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★女王ステラ

 若き女王ステラは我侭で、自分勝手で、独裁者だった。
「庶民が謁見を? だめだめ、わたしは忙しいの」
 家臣とは、甘いお菓子を食べながら受け答えするのが常だった。王室でこのように食べたり飲んだりしているだけで、国の内情は全て部下たちに任せっきり。
 王であった父親が急病で他界したため、一人娘だった彼女が即位した際は民衆も涙したものである。かわいそうだと。まだ十四歳になったばかりの彼女には重過ぎると。
「うえっ、なにこれ? こんなマズイものよくも食べさせてくれたわね。お仕置き」
 彼女を不機嫌にさせたものは、良くて投獄、悪くて死に至った。直接手を下すわけではない。それらも全て部下の仕事だった。
「なによその目。わたしの命令が聞けないの? なら死ねば?」
 最悪だ、と誰かが言った。誰もがそう言い始めた。
 以前の国王は人徳があり、民衆の注目を一身に浴びるカリスマ性があったのだ。国そのものを見守っているような、大きくて包容力のある存在だったのに。なぜ娘はあんなにひどいのか。
 かねてより友好的だった国々からも見放されるようになり、そちらへ亡命する人々も増え始めた。当然女王はより一層不機嫌さを増す。
「むかつく。その国滅ぼしちゃお」
 彼女はケーキを頬張りながら戦争を始めた。いや、戦争と呼ぶのもおこがましいほどの制圧だった。元より傘下ともいえる国々だったのだから抵抗などほとんど意味を成さなかった。女王のおやつがなくなったころ、一つの国がなくなった。
 圧倒的な国力を見せ付けられ、どの国も手を出してこようとはしなかった。内情を知っても見て見ぬふりだ。ステラの気まぐれな矛先が自分たちに向かないことを祈ることしかできなかった。
 だが、じきに終わりを告げる。

 ある日、城が民衆によって包囲された。それぞれ剣や槍を持ち、反抗勢力の印である赤いスカーフを首に巻いている。
「なにあれ。バカみたいに叫んじゃって目障りなんだけど。追い払ってよ」
 危機感も何も抱いていない女王はいつものようにお菓子をかじりながら命令した。そのくせ金のレースがあしらわれた純白のドレスは汚れ一つなく、腰まで届きそうな栗色の髪もきめ細かく輝いている。同年代と比べても小柄ではあるが、十四歳にして女王としての存在感を圧倒的に示していた。
 だが側近はその場を動かず、逆にステラの神経を逆撫でする言葉を言い放った。
「姫様、もう終わりです」
 彼は代々王族に仕えてきた騎士団の長である。女王の父親からの信頼も厚く、密かに娘との結婚まで考えていたくらいだ。もう、彼は幻滅していたが。
「はあ? 意味わかんないこと言わないで。あなたはわたしの言うことを聞かなきゃいけないのよ。死ぬまでね」
 血縁が途絶えるまで王族に仕える――何十年も前から続けられてきた両者の間にある固い絆と約束。それがあるから、女王も好き勝手振る舞えたのだ。
「ええ。命令に背くことをお許しください。責任を持って自害いたします」
 まるで挨拶のような軽々しさだった。騎士たる彼はなんの迷いもなく、装備していた剣を自らの首に押し当てて勢いよく滑らせた。噴水のように夥しい血液が女王の私室に飛び散り、赤く染め上げていく。
「あっ――」
 ステラは呆然と、倒れていく家臣を眺めていた。城の外で喚いている民衆の声さえ遠くなるほどの衝撃が襲ってきた。彼女はお菓子を食べながら何人も人を殺したはずなのに、死というものを欠片ほども知らなかったのだ。
「ふざけないでよ! ねえ、起きて! 私の言うこと聞きなさいよ!」
 我侭に叫ぶ女王は彼の死体に近づこうとはせず、ただその場に立ち尽くして無意味に叫ぶだけであった。
 爆発したかのような勢いで開かれる私室の扉。なだれ込んできたのは、民衆の決起を促したレジスタンスのリーダーである。騎士団の一人で女性だ。長身と燃えるような赤いショートヘア。二十代後半だが、若々しくも凛々しく整った顔立ち。
