スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

★NHK

「はーいみんなー! 一郎お兄さんだよー!」
 スタジオの中に軽やかな声が響き渡った。まさに爽やかというイメージを体現する、典型的ともいうべき『歌のお兄さん』がカメラに向かってにこやかに笑っていた。
 お茶の間では子供よりむしろ主婦の皆さんに人気があるという、特撮ヒーローで謳われるイケメン俳優顔負けの注目を集めている。二十歳そこそこながらも童顔な顔立で年上から好かれる一方、格闘技を習っているという引き締まった体つきが、年下からはたくましいと賛美される。まるで漫画にしか出てこないような完璧なお兄さんであった。
 そして実際トレーニングに使用していると思われる赤いサンドバッグが今、彼の隣で鎮座している。
「みんなー、今日は何曜日かなー? うん、そうだね月曜日だね! ということはー?」
 カメラに対して聞き耳を立てるような仕草の後、一郎お兄さんは何度も頷く。
「そう、ひとみお姉さんが来てくれる日だね! それじゃあみんなで呼んでみよう。せーの、ひとみおねえさーん!」
 すると舞台裏から「はーい!」と透き通るような声が飛んできた。スタジオセットの端っこから、真っ白なワンピースに身を包んだ女性がぴょこぴょこと姿を現す。
 ひとみお姉さんは一郎お兄さんより年下のはずだが、大人びた印象があるということもあって彼女の方が上に見える。身長もそう変わらない。
「ひとみお姉さんでーす! みんな元気にしてたかなー?」
 このお姉さんも絵に描いたような美人だった。肩より下まで伸びた黒髪は絹糸のように細やかで、目は丸く睫毛が長い。肌も色白でシミひとつなく、華奢な体は抱きしめると折れてしまいそうなほどだ。それが世の男性を魅了し、いまやいい年をした大人までもが彼女目当てにこの番組を視聴している。
「さーて今日はお姉さんとドレミの歌をうたうよー! ひとみお姉さん、準備するね?」
「おっけー一郎お兄さん!」
 陽気な声で答えるひとみお姉さんは何を思ったか、サンドバッグに背中から密着した。さらに一郎お兄さんが彼女の両腕をサンドバッグの後ろへと回し、縄で縛り付ける。これで文字通り人間サンドバッグの出来上がりだ。
「よーしそれじゃあいっくよー!」
 すると一郎お兄さんが腕まくりをする。照明の色が変わって音楽がスタートすると体を使ってリズムに乗り始めた。
「ド~は?」
 手には何も持っていなかったはずの一郎お兄さんが、いつのまにかドーナツを手にしていた。まるで手品のようである。
「ドーナツの~ド~」
 サンドバッグに縛り付けられたまま、返事をするようにひとみお姉さんが続く。この繰り返しが基本的な流れである。
「レ~は?」
 歌いながら、ひとみお姉さんの右脇腹の辺りへと拳をめり込ませる。
「ぅぐっ!?」
 横からの激痛に目を白黒させるひとみお姉さんが呻き声をあげた。肝臓を狙ったパンチは鍛えることのできない脇腹に奥深く潜り込んでいる。
「ひとみお姉さん、レは?」
 殴りつけたことを詫びもせず拳を引き戻す一郎お兄さんは、いつもの爽やか百パーセントの笑顔を振り撒いていた。
「うくっ……れ、レバーのレ……」
 痛みに歯を食いしばりながら歌を続けるひとみお姉さん。彼女は特にスポーツなどを続けているわけではに。職業柄健康には気を遣ってはいるだろうが、男のパンチをまともに受けて平然としているほど鍛えてるわけもなかった。
「ミ~は?」
 レバーブローに続き、程よく膨らんでいる胸のちょうど下あたりに拳が突き刺さる。ずしんと腹を突き抜けるボディアッパー。
「かはっ――!」
 ひとみお姉さんは喉を仰け反らせ、両目を見開きながら唾液を飛ばす。サンドバッグがわずかに振動したのが背中越しに感じ取れた。横隔膜に走った衝撃に酸素が根こそぎ吐き出されたうえ、呼吸が止まる。
「あっ――かっ、はっ――」
 金魚のように口をぱくぱくさせながら喘ぐ。磔にされているため衝撃を受け流すことができず全て体内に吸収される。身を屈めることもできず、かといって腹を押さえることもできない。
 彼女と違って一郎お兄さんの体は鍛えられている。見た目は細身だが薄く筋肉が張り付いていて、例え相手がごつい男性であってもダウンさせることができるだろう。
「はい、ミは?」
「みぞ、おちの、ミ……」
 まだ呼吸さえ安定しないまま歌う。
「ファ~は?」
 三度目。体ごと回転するようにしながら放たれたパンチが腹部の中央にめり込んだ。薄い腹筋を抉る、どふっという鈍い音。臓器が震える。
「おごぉっ――! ごぷっ!」
 美しく整った顔からは想像もできないほど醜い呻き声が漏れた。胃袋がひしゃげ、腹の底から何かがこみ上げる。堪えることもできずに小さな口から胃液を迸らせた。喉が焼けるように熱い。
「ファは?」
「げぇっ……ふ、フ(ァ)ックのファ……」
 涙を滲ませ、胃液を垂らしながら歌うひとみお姉さん。一郎お兄さんは満足そうに頷く。
「ソ~は?」
