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花びらたち ★2-4(BAD)

※敗北バージョンです。2-4の途中から始まっていますので、ご注意ください。

「凍結……!」
 呻くように呟く。
 なにも変化は起きなかった。一瞬の沈黙の後、カトレアが歯噛みする。
「まだ足りない……!」
 チューリップには深く理解できなかったが、カトレアがなんらかの魔法を行使しようとしていたのは魔力の流動によって悟った。
 だが失敗した。
 ゴーレムが拳を引き抜いた。片手で掴み上げられたままのカトレアは、押さえ込まれていた呼吸を取り戻すように息を吸おうとした。
 直前、彼女の鳩尾へと再びガントレットが音を立てて突き上げられる。
「おぐっ!? ……ごぷっ!」
 背中まで貫きそうな一撃に胃が震えた。目を剥いて濁った胃液を吐き出す。
 ゴーレムは腹に埋めた腕一本で、その小柄な体を持ち上げた。くの字に折れた柔らかな体躯。体重によってさらに拳が奥深くへと沈み込んでいく。
「がぁっ、あぁぁ!」
 目を剥いたカトレアは舌を突き出して苦悶する。
 攻撃は終わらない。鋼鉄の腕が、音を立てて再び発射された。少女の身体を猛烈な勢いで押し上げていき、真上へと上昇していく。
 激突音。背中から天井へと叩きつけられ、衝撃でその部分にヒビが走った。
「ごふぁ――!」
 射出された腕は少女の柔らかな腹筋を突き破り、胃を押し潰す。既にダメージを受けていた腹部は何の抵抗もできない。鋼鉄の拳が隠れるほど深々とめり込み、彼女の腹もろとも天井に突き刺さっていた。
「がはっ――ぅぐ、うぇぇぇっ――!」
 磔にされたカトレアが鮮血そのものを口から吐き出す。床へと真っ逆さまに垂れ落ち、ゴーレムの錆びた身体に降りかかった。
 紐で巻いていた鞘も、衝撃で緩んだのか持ち主の身体を離れる。床に転がっていた刀のそばに、音を立てて落下した。
「カトレアアア!」
 チューリップの叫びは届かない。カトレアは天井にめり込んだままだ。両腕と、スカートから伸びた両足はぶらぶらと垂れ下がり、口元からは血液が雫となって流れ落ちていた。
 黒髪の少女は、ただ身体を痙攣させるのみとなっていた。
 ゴーレムがチューリップに向き直る。びくり、と拳士は肩を震わせた。マーガレットを狙う様子はない。
 身動きがとれない標的がいるのに、それをむざむざと無視して後方の治療士を攻撃する道理があろうか?
「くうぅ!」
 足の痛みを堪え、全身に魔力をたぎらせる。歩けないなら飛ぶしかない。チューリップは魔力を総動員して、己の身体を飛行させようとした。
「うぐ……! ぐあああぁぁぁぁ!」
 骨が折れた箇所から激痛が這い上がってくる。折れた足が強化に耐え切れないのだ。床に這いつくばりながら、チューリップは痛々しい声を荒げる。
 がちゃり、と甲冑が歩み寄る。ゴーレムは少女たちより一回り大きい。チューリップには、何倍も大きな壁に見えた。
 悪寒が全身に響き渡る。怖い。
「やだ……やだぁ……!」
 泣きじゃくりながらチューリップは尻餅をつきながら後ずさる。魔法拳士としての顔はすでにない。迫りくる恐怖に、幼児のごとく怯えていた。
 ゴーレムに掴み上げられそうになった時だった。奇妙な音をたてて、甲冑の胸から刃が飛び出したのだ。それはまぎれもなく、カトレアの刀であった。
 戸惑うチューリップが視線を移す。ゴーレムの背中から刀を突き刺しているマーガレットの姿を発見した。
 落ちているカトレアの刀を拾い上げたのだろう。あれだけ近接戦でてこずっていたというのに、ゴーレムは易々と攻撃を食らった。マーガレット自身も驚いているようだった。
「あ、あら? 意外とあっさり――」
 呟くが、その攻撃は無意味だった。胸を貫かれたはずのゴーレムは一瞬だけ動きを停止させていたが、再び活動を始めた。ぐるりと背後へ向き直る。
 マーガレットが目を見開いた。
「な……なぜです? 確実にコアを……!」
 はっ、とマーガレットは気づく。そもそも、コアが胸にあるとカトレアは断言していなかった。町で倒したゴーレムは胸のあたりにコアがあったが、ただそれだけのこと。目の前にいるこのゴーレムもそうであるとは限らない。
 背中から深く刺さった刀。ゴーレムは柄ではなく刃を掴み、前へと一気に引き抜いた。鎧の中心にぽっかりと穴が開く。
 片手のまま刀身から柄へと握り直した。
「――! プ、<プロテクト>!」
 危険を察知したマーガレットは、手を前へと突き出してとっさに防御魔法を発動する。治療士は傷を癒すことはもちろんだが、生き残るための魔法を習得するのが不可欠だ。