 団長の亡き骸を見て取ると、悔しそうに表情を歪める。
「間に合わなかった……!」
 首の赤いスカーフを見たステラは目を見開く。
「エリス……! 裏切ったのね!」
「裏切る? 人聞きが悪いですね」
 日頃から城の陥落を狙っていたエリスの計画は、ほぼ成功したといえる。しかし騎士団長の彼が自害することを察知しておきながら、止めることができなかった。それが彼女にとって余計に苛立ちを募らせていく。
「なにも、。死ぬことはなかったのに……!」
「知らないわ! 勝手に死んだのよ! 私の命令を無視して、勝手にね!」
「黙りなさい! あなたのその高慢さが……! とにかく一緒に来てもらいましょうか」
「嫌よ」
 ステラは護身用のナイフを傍の机から取り出した。刃は汚れひとつなく、王族の紋様が彫られた柄も金色に輝いている。
 きらびやかなドレスとは不釣合いなその立ち振る舞いに、エリスは鼻で笑った。
「逃げられませんよ。城はほぼ我々が占拠しました。もっとも、わたしが負けるはずはありませんが」
「そんなのやってみなきゃ分かんないじゃない! わたしだって少しくらい稽古してたんだからね!」
「ではかかってきたらどうですか?」
「そ、そっちからきなさいよ!」
「遠慮なく」
 革のブーツが床を蹴る。唐突に駆け出してきたエリスに驚いた女王は、反射的にナイフを突き出した。しかしぎゅっと握り締めている両手にはなんの手応えもない。
 刃はむなしく虚空を切っていた。細い両手首を片手でぐいっと掴み上げられる。
「あなたの稽古とは、お遊戯のことですか?」
「あっ、離しなさ――ぅぐっ!?」
 目が見開かれた。両腕を取られてがら空きになっているステラの腹部へと、エリスが拳を突き込んだのだ。酸素が叩き出される。
「エリ、ス……!」
 体の内側からじわりとした痛みが広がり、急激な眠気に襲われたように瞼が重くなった。やがてステラの意識は刈り取られ、女性騎士の体へと寄りかかるようにしながら瞼を閉じる。
 女王を抱きとめたエリスは、首から真っ赤な血を流している亡き骸を見下ろし、一粒の涙を流した。

 腹部の鈍痛に呻きつつ、ステラは目を覚ました。かすかな風が頬を撫でている。
「なっ……」
 ここは牢獄ではなく外だった。城門が背後にあり、目の前にはなにやら喚きたてる民衆が所狭しと溢れかえっている。すぐ隣にはエリスが憮然とした表情で立っていた。
「なによ、これは!」
 しかも彼女は両手を縛られて吊るされていた。小柄な彼女の両足がかろうじて地についている程度。本来は死刑囚の首を吊るための器具なのだが、どういうわけかまるで恥を晒すかのように人々の前で拘束されている。
「あなたへの罰ですよ」
「罰? ふん、お前がわたしに罰を与えるというの?」
「いいえ。国民全員です」
 淡々と告げられ、女王は視線を人々に移した。視界いっぱいに広がっている人間の顔。男も女も子供も老人も、全員が首に赤のスカーフを巻いている。
 エリスがおもむろに右手を掲げると、民衆は声を落とした。示し合わせたかのように、先頭近くでじっと女王を睨んでいた一人の若い男性が歩み出て行く。
 ぶらさがっているステラの前に立つと、男性は怒りのあらわにした。
「家族を……家族を返せ!」
 唾を飛ばす勢いで叫ぶ男に、ステラは首を傾げた。
「はあ?」
「どうしてフェルタ村を焼き払ったんだ! なにもしていないのに!」
「フェルタって、あのきったない村のこと? ゴミを焼いて何が悪いの?」
 思わぬ返答に男性はあんぐりと口を開けたまま固まった。
 国民も薄々分かっていたことだが、この若き女王の価値観は著しく偏っている。たとえ人の命でも、彼女にとってはどうでもよいこと。一般人と同じ土俵に立っているわけではないのだ。
「ふざっ、ふざけるな! お前のせいで、どれだけ――!」
「時間です。次」
 エリスから思わぬ横槍が入った。女騎士に渋々従う男性は、呪いのような言葉を呟きながら人の群れの中へと戻っていく。入れ替わるようにして新たに女性が現れた。
