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★魔法少女リューコ その2

 いつもと同じだ。また侵略者が公園に現れた。
「イ、イカ……」
 セーラー服を着た女子中学生、伊野中流子が思わず後ずさる。
 間違いなくイカであった。パニック映画で見るような巨大なモンスター。ここは海でもなければ川でもないが、十本の足は陸の上でも問題なく蠢いている。
「イカとはまたパッとしないヤツが出てきたニャ。もっと敵っぽい敵は出てこないのか」
 隣にいるのは猫の耳と尻尾を生やした、流子とはそう歳の変わらない少女だった。黒のカットソーに太ももを惜しげもなくさらしたデニムパンツ。彼女も異次元の住人だ。
「聞こえてるぞそこの猫! イカを見た目で判断するな!」
 びしっと一本の足がミケに突きつけられる。若い男性の声だった。姿は微妙だが耳にすんなりと入ってくるような聞き取りやすい声だったので、そのギャップに流子はなんとなく好印象を持った。敵だけど。
「ふふん、お前なんかよりもっと怖そうで強そうなヤツを何匹も倒してきたニャ。悪いことは言わないから、さっさとその穴からそっちの世界に帰れニャ」
「ええイ調子に乗るな! お前たちが倒した中には俺の友達もイるんだよ。仇をとってやる!」
「なるほど復讐とはいかにもな理由。イカだけに」
「イイ加減にしろ絞め殺すぞ!」
「残念だけど相手はわたしじゃない。ここにいるリューコが戦うのニャ!」
「……はぁ」
 ため息。これもいつものことだった。ミケは襲来する侵略者を煽りに煽った挙句、自らは戦わず人任せにするのだ。実際まともに戦えるのは本来ミケの物であったはずの『力』を受け取った流子だけなのだから仕方ない。全然納得はできないが。
「貴様カ同胞を葬ったとイう魔法少女は。相手にとって不足なし。今こそ無念を晴らす時だ」
 巨大イカは白く透明感のある十本の足の内、四本で立っている。残り六本はうねうねと気持ち悪い動きを見せつけながら広げていた。触手と言った方がいいかもしれない。
「返り討ちにしてやるニャ。リューコ、変身ニャ!」
 むっ、と流子の表情が険しくなる。確かに何度も戦ってきたが変身だけはいまだに躊躇してしまう。漫画のように恥ずかしいセリフを言い放つわけでもないのだが……
 拳を握り締めているミケを前にして、流子は目を固く閉じた。すぐ近くで敵が立っているにも関わらず、両腕をだらりと下げて完全に無防備な状態を晒す。
「ニャァー!」
 気合が入った息を吐きながら、ミケが引き絞った腕を勢いよく突き出した。
 狙いは流子の腹。セーラー服の中央に小さな拳が叩き込まれる。
「うっ――!」
「……あれ?」
 今の一撃は躊躇もなにもないパンチだったはずが、流子は軽く呻いただけだった。これにはミケ本人も頭に疑問符を浮かべている。なにより拳に伝わってくる感触がいつもとは違っていた。
「こらリューコ、力を入れちゃダメニャ」
「入れてないよ!」
「嘘吐くニャ! じゃあニャんで一ミリもめり込まニャいの? まるで分厚い木の板を――まさか!」
 はっとしたミケは慌てて流子のセーラー服に手をかけ、がばっと捲り上げた。「ひゃっ」と小さな悲鳴。可愛らしいピンクのブラジャーが覗いているが、そんなところが重要ではない。
「こ、これは……!」
 流子のほっそりとした腹に――縦横に割れた腹筋が存在していた。ガチガチに鍛えたようなくっきりとしたものではないが、それでも他の女子中学生とは一線を画している。
「ちょっと、お腹冷えちゃうでしょ!」
「そうか、自然と腹筋が鍛えられてしまったということかニャ! これは盲点! 変身キーそのものが変身を阻害する要因になってしまうとは!」
 魔法少女に変身するためのプロセスには『嘔吐』が必要なのだ。汚物までいかず胃液だけでもセーフで、ミケに本気で殴られることによって変身していた。が、いつのまにか腹筋がとんでもなく丈夫になってしまっていたようだ。
