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花びらたち ★4-5

 コスモス本人が現れるというのはチューリップたちはもちろん、彼女の命を狙うフリージアでさえ目を見開いていた。
 だがそれも一瞬のこと。かねてよりコスモスを抹殺する手段をいくつか想定していたフリージアはただちに意識を集中させた。
 まずなによりも王妃を倒すことが最優先。
「アザミィ!」
 駆け出すフリージアの手に液状化した神器が舞い戻る。応えるようにしてアザミは脇目も振らずに突撃していく。
「コスモス様――!」
 腹部の痛みで意識が朦朧としているはずのカトレアが叫ぶ。王妃の護衛として付き従っていたはずの三人は、この場にいてはいけないはずの主が自ら現れたことによって半ば呆然としていた。
 前衛である二人は重いダメージを受けているし、後衛のマーガレットは目の前で強い光が走った際の衝撃で尻餅をついてしまっている。それぞれの視線は既にコスモス王妃めがけて神器と拳を構える二人の姿を捉えていた。
「取った!」
 フリージアがにやりと笑う。両手には分裂した二刀の剣が握られていた。さらにアザミが挟み撃ちするようにしかけており、あらゆる防御や回避に対応できるようパターン化されていた。万が一殺せなくても、致命傷を残せる。
 即座に接近してきた二人に意識が追いついていないためか、コスモスは表情さえ変化していなかった。
 そんな彼女へと左拳が迫る。防御してもその身に触れれば雷による弱体化を受けてしまう攻撃。たとえ回避しても――
「なっ……!」
 拳は空を切った。それ自体は想定外というわけではない。重要なのは拳に対する標的の行動であって、その隙を突くのが目的だったからだ。形を自由に変える神器なら前後左右、あるいは上空に逃げても対応できるはずだったのに。
 王妃の姿さえ見当たらない。瞬きなどしていないのに、目の前から消えうせた。まるで最初から存在しなかったかのように。
 困惑するフリージアは、後方から飛んできた声に慌てて振り向いた。
「危ないわね。挨拶もないの?」
 コスモスは、遥か後方にいる黒髪の少女の傍に立っていた。その戦器士ですら驚愕に目を瞠って王妃を見上げている。
「え……? え?」
 チューリップでさえも目で追うことができなかった。風のように駆けたのであれば木々が揺れたり砂が舞っているはずだ。しかしそんな形跡はない――いや、これは動きが速かったとかそんなレベルの問題ではない。
「ちっ……!」
 二人の神器使いは肩を並べながらそれぞれ構える。フリージアはあらゆる可能性を考え巡らせていた。彼女は命のやり取りにおいて愉悦を感じるという、人として外れた精神の持ち主ではあるが、その実戦闘においては豊富な知識と経験を備えている。
「みんな、ずいぶんやられたのね。大丈夫?」
 自分の命を狙う輩が得物を構えているにも関わらず、王妃は三人の安否を確認していた。柔らかい笑みを湛えていて、その様がフリージアの頭に血を上らせる。
「余裕かましてんじゃないよ!」
「そんなつもりはないわ。どうも嫌な予感がしたから見に来たのだけど、危機一髪ってところね」
 まるで散歩のついでとでも言わんばかりの口調だった。
「ふざけないで……! ここであんたを殺してやる!」
「亜人との共存を認めないから?」
「そうだよ! あんな奴らと一緒の世界なんて虫唾が走る!」
 チューリップたちは少し勘違いをしていた。彼女たちはコスモス個人への何かしら因縁があると思い込んでいたが、実際は亜人に対する強い負の感情が勝っている。
「共に歩もうとする亜人だっているのよ。みんな仲良くした方がいいじゃない?」
「そんなのあんたたちに都合のいい世界ってだけ! わたしには……わたしたちにとっては反吐が出る……! アザミがこうなったんだから!」
 露出のほとんどない衣服から、袖部分が切り落とされてようやく肌を覗かせた右腕は普通の人間と変わりない。だが義手としての役割を担っていてもあれは間違いなく神器なのだ。血の通わない冷たい腕。
 亜人との間に何があったのか。チューリップは想像したくなかった。フリージアの激しい怒りからして芳しいものではない。だって右腕を失っているんだから。
「ごめんなさい」
 王妃が一言、謝罪を述べる。彼女はアザミの義手を直接目にしていないはずだが、それでも表情は確かに心を痛めている色に染まっていた。
「だけど亜人を見境なく傷つけるのは認められないわね」
 一瞬呆気に取られていたフリージアだったが、再び感情を露にする。
「あんたは……! そんなだから……!」
「私に憎しみをぶつけるのは構わないわ。そうさせてしまったのは、亜人たちとの関係をまだ築き上げられていなかった証拠よ。だから、私の責任」
「そんなに亜人が大切なの? 人間より亜人がの方が!」
「亜人側をひいきしてるつもりもない。どちらも生きる者でしょう? 等しくあるべきだと私は思うの」