「もしかしてずっとこのまま悪口聞かなきゃいけないの?」
 うんざりしたようにステラはため息をついた。
「あなたはもっと人々の言葉を聞くべきです」
 エリスが頷くと同時、女性は口開く。
 そうして、民衆は思い思いの言葉を女王にぶつけていった。家族が死んだ――友人が死んだ――国はお前の玩具じゃない――何人も、何人も声を大にして叫んだ。
 どんな罵詈雑言を吐き散らされても、眉ひとつぴくりとも動かさない。もとよりステラは耳を傾けてなどいなかった。
「おい、聞いてるのか!」
 だから、今目の前にいる男が何人目なのかも分からなかった。
「……え? なに?」
 彼女にとって一般人は取るに足らない存在。たとえ稚拙な悪口を並べられたところで悔しいともなんとも思わないし――それ以前に言葉そのものが彼女には意味を成さない。聞いていないというより、聞こえていないのだ。
「ふざけるな!」
 怒りの収まらない男性は拳を振り上げた。ほとんと上の空だったステラは頬に熱い痛みが走ってもしばらく呆然としていた。
「やめなさい!」
 エリスの制止が聞こえたとき、ようやくステラは自分が殴られたのだと理解した。痛みによって脳が沸騰したかのように熱くなっていく。
「つぅ……なにすんのよ!」
 ここでようやく女王は感情をあらわにした。民衆に初めて目を向けたと言っていい。吊らされている状態ではあるが、瞳の力は失われていなかった。
「お前は俺たちをなんだと思ってるんだ……!」
「わたしは王。おまえたちは民。それだけのことでしょ? 格下が吠えてるんじゃないわよ」
「このやろ……!」
「やめなさいと言ったはずです!」
 再び殴りかからんとした男性の胸元に、エリスは装備していた細剣を突きつけた。
「一方的な暴力は許せません」
「こ、こいつにありのままをぶつけろと言ったのはお前さんだろ。こうやって拘束しておいてよく言うぜ」
「あくまで場をつくるための措置です」
「それに、こんなもんじゃ足りねえよ! 俺たちの受けた苦しみはまだまだ……」
「あなたの時間は終わりです! 次――」
 一喝するように言い放つが、別の声が割り込んできた。それは次々と。
「待ちな! そいつの言うとおりだ!」
「そうよ! あたしも一発叩いてやんないと気がすまないわ!」
 次第に広がっていく攻撃的な意思はエリスを戸惑わせたらしい。息を呑んで口をつむぐのをステラは見逃さなかった。
「あっ――!」
 動揺して剣をわずかに下がったとき、群れの中から数人、女騎士へと飛びかかっていった。とっさに反撃できなかったのは彼女の甘さ故か。数人に押し倒される形となり、剣も奪い取られてしまう。
「そのまま押さえててくれ!」
「任せとけ。へへ、俺はちっちゃなお姫様なんかより断然こっちが好みだ」
「や、やめなさい! どこを触っているのです!」
 滅茶苦茶に入り乱れる言葉と思いが城下町を支配していた。ステラはすぐ隣でいいように体を撫で回されているエリスの様子を見て、顔をしかめた。
「気持ち悪っ。ほんとおまえたちってゴミね――ぶっ!?」
 空気が割れたかのような音は、再び頬に響く痛みと共に鼓膜を叩いた。わずかに体が揺れる。
「黙れ! お前がやってきたことに比べれば……!」
「――ふん、自分のことは棚に上げるつもり? 言っとくけどわたしは何も悪いことしたと思ってないからね」
 二度殴られてもステラの強い眼差しは揺るがなかった。それは元々精神が強いとかそういった類のものではなく、ただ単純に、彼女は自分のことが一番正しいと信じているからだった。
「おい、次は俺だ」
 続いて現れたのは先ほどの男よりも遥かに体ががっしりとした男性だった。十四歳で小柄なステラなど胸元にまで届かないほどの巨体。
 彼はなんの躊躇もなく、女王の腹部へと拳を突き入れた。
「ぶぐぇ!?」