「もぉ~! 恥ずかしいってば!」
 流子は頬を染めながら服を下ろした。こんなの同級生の友だちに見せられない。体育の時間なんかはびくびくしっぱなしだ。着替えないで済むよう最初から体操服を着てやり過ごしているが……
「これから夏になるっていうのに……プールとかどうしたらいいのよ」
「いやしかし、体はほっそいのに腹筋だけこうもたくましいというのは――エロいニャ」
「エロくないし!」
「でもこのままじゃまずいニャ。変身できなきゃ戦えニャい……これがお約束の変身不能ピンチってやつかニャー!」
「なんか違うと思うけど」
「さっきカら何をやってイるんだ貴様らぁ!」
 しびれを切らした巨大イカが触手を振るってきた。ミケが咄嗟に流子の体を抱きしめて転がるようにして横へ避けると、振り下ろされた白い触手が地面を抉った。軟体動物――と言っていいのかどうか分からないが、その触手は地面をへこませるほどの強度を持ち合わせているようだ。
「むむ……リューコ、こうニャったら仕方ニャい。イカの攻撃を利用するニャ」
「……それってもしかして」
 ミケは流子を支えながら立ち上がるや否や、彼女の体をどんと巨大イカへと突き飛ばす。
「イカ! お前の仲間を想う気持ちには感服したニャ! お詫びに一発殴らせてやるニャ!」
「ミ、ミケぇ……!」
 案の定だった。ミケは己の腕力で吐かせることができないと知ると、何倍も体が大きな巨大イカを頼ることにしたのである。とはいえ地面を抉りぬくほどの威力を見せつけられているのになんという非情さか。
「ほほう面白イ。では遠慮なく」
「待って待って待っ――」
 流子の太ももほどの太さがある触手が鞭にようにしなる。空気を切るような音が走ったかと思うと、流子の顔をへとビンタするように叩きつけられた。
「ぅぶっ!」
 視界が強制的にスライドした。脳みそがぐらりと揺れる。一瞬の浮遊感の後、地面へと無様に倒れこんだ。
「うぅ、く――」
 頬がびりびりと痛み、真っ赤に腫れていた。殴られたことで口の中を切ってしまったらしく、鉄の味が広がっている。
「って違ーう! 女の子の顔をぶっ叩くとかお前それでも男かニャ!?」
「何なんだ一体! 殴れと言っただろ!」
「顔じゃなくて腹ニャ! ボディボディ! もっかいやれニャ!」
 冗談じゃない。さっきの一撃でも視界が一瞬真っ暗になるほどの威力だったのに、腹部に受けたらそれこそ嘔吐どころじゃすまないかもしれない。
「もうやだぁ! 痛いのはもうやだ!」
「リューコ、変身しないと二人ともただ殺されるだけニャ。そうなったら誰が人類を守るニャ?」
「うぅ……そんなこと言ったって」
「わたしはもう故郷で起きた出来事を繰り返したくない。本来はわたしが持って戦うべき力だったけど……今はリューコにしかできないニャ!」
 ふと記憶が蘇る。初めて変身した日――ミケとその友だちが巨大なクラゲと戦っていたときのこと。二人ともボロボロになるまで抵抗して、挙句の果てに友だちの方は無残にも体を引きちぎられてしまった。
 もし、自分の友だちだったら? 家族だったら? 想像するだけでも怖気が走る。そんなこと絶対にあってはならない。
 頬に痛みを感じながらも、流子はゆっくりと立ち上がる。
「リューコ……」
 ミケの潤んだ声にぎゅっと拳を握り締める。そうだ、やるしかないのだ。確かに辛いと感じたこともあったが、何度も侵略者を撃退してきた。そう簡単に諦めてなるものか。
「話は済んだカ?」
 巨大イカがその巨体を近づけてくる。まるで大木のような敵を前にして、流子は小さく言葉を紡いだ。
「……殴って」
「何だって?」
「あたしのお腹、思いっきり殴って!」
 大きく叫びながらセーラー服を捲り上げ、見事に鍛えられた腹筋を見せつけるようにして晒した。恥ずかしいなどと言ってられない。とにかく変身しなくては。