 透き通った薄い鏡のような壁が現れた。透明な魔力の盾は、マーガレットを覆うようにして展開される。彼女は回復魔法だけでなく、こういった補助系魔法の質も上等なものだ。
 だがカトレアの刀は、質など関係ない。
 ゴーレムが突き出した刀は、<プロテクト>を紙のように突き破った。守るものがなくなった少女の胸元へと突き刺さる。
「あっ――?」
 マーガレットは他人事のようにその瞬間を眺めていた。自分の身体に凶器が深く進入していく。止まらない。ずぶずぶと内部へ刃は潜り込んできた。
 目の前で幼なじみが刺される光景を、チューリップは呆然を見上げていた。理解できなかった。今何が起きているのか、よく分からなかった。
 認めようとしなかった。
「かふっ」
 びくんと身体が大きく痙攣した後、治療士の口から鮮血が飛び散った。
 不思議と彼女は痛みを感じなかった。別の何かが全身を駆け巡っている。知るはずもなかった。魔力そのものに影響を与える攻撃など、受けたことがないから。
 この刀はただの刀ではない。魔力を断つ力を持つとカトレアが語っていた。魔力は生命の源ともいえる。いわばもう一つの心臓。魔力を使い果たすと命を脅かす危険がある。
 それを元から斬られるということは、何を意味するのか。
 すなわち、死。
「あ、あああああぁぁぁ!?」
 チューリップが大部屋全体を振るわせるほどの絶叫をあげた。足の痛みなどどうでもいい。幼なじみの身に起きた出来事を認めまいと、悲鳴に近い声をあげ続ける。
「やあああぁぁ! マーガレット! マーガレットォォォ!」
 その声は、幼なじみに届いていなかった。口から血の筋を垂らしたマーガレットは、光を失った瞳で虚空を見つめている。
 刺された箇所から血が滲み出し、刀身をつたっていく。白いドレスのような法衣が赤く染まっていった。
 がくりと両膝をつくと、糸が切れた人形のように力なく横たわった。血液が円形に広がっていく。彼女の身体から魔力の波動を一切感じ取ることができない。
 もう、絶命していた。
「マーガレット……嘘だよ……こんなの違うよ……」
 信じない。嘘に決まっている。簡単に死んだりするわけがない。
 動かなくなった幼なじみへと、チューリップは涙を溢れさせながら這うようにして近づいていく。
 足を引きずりながら這いつくばる少女拳士の脇腹を、容赦のない鋼鉄の足が蹴り込む。
「げぁっ!」
 めきり、と肋骨が軋んだ。蹴り飛ばされたチューリップの身体はごろごろと転がり、幼なじみから遠ざかっていく。
 受身もなにも取らず、何度も回転を繰り返したあとようやく停止する。
 甲冑が膝を曲げて床を蹴った。宙へと跳躍する。重量感のあるゴーレムとは思えないほどの身軽さだった。
 着地先はチューリップの体。仰向けに転がった少女の腹を、真上から鋼鉄の両足が踏み砕いた。
 衝撃は背中を貫通し床にヒビが走らせた。
 少女の腹から鈍い音が鳴り響く。
「がふううぅぅぅ!? がはッ――!」
 口から噴水のように鮮血が飛び出した。宙に舞った血液がチューリップの顔に降り注ぐ。
 腹部が変形しているかのようだった。何本か折れた肋骨が、内臓に刺さったかもしれない。
「か、は、はぁっ」
 踏み抜かれたゴーレムの足によって呼吸すらままならない。口から血を垂れ流しながら悶える。苦しい。腹の中がぐちゃぐちゃになっている。痛い。
 涙と口から吐瀉した物で、チューリップの愛らしい顔は汚れていた。マーガレットが見れば発狂したかもしれない。
 マーガレットがいれば。
「げふっ――ゆ、ゆるさ、ない――」
 かろうじて吸い込んだ酸素を吐き出しながら言葉を放つ。呼吸する度、腹の中に激痛が走る。構うものか。目の前にいるこいつだけは絶対に許さない。マーガレットとカトレア――仲間への想いを爆発させる。
「ゆるさない――! ゆるさ――ぐふ!」
 ゴーレムがぐっと膝を折り曲げた。重心が下へと移動し、チューリップの内臓が一瞬深く押し潰される。
 そして、小柄な少女の腹を蹴って真上へと跳んだ。
「ぐ、ゆる、さ、ない――!」
 呻き声のような言葉を紡ぎながら、チューリップは飛び上がるゴーレムを睨みつけた。体が動かない。動かそうとするだけで全身が悲鳴をあげる。特に腹部のダメージは深刻で、再び衝撃を受ければ確実に命を削り取るだろう。
 甲冑が落下してくる。心を持たないゴーレムに慈悲などない。標的を倒すだけ。ただそれだけのために行動する。
 チューリップは視線を逸らさず、敵を睨み上げたまま力を振り絞って叫ぶ。
「ぜったい、ゆるさないぃぃぃ!!」
 ぐしゃり、と潰れる音。ゴーレムが着地した瞬間、少女の叫びがかき消された。
 彼女が最後に聞いたのは、己の体が砕かれる音だった。