 純白のドレスの中央に太い腕が突き刺さる。拳は一瞬深々とめり込み、衝撃で小さな体が後方へと揺れた。その大きな振り子のような揺れから見ても、今の一撃は並大抵の威力ではないことが周囲にも伝わった。
「おごっ……げほっ! げほっ!」
 腹を殴られるなんて当然初めてのこと。ステラは痛々しく咳き込みながら腹部の痛みに戸惑っていた。
 殴りつけた本人と、周囲が高らかに声を張り上げる。
 もっとやれ。もっと痛めつけろ。もっと。もっと。
 また腹を殴られる。
「がっ、は……!」
 また体が揺れる。彼女自身の体が重りとなって元の位置へと加速しながら戻っていき、さらに大男の猛打が叩き込まれる。背中が自由なので衝撃はある程度抜けていくのだが、それでも十四の少女に大木を一人で持ち上げそうな腕力は重すぎた。
「ぅう! ぐぇ! げおっ!」
 柔らかい肉を叩き潰すような音。二発も、三発も。繰り返される度に振り子としての動きと女王の呻き声は大きくなっていった。男の目前へと戻るスピードは増していき、比例して拳の威力も増大する。
 何発目かの突きが加えられようとしたとき、男はステラの背中に手を回した。同時に埋め込まれる拳の威力は背中から逃げていかず、腹の中だけで炸裂する。
「ふぐっ……!?」
 脆すぎる腹筋に拳が隠れるほど食い込んだ。それまでとは違った、内側から駆け上がってくるような痛みに目を白黒させる。
 大男はそれだけでは飽き足らず、深くめり込んでいる拳を上へと捻り上げた。鳩尾までもが抉られていく。爪先立ちだった体が浮き上がり、薄い筋肉と細い骨がみしみしと軋んだ。
 胃も肝臓もなにもかも、半回転する拳によってかき混ぜられた。内臓が音をたてて歪んでいき、ステラの喉元がびくりと跳ねる。
「ごぇっ! ぇっ、げええぇぇぇえええぇ!」
 腹の底からこみ上げる熱いモノを押さえることもできず、盛大にぶちまけた。異臭がする白っぽい吐瀉物。まだ消化しきれていなかったクッキーやケーキなど、国民の金で買われた彼女のおやつがびちゃびちゃと地面を汚していく。当然突き刺さっている大男の腕にも降りかかった。
「くそっ!」
 慌てて引き抜かれた拳の後を追いかけるように、今度は粘ついた胃液を吐き出す。だらしなく舌を突き出しながらびくびくと全身を痙攣させていた。
「ぅぷっ! はっ――がっ――ひぁ――」
 ぐったりと脱力するステラは、しかし倒れこむことさえ叶わない。ロープによって縛られている両手首は既に血が滲むほど赤くなっていた。
「ははっ、いいぞいいぞ!」
 周囲はまるで観客のように熱を帯びている。
 屈辱。民衆の前で、彼女にとって虫けらのような存在たちの前で嘔吐するという醜態を晒した。涙が滲んでいるのは、痛みのせいか、それとも悔しいからなのか、ステラ自身にも分からなかった。
「なあおい、どうだ女王様よ。泣いて謝るならやめてやる」
 痙攣しながら俯いているステラの顔を覗きこみながらにやりと笑う。これだけ殴っても彼は罪悪感の一つも感じていないようだった。それほど女王が嫌いだった。
「えほっ――はあ……? なに、言ってんの? わたしが、おまえたちゴミに、そんなことするわけ、ないでしょ」
 呼吸する度に腹部が痛むが、気丈な態度を一切崩さない。確かに屈辱ではあったが、決して人の前では弱みを見せないのがこのステラという少女だった。それはまさに『王』としての姿に見えた。
「この……おい、その剣よこせ!」
 エリスを押さえ込んでいる数人の中の一人が、彼女の剣を大男に手渡した。周囲にどよめきが走る。女騎士が何事か叫ぼうとしていたが、口元を押さえられてしまう。
 大男は細剣を使って女王のドレスびりびりに破いた。胸から腰辺りまでが完全に斬られ、彼女のほっそりとした体躯があらわになる。下着を着てはいるが、殴られた腹部に青痣ができており、時折ぴくぴくと震えている。
「どうだ、悔しいだろ。なあ言えよ! ごめんなさいってな!」
 たとえ肌が晒されても。
「うるさいわね……だからおまえたちになんか、いぎいあああああああ!?」