「そうニャ! ゲロ吐くくらいの威力でよろしく頼むニャ!」
「どうしてそう殴られたがるんだ。怪しイぞ」
 まずい。巨大イカは『嘔吐』が変身キーであることを知らないわけだが、いくらなんでも露骨すぎたか。
「こんな可愛い女子中学生が腹を出して懇願してるのに……! 手を出さないとはお前それでも男かニャ!?」
 滅茶苦茶な言い草である。しかし最低胃液でも吐かないと変身すらできないから、流子としてもなりふり構ってはいられない。
「お願いだから……! 一回だけでいいの。げぇーってなるくらい、お腹殴ってぇ!」
「ぬ、ぬうう! 駄目だ! なんだか嫌な予感がするカら駄目だ!」
 誘惑に打ち勝った巨大イカは触手で殴るのではなく、流子の両足に絡みつかせて持ち上げた。
「わっ、きゃあああ!」
「代わりにこうしてくれる」
 逆さまにぶら下げられた状態でぶんぶんと揺さぶられ、視界がさらに激しく振動した。さながら絶叫マシンに突然乗せられたような感覚だった。
「ひああああっ! や、やめっ――むぐっ」
 こんなに全身を揺らされてはたらまない。腹の底からこみあげてくる感覚を覚え、思わず口元を押さえた。
「まずイ!」
 その様子を見て動揺したら巨大イカは流子の両足を解放し、すぐさま首を絞めつけた。
「ぐぇっ――?」
 流子の両目が大きく見開かれ、口から舌が突き出る。首を拘束されたことで逆さまから元の状態へと戻ったが、以前として触手にぶら下がったままだ。
 ぎりぎりと音をたてながら絞められている。すぐそこまで出かかっていたモノがせき止められてしまった。呼吸もできず、可愛らしい顔が次第に紅潮していく。
「やめろニャー! それだと吐けないだろー!」
 折れそうなほど絞めつけられているのにそちらを心配しているミケ。文句を飛ばす余裕はない。触手を外そうと試みるがビクともせず、両足がじたばたともがくように振り乱れるだけだった。
「げっ――ぅ――ぇ――」
 今にも意識が消え入りそうで視界もピンボケを起こしたように霞んでいく。今頃になって、自分が死と隣り合わせにある立場――魔法少女だったのだということを理解した。
 しかしもう遅い。このままここで、死ぬ。
 なにかが千切れる音が聞こえた。自分の首の音かと思ってぞっとしたが、そうではなかった。こうしてまだ目が見えているし生きている。
 何が起こったのか把握する前に、流子の体は地面に落下する寸前、何者かによって抱きかかえられていた。
「げほっげほっ――! あ――?」
 激しく咳き込みながら酸素を取り込む。少しずつ回復していく視界の中で、自分をお姫様抱っこの形で支えているその人物を見た。
 ミケではない。顔は真っ白な仮面で全て覆われているから表情などは一切分からない。両目の部分だけ大きめの赤いレンズが埋め込まれている。髪はやや茶色がかったショートで、バイク乗りのような革ツナギを全身に着込んでいる。背丈や抱えられている腕の感触からして男性であることがすぐに分かった。
 かなり異様な出で立ちだったが、流子は無条件に安堵していた。なんとなく懐かしい感覚に満たされていく気がしたのだ。
「ぐわあああ! お、俺の腕がぁぁ!」
 流子は呼吸を整えながら巨大イカへ視線を移す。さっきまで首を絞めていたはずの触手が半分ほどの長さになっていた。引きちぎられたような痕が残っていて、その先は地面に転がっている。
「だ、誰ニャお前は? 侵略者に傷を負わせるなんて普通の人間じゃないニャ!」
 元々は異次元の住人であるミケでさえも戸惑っていた。対して仮面の男は軽く彼女を一瞥しただけで何も答えない。
 仮面の男は手をそっと流子の首に添え、撫でるようにして指を走らせた。
 鈍く残っていたはずの痛みが消えていく。暖かい。よく見れば、彼の指が淡く光っていた。どこかで見たことあるようなその光。
「魔法ニャ……!」