Comment

No:7|NoTitle
なかなかコメ付けられずに申し訳ないです。
一気に読ませて頂きました。緻密な描写は私自身見習う所が多くて大変勉強になります。
チューリップの最期まで折れない心にぐっときました。
No:8|NoTitle
>number_55さん
やや、お忙しい中コメントありがとうございます。むしろ私がコメントなり感想なりを残していないので逆に申し訳なく。
悪魔が囁いたといいますか、突然「もし負けたらどうなるんだろう」と思い立って書き殴りました。
チューリップはがんばって最後まで抵抗してもらいました。途中折れかかってますけどねw
No:9|NoTitle
きちんとした正規ルートがあるからこそ、
こういったバッドエンドが面白くなると思いますね〜。
マーガレットさんの最期のシーンがいいなぁと思いました。
これからも、もっと黒葉さんの中の悪魔が囁いてくれると嬉しいな〜とw
No:11|NoTitle
>>一撃さん
思い切ってみんなボロボロにしてしまおう、と考えていたらマーガレットが死んでしまいました。苦しまずに死ねてよかったと思います。

一撃さんからコメントを頂くとは思っていませんでした。私のSSは胃液吹くわ吐血するわで、一撃失神とはほど遠いものですから……なんだかすみません。
ともかくありがとうございます。たぶん悪魔は時々顔を見せにやってくると思います。
No:12|
この話 イラストあったら更に萌ますな〜
内容は僕好みで素晴らしいです。
No:13|NoTitle
>>tentsuさん
初めまして。コメントありがとうございます。
なにぶん小さい頃から漫画も小説も読むだけの人間でしたので絵は全く描けません。
魔法の言葉「ご想像にお任せします」でどうかひとつ。
No:14|
早速の返信有り難う御座います
これからも貴方の書く小説を楽しみにしております。
No:20|見事!
これはなんとも素晴らしい。 やっと、 思い切りに腹を踏みつけるのリョナシーンが現れた。 黒葉さんはこの小説の世界コンセプトもキャラ性格もよく描いてる。
腹リョナだけでセックスシーンの無いこともうれしい。

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