めながらも、妹の体を放そうとはしなかった。
 死人のような体の硬さが次第に柔らかくなっていく。青白い顔がいくらか生気を取り戻し始め、瞳にも光が宿り始めた。
 右腕に変化が起きる。食いちぎられた断面から銀の液体が滲み出していた。それは沸騰したように泡を立てながら、瞬く間に水量を増していく。まるで失われた右腕が生えていくかのように。
「がんばって! お姉ちゃんがついてる!」
「うぐうぅぅぅ! ぐぐぐうううぅぅ!」
 姉の胸元に顔をうずめるようにしてくぐもった呻き声を漏らす。妹が苦しむ姿など見たくない。悲鳴なんて聞きたくない。とにかく耐えた。耐えるしかなかった。
 次第にアザミの動きが弱まっていく。はっ、と息を呑んだが、抱きしめている体は確かにぬくもりがあって、心臓も鼓動を繰り返していた。眠っているようで、呼吸は浅いが安定している。
 ちらりと視線を移す。食いちぎられたはずの右腕はきれいに――言葉が正しいのか分からないがとにかく治っていた。表面は銀色ではなく肌色。
 おそるおそる触れてみると、人間の腕ではないことがすぐに分かった。見た目は紛れもなく妹の人肌だが、感触は硬くて冷たい。しかしどこか懐かしく感じる。
「母さん……」
 母が助けてくれたのだ。きっとそうだ。形見だったあのペンダントは、自分も、妹も救った。
 心身ともに疲れ果てた体がぐらりと傾くが、必死に意識を保たせた。眠ってなどいられない。ベアドはこの村ではボス的存在で、手下どもはまだ何人もいる。もうここにはいられない。
「ドラン!」
 名を呼ぶとすぐに魔獣の赤ん坊は首を出した。
「よく我慢したね。ここから出て行くよ。付いて来れる?」
 ドランは小さく鳴いて答えた。本来は野生の生き物なのだから、自然へと返してあげるべきなのかもしれない。だがフリージアはそうしなかった。したくなかった。家族が離れ離れになるなんて、彼女には考えられないことだった。
 首元に銀の液体が舞い戻ってきて、再びペンダントへと姿を変えた。小さな頃からずっと見に着けていた銀の花びら。そうだ、母も一緒なのだ。
 妹を抱きかかえて立ち上がる。ふらふらとおぼつかない足取りながらも家から出て、傾き始めている陽の光が視界いっぱいに広がった――

「っ!」
 フリージアは飛び起きた。少し肌寒いのは、ここがどこか山の頂上だからだろう。手の平には固い皮膚の感触がある。どうやらいつの間にかドランの背中で眠っていたようだ。
 夢を見た。忌々しい記憶の再現だった。なんだってあの時のことを。
 二人は愛するペットによって救出され、犬族の集落と遥かに距離を置いたこの山まで逃亡してきた。拳士の少女は風属性で空を飛べるはずだが、追いかけてはこなかった。
 まだ眠っているアザミを起こさぬようにドランが長い首を動かし、フリージアと視線を交わした。
「見張っててくれたんだ? ありがと。後はわたしが見てるから、お前も寝な」
 猛々しい姿ながらもどこか神秘的なイメージを彷彿とさせるかの龍は、かすかに喉を鳴らしてから分厚い顎を地面へと押し付けた。
 アザミへと視線を移す。二人とも治療魔法を会得していないから、王妃からのダメージを負ったままだ。ただし妹に関しては自然治癒能力が異様に発達している。彼女の体に流れる”神器の血”がそうさせているのかもしれない。
 攻撃を受けた箇所が疼き、フリージアは思わず顔を歪めた。
 王妃の属性さえ判別がつかず、殺すどころか一つも傷を負わせることができなかった。国をつくりあげた張本人だけある。護衛三人も厄介で、まだチームワークが磨かれていない様子だったが、彼女たちの絆の糸が目に見えるようだった。きっと強敵になる。
「くそっ……」
 コスモス側は犬族の仇を撃退したことで、両者の関係を良好なものにしていくことだろう。自分たちの亜人狩りという行動が、結果的に人間と亜人に橋をかけてしまったわけだ。皮肉にも程がある。
「まだ終わってない。まだ……」
 真っ暗な闇が広がる空を見上げ、星に語りかけるように呟く。
 一度負けたくらいどうした。これは別に勝負でもなんでもないんだ。コスモスに「まいりました」と膝をつかせたいわけじゃない。
 王妃の言い分は自分勝手すぎる。わたしたちのような境遇になったことがないから平和なんて言葉が簡単に言えるんだろう。生まれたときから光しか浴びたことのない善人気取りめ。
 再び視線を下ろす。母親によく似た眩しい笑顔はもう見せなくなってしまった妹。神器によって復活した彼女は別人のように変わり果てた。必要最低限のことしか口にせず、表情もほとんど変化しない、まるで人形のような。それは体の一部となった神器のせいなのか、亜人によって植えつけられたトラウマのせいなのかはフリージアには分からない。だけど間違いなくアザミなのだ。今目の前にある寝顔は、昔と変わっていない。
 自分たちはまだ生きている。独学で修得した魔法や戦闘技法も、磨く余地があるのだ。こんな簡単に終わったりするものか。自分にとっての平和とは、亜人のいない世界。アザミとドランが安心できる世界が、なによりの平和。
 だから、まだ諦めない。

リンク追加しました。

宮内ミヤビさんの魔女の棺と相互リンクさせていただきました。

小説がたくさんありまして、作品ごとにあらすじやジャンル名まで付けておられるのでどんなお話なのか一目瞭然です。
中でも「ことパンッ!」が大好き。ジャンルにもあるように、これは純愛です。純愛です。腹責めだけど純愛です。
責めの描写がエグくてたまりません。そして腹パンチでフラグが。ギャルゲーだったら選択肢で「腹を殴る」を選ばないとおそらく正規EDに辿り着けないってくらいフラグが立ちます。
他の作品も合わせてぜひどうぞ。
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