 この場にいる誰もが唖然としていた。巨大イカでさえも。
 指は続けてセーラー服まで降りていき、胸の辺りを通過したとき思わず声をあげてしまった。今度は腹部を手の平で撫でた。すると嘔吐しかかっていた気持ち悪さがすぅっと収まっていく。
 治療が終わったのか、流子は地へと下ろされた。自分の足でしっかりと立つことができる。痛みなどはかけらも残っていない。
「あ、ありがとうございます」
 こくりと仮面が小さく頷く。
 よかった、言葉は通じる――と安心したのも束の間。鈍い音が鼓膜に響いたかと思うと、突然体が浮き上がる感覚に襲われた。
「え……?」
 上からではなく下から持ち上げられている。自分よりいくらか背が高いはずの仮面の男と、なぜか同じ目の高さで視線を交わしていた。
 体に何か埋まっている。おそるおそるそちらを見ると、胴体に――腹に黒くて太いものが突き刺さっていた。
 目の前にいる仮面の男の腕だった。それが流子の鳩尾を体ごと突き上げている。
「ご、ふっ……!」
 両目が見開かれ、瞳孔が針の先のように収縮した。
 深々と食い込んだ拳が内臓を抉り抜き、胃袋が奇妙な音をたてながらぐにゃりと歪む。ミケから受ける拳なんか比べ物にならない。硬く成長したはずの腹筋があっさりと打ち砕かれ、めり込んだ箇所を中心に全体へ激痛の信号が広がった。
「ぉ……ぉごえええぇぇぇ!」
 ようやく身に起こった事を理解した流子は、せきを切ったように胃液を吐き出した。黄色く濁った液体が溢れんばかりに垂れ落ち、仮面の腕と地面を汚していく。
 続いて流子の体がまばゆく光り輝き、呼吸一つの間に変身が完了していた。
 ピンクと白に彩られたコスチューム。ヘソが見えそうな白いシャツの胸元に大きなリボン。健康的な太ももが晒されたミニスカート。黒のハイソックス。チア部である彼女の『イメージ』を投影した魔法少女としての姿であった。
「変身したニャ! 間違いない、この人は味方ニャ!」
「がはっ、か、ぁはっ――」
 くの字のまま持ち上がり、腹に刺さった腕一本で支えられている流子の体が小刻みに痙攣した。いまだに口からは粘ついた液体が糸を引いている。
「こイつら一体どうなってイるんだ……」
 怒涛の展開についていけない巨大イカは若干引いていた。殴られることを望む少女、それを強要する猫人間、乱入して助けたはずの少女を躊躇いなく殴りつけた仮面の男。唖然とするのも無理はない。
「これで戦えるニャ! さあリューコ!」
 ミケの言葉に反応するようにして、仮面の男は流子の体を支えながら降ろした。とはいえ背中まで貫かんばかりの強烈な一撃を受けたため足に力が入らない。
「ぐぅぅ――かはっ、ぇほっ――」
 横たわった流子は腹を抱えて海老のように丸くなった。咳き込むたびに透明な液体が口から吹き出ている。呼吸もまだ満足に回復せず、顔を苦悶に歪めながら犬のように短く酸素を吸ったり吐いたりしていた。
「はっ。俺は何をぼーっとしてイるのだ。今のうち!」
 状況だけ見れば魔法少女を仕留めるチャンスだった。巨大イカは倒れている流子めがけて触手を振るうが、立ち塞がるようにして仮面の男が前に出てくる。
 太い触手をさも簡単そうに腕で掴み取った。両手を添えながら体をひねり、ジャイアントスイングのように巨大イカを投げ飛ばす。
「ぬわああああ!」
 公園の端まで飛ばされた侵略者がずしんと地面に叩きつけられた。
「すごい、すごすぎるニャ! しかしもう十分ニャよ? あとはリューコが!」
 あくまで流子に戦わせるつもりらしい。
 それが納得いかなかった。流子は腹部のやけつくような痛みに悶えながらも、どうしようもない苛立ちを覚えていた。
 どうしてこの仮面の人が戦わないの? わたしなんかよりずっと強いのに。なんで知らない人にお腹を殴られなきゃいけないの? 吐いてまでわたしが戦わなきゃいけないのはどうして? なんで?