 四度目。今度はさっきよりも下だった。白いワンピースに包まれているにも関わらず、パンチは狙いすましたかのように臍へと吸い込まれていった。
「むぐっ――!」
 今までに感じたことのないような衝撃が彼女を襲う。全身から血の気が引いたように、一瞬体が冷たくなった気がした。
「ソ~は?」
「ぇほっ……おへそのソ……!」
 拳は若干回転する運動を加えられ、ワンピースに螺旋状の皺を生み出しながら柔らかな腹部に捻じ込まれていた。異物を飲み込んでしまったみたいに、腹の奥底に鉛のような感触がある。
「ラ~は?」
 五度目。一点の曇りもない一郎お兄さんの笑みは気味が悪いほどだった。彼は続けて腕を振るうが、同じところを狙おうとはしない。今度は拳ではなく、程よく筋肉が発達した硬い腕が迫る。
 狙われたのは腹ではなく首元。
「うげっ――!」
 潰れたような呻き声が漏れ出る。腹を殴られて呼吸困難に陥っているところに首を強打されてはたまらない。実際息を吸うことさえできないのか、ひとみお姉さんはひくひくと痙攣していた。
「ひぁっ……ら、ラリアット、の、けほっ……ラ」
 半開きの小さな口から粘ついた液体を絶えず垂らしている。白くきめ細かい肌の顔は血の気が引いて青白くなっていた。目も虚ろで意識が朦朧としている。
「シ~は?」
 六度目。今度は下腹部――臍よりも下。振り下ろすようなパンチが深く沈んだ。
「んぐううあぁぁ!?」
 殴られたという感覚とはまた少し違うような刺激が、激痛と共に下腹部から全体に広がる。呻き声というよりも艶っぽい喘ぎがスタジオに響き渡る。
「はがっ、あひっ――」
「シは?」
「し、子宮……」
 呟くように歌うひとみお姉さんは、いまやぼろぼろと涙を流していた。
「さあう~た~い~ましょ~う」
 中盤に差し掛かったがドレミの歌。もちろん歌詞通りに続ける。
 一郎お兄さんはドーナツを取り出すことを忘れず、すでに何度も殴りつけたひとみお姉さんに次々と腕を振るう。
「ド・レ・ミ・ファ・ソ・ラ・シ・ド」
 ドーナツ、レバー、鳩尾、フ(ァ)ック、お臍、ラリアット、子宮、ドーナツ。
「あ――ぇぐっ! ごほぉ! はぁっ――むぐぅ! おごっ! いぐあぁぁ!?」
 拳、拳、拳、拳、腕、拳。おさらいをするように責め立てられる腹部と内臓。苦痛の色を微妙に変化させながら顔を歪ませる。こみ上げる胃液を吐き出し、抉られるような痛みに両目を見開いたり、驚愕したような呻き声をあげたり。
「ド・シ・ラ・ソ・ファ・ミ・レ・ド」
 ドーナツ、子宮、首、臍、胃袋、鳩尾、肝臓、ドーナツ。
「はぐぅぅ! げぽっ! がはぁ! はっ――うぐぉっ! えぶっ!」
 逆から。あらゆる角度から突き刺さる拳に白いワンピースも歪む。
「ドミミ~ミソソ~レファファ~ラシシ~」
 まだまだ続行。体を打つ音と潰れるような呻き声が、音楽のリズムを取るように響く。ひとみお姉さんはもはや立てない状態にまで痛めつけられたが、当然倒れこむことすらできない。
「はっ――ひっく――うげっ――」
 もう何度殴られたのか分からない。ラリアットを受ける首も真っ赤に染まっている。ワンピースを着ているため分からないが、腹にいたっては痣だらけになっていることだろう。表面だけでなく、内臓器官もほとんどぼろぼろだ。
 鍛えていない柔な腹筋はとっくに決壊し、拳を跳ね返そうとする抵抗も働かない。次々と突き刺さってくる猛打をむしろ歓迎するように受け入れ、ついには胃の内容物まで吐瀉した。控え室で食べた菓子パンが。
「げおぉぉ! げへっ――はっぐ――」
 異臭がスタジオに立ち上る。一郎お兄さんに胃液や吐瀉物が少し降りかかっているが、彼の笑顔が消えることはなかった。お構いなしにひとみお姉さんの華奢な胴体をなぶり続け、やがて彼女の呻き声もほとんど聞き取れなくなるほど小さくなっていった。
 歌も終盤。ラストスパートである。
「ドレミファソラシド・ソ・ドーン!」
「――ッ!?」
 最後はドーナツではなくボディブローだった。胃袋の辺りを狙った拳は一瞬見えなくなるほど深く沈み込み、その衝撃を受け止め切れなかったひとみお姉さんはサンドバッグごと吹き飛ばされた。
「かっ――ぁ――」
 床に倒れこんだときに縄が外れたらしく、華奢なごろんと投げ出される。小刻みに痙攣するひとみお姉さんは満足に呼吸ができないのか、腹部を抱えたまま掠れた声でのた打ち回った。
「げぼっ」
 やがて一つ大きく咳き込むと、その動きがぴたりと止まる。力なく両目を閉じ、紫に変色した薄い唇からは粘り気のある胃液を床へと垂らしていた。
 気絶した彼女を介抱することもなく、一郎お兄さんはカメラに向かって大きく手を振った。相変わらずの爽やかスマイルで。
「うん! 今日もたくさん歌ったね! ひとみお姉さんありがとう! それじゃあまた明日!」
 以上、N(日本)H(腹パンチ)K(協会)でした。

Comment

No:86|管理人のみ閲覧できます
このコメントは管理人のみ閲覧できます

コメントの投稿

Comment
管理者にだけ表示を許可する
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。