 小さく細々とした声が急に悲鳴へと変わった。ぶつっ、と斬るような音とともに細剣が右肩に突き刺さったのだ。焼け付くような痛み。真っ赤な血が漏れ出し、がかろうじて残っているドレスを染め上げていく。
 さらにぐりぐりと捻るようにして細剣が蠢き、肩がもぎ取れるかのような激痛が若き女王を襲った。両足を駄々っ子のようにばたつかせて悶える。
「おら!」
 抜かれた途端血液が溢れ、間髪いれずに次は左肩へと刃が滑り込んでくる。
「ぐっ! ぅぐううぅぅうぅ!」
 目を固く閉じて悲鳴を押さえ込むように歯を食いしばる。右肩からはとめどなく流血していた。体が分解されそうな痛み。
「言えよ!」
「ぅげっ……!?」
 まだ少女とは思えない濁った呻き声。
 またしても大男の猛打がむき出しの腹にめり込んでいた。体が飛ばされなかったのは、ほぼ真上にパンチが抉り上げられたからだった。持ち上げるようにして拳が突き刺さっている。
 さらにもう一撃。
「ごぶっ……!」
 元々ゼリーのように柔らかく、何度も殴られて崩壊した薄い腹筋は抵抗も何もできない。凶器ともいえる拳によって内臓が妙な音と共に押し潰され、ステラの口からも鮮血が溢れ出した。
「がはっ、ぁはっ、あっ――けへっ――」
 腹部に拳を埋め込まれ浮き上がったまま、血反吐を撒き散らす。何人かが目を逸らしたが、大人が少女をぼろぼろに痛めつけているこの惨状を目の当たりにしても誰も止めようとはしない。
 ただ、醜いから視線を合わせないだけだ。彼女を「かわいそう」などと同情する人間は一人もいない。
「もうこの場で殺す。最後に言いたいことはあるか?」
 痙攣しながら咳き込んでいるステラは呼吸困難に陥りつつも、赤く濡れた唇で言葉を紡ぐ。
「おまえたちは、わたし無しじゃ、生きられない」
「なんだと?」
「……どうでも、いいわ。それよりケーキが、食べたい。げほっ、持ってきて、ちょうだい」
 ぐぼっ、と拳が引き抜かれる。代わりに細剣が心臓めがけて侵入し、背中まで突き抜けた。小さな体躯がびくりと跳ね上がる。
「あがっ――かっ――」
 顔が天に向かって突き上がり、ごふりと吐血する。陸に上がった魚のように全身を震わせたのも一瞬――すぐにぐったりと体から力が全て抜け切った。
「姫! 姫ぇぇ!」
 既に衣服さえ剥ぎ取られているエリスが泣き叫ぶ。そんなつもりじゃなかった。ただ、ステラにはもっと周りを見て欲しかっただけなのに。もっと、民のことを分かってほしかっただけなのに。
「その女も殺せ! もう国の人間なんて必要ない。俺たちだけで生きていくんだ!」
 その後、女騎士エリスは散々体を弄ばれた後、殺された。
 だが、国民たちは理解していなかった。王というものがどういう存在であるか。
 ステラ女王が亡くなったという事実が知れ渡っとき、即座に隣国が攻め入ってきた。元より強大な力を有していた国であるため、その領地も広大。ステラの国が戦地となった。なにもかも奪い去られた。
――おまえたちはわたし無しじゃ生きられない。
 誰かがその言葉を思い出した。今になってそれが分かったのだ。王なくして民は生きられない。それを誰よりも理解していたのはステラ自身である。
 死ぬ直前まで、彼女は間違いなく国の頂点として存在し、誰よりも王たりえる姿勢を持っていた。
 ただ、幼すぎたのだ。
 彼女の国はもう、地図から姿を消した。

Comment

No:41|
民に辱められ、嬲られようとも最後の最後まで王たる威厳と気高さを失わずにいたステラが最高です。
もし彼女が国の事を理解できるほど大人になった時に即位していたら違った未来があったかもしれませんね……
No:42|
>ミヤビさん

小さい頃から甘やかされまくって好き放題しているので、もしかしたら大人になっても変わらないかもしれません。
もうちょっと小憎たらしい女の子にしたかったのですが、意外と素敵な女王様になってしまいましたね。

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