「う、ううぅ――! ううう――!」
 ふつふつを湧き上がる感情に後押しされるように、流子はゆっくりと体を起こす。
「立ち上がったか。しかしそんな状態では満足に戦えまイ。悪イがここで終わりだ!」
 ほぼ同時に体勢を整えた巨大イカが、声を荒げながら突撃してきた。数多くの触手を使ってスピードアップを図っている。距離は一気に縮まってきた。

「うざい! 死ねッ!」
 
 それは八つ当たりだった。怒りは巨大イカではなくミケと仮面の男に対するものだったのだが、あまりに耳障りだったから流子は叫ぶように言い放った。
 視界が一瞬白く染まった。光に満ちたといった方が正しいかもしれない。ミケとおそらく仮面の男でさえも何が起きたのかすぐには把握できなかっただろう。
 力任せに叫んだことで無意識の内に魔力が解き放たれ、侵略者の存在を跡形もなく消し飛ばしてしまったのだ。流子本人としても、気付いたら巨大イカが消えていた――くらいにしか感じられなかった。
「さすがリューコ……叫ぶだけでこんな……恐ろしい潜在能力ニャ」
「なにが潜在能力よ。ふざけないで!」
 怒りをあらわにしながら振り向くと、さすがにミケもびくりと肩を震わせた。対して仮面の男は微動だにしない。
 それが気に入らなかった。彼に詰め寄ろうとしたが、腹部に再び激痛が走った。
「あぐっ……!」
 腹部を押さえながら膝をつくと同時、体が淡い光で覆われていく。水が弾けるような音が響くと光も飛び散り、元のセーラー服姿へと戻っていた。変身が解けたことで上昇していた能力も下がってしまい、鈍く残っていた痛みが強く蘇ってしまったのだ。
「リューコ!」
 横たわってしまった流子に駆け寄ったとき、ミケは異変に気付いた。倒れこむ際に少しだけセーラー服がめくれたのだが、何かが違っていた。
「あれ……? ちょっとごめんニャ」
「あっ……」
 鈍痛のせいで何の抵抗もできず、腹を押さえていた腕ごと制服を捲り上げられる。
「や、やっぱり! うっすら割れてた腹筋が消えてるニャ!」
 言葉通りだった。流子の腹部は歳相応というか――あの目も疑うような腹筋が異常だったのだが――白く滑らかな肌へと変化している。見間違えようがない。
「これはどういうことニャ! そこの変な仮面――あれ? いない?」
 いつの間にか仮面の男はその姿を忽然と消していた。なんの気配もなく。
 ミケは思案する。仮面が使ったのは間違いなく魔法だったが、彼女が知っている『治療魔法』とは少し質が違っていたように思う。
「むむ……あの人は“治した”んじゃなくて、“戻した”ニャ……?」
 聞いたことがある。たとえどんなに損壊した物でも元通りにするという魔法。生き物でも、機械でも、何でも。伝説とまで言われていた魔法だから、ミケ自身もあまり信じてはいなかった。
 つまり、仮面の男はたくましくなった流子の腹筋を突き破ったのではなく、魔法で元の状態に戻したうえで拳をめり込ませたのではないか。でなければボクサーの拳でさえ耐えそうだったあの見事な腹筋を打ち破れるはずがない。
「もぉ……! むかつく、むかつくぅ……!」
 まだ腹の奥底を刺激し続ける痛みを抑えこみながら、流子は毒づいた。
 苛々する。ミケも、仮面の男も、侵略者も、変身することも、腹を殴られたことも、なにもかも。
「素晴らしい。あの仮面さんは変身しやすいように腹筋を柔らかくしてくれたということニャ。なんだろう、いつの日かまた出会う気がする。わたしの第六感がそう囁くニャ」
 これからの変身については安泰だ、とミケは安心するのだった。

Comment

No:55|読ませて頂きました♪
魔法少女リューコ、ここまで拝見いたしました!
魔法少女の変身条件を腹パンチ変換したのは斬新ですごく好きですw
更に第2話では意外な障害と変身までの苦労、更にその障害を取り除いてくれる正義の味方(?)が登場したりと、よく煮詰められた設定が光ってますね。
コミカルでドタバタな作風も秀逸です♪
続きがあるようでしたら、是非また、読ませて頂きたいと思っています。
ありがとうございました♪
No:56|Re: 読ませて頂きました♪
>ミストさん
厳密には嘔吐が変身のキーです。何かしら吐けばいいわけです。
一応まだ先のお話は一つ予定があるのですが、いつになるかは分かりません、おそらくそれが完結になるでしょうね。

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