「どこまでお人好しなんだ! そんなので本当に平和になると思ってるわけ? 裏の世界を知らない偽善者!」
 知っている、とコスモスは頷く。
「だけどそれは人間側も同じ。あなたたちの行いも裏の世界よ」
「分かったような口を……!」
 話にならないと判断したフリージアは二刀の神器を構え直した。隣で微動だにしていなかったアザミも浅く腰を落とす。
「マーガレットは二人を治療しなさい。その間は私がなんとかするから」
「え……」
 胃袋を破壊されかけた赤髪の拳士は胃液を垂らして呻きながら、王妃のとんでもない発言に耳を疑った。
「き、危険です! お下がりくださいませ!」
 栗色の髪をした治療士に至っては命令を無視し、杖を構えて前に出ようとするほど。
「コスモス様、私たちの任務は――!」
 王妃に絶対的な信頼を寄せる戦器士は尻尾のように結った黒髪を揺らした。
 コスモスは三人を手で制すと、皆を一瞥しながら前へと歩み出た。
「だって可愛い仲間を傷つけられたのよ? 私、今すっごく怒ってるんだから」
「怒ってるからなんだっての! 身の程知らずのお姫さまが!」
 激昂しながら突撃してくるフリージアが神器を変化させた。剣から液状へ。この時点で既に彼女たちの連携は始まっていた。
 隣にいたアザミが地を蹴り、まさに雷のごときスピードでコスモスに急接近した。少女が駆け抜けたあとは砂や葉が舞い、火花が音をたてて弾けている。
 さしものコスモスも目を瞠る。身長差は歴然で、アザミは王妃の胸元までしかないが、純粋な格闘戦ならともかく魔法を交えた戦いなら背丈などほとんど関係ない。魔力の強さが勝敗に大きく関わるのだ。
「胸郭」
 横から弧を描くようにして幼い少女の小さな拳が唸る。血が通っている生身の左腕。チューリップですら完全に見切るのは難しいと思われるほどの素早い攻撃が、コスモスの正中線に襲い掛かる。
 雷鳴が轟いた。両者の足場が着弾の衝撃で大きく陥没して周囲の空気までも振動させ、王妃の護衛たちは皮膚がびりびりと痺れるような感覚に襲われた。
 間違いなく攻撃が叩き込まれたように見えた。しかしすぐ認識を改められることになる。
「うん、凄い。みんなが苦戦するのも無理ないわね」
 感心したようにコスモスは頷く。彼女は右手でアザミの左拳を受け止めていた。ほとんど微動だにしていない。あれだけの衝撃と音が周りにまで響いていたのに、王妃はけろりとしていた。
「……!」
 初めてアザミの表情に陰が差し込んだ。少女にとっては改心の一撃だったはずで、それをあっさりと防御されてしまった。対象を弱体化させる魔法も拳に乗せているはずなのに、目の前の王妃にはその効果が見られない。
「蹴り穿つ」
 止められた拳を引いて素早く次の攻撃へと移行する。黒地のロングスカートながらも、背がいくらか高いコスモスの側頭部にまで右足の爪先が振り上げられた。
 帯電している魔力が火花となって散る。足先は王妃の頭部に到達せず、やはり左腕で防御されていた。
「判断力もいい。うちに欲しいくらいだわ」
 嬉しそうに微笑むコスモスへと、槍状の神器を携えた金髪の少女が襲いかかる。
 振り返ることもせず、息を合わせたかのようにアザミが身を屈めた。その頭上を赤黒い刃が走り、王妃を真正面から貫かんとする。
 胸が射抜かれる直前、コスモスは半身をわずかにずらすだけで回避した。彼女は左横を通り過ぎる神器の柄をむんずと素手で掴むと、思い切り後方へと投げ飛ばした。
「いっ!?」
 フリージアは体ごと持っていかれ、重力に従って数歩先の地面へと落下する。
「コンビネーションも悪くない。よっぽど仲が良いのね」
「肝臓」
 抑揚のない声が王妃の脇腹を狙う。今度は右拳だった。理由は分からないが弱体化の魔法が効果なしとなれば圧倒的なパワーでもってねじ伏せる他ない。
 右の脇腹に突き刺さろうとしていたアザミの拳を、必要最小限の動きだけで避けたコスモスはその細い手首を掴んだ。人肌ではない冷たさと鉛のような硬さが彼女の指に伝わる。
「ちょっと痛いわよ」
 くるりと向きを変えながら少女の腕を持ち上げ、がら空きになった腹部に手を添える。添えただけだ。少なくともそう見えた。
 瞬間、王妃の掌が発光する。外側から押し潰されるような衝撃がアザミを襲った。みしりと骨が軋み、内臓器官が圧迫される。
 魔力の弾ける音が溢れて、幼い少女の体が風に飛ばされる木の葉のように吹き飛んだ。
 くの字になりながら飛んでくる小柄な体を、立ち上がっていたフリージアが神器を捨てて受け止める。それだけでは衝撃が消えず、勢いあまって二人もろとももんどりうって倒れこんだ。
「かはっ……!」
 初めてアザミが苦痛の声を漏らした。表情も無から苦へと変わっている
「あら、やっぱり加減が難しいわね……ごめんなさい、ちょっとどころじゃなかったわ」
 魔法を直撃させておいて、王妃は心底申し訳なさそうに眉尻を下げた。
 チューリップたちは彼女の実力を目の前で見せ付けられ、言葉を失っていた。思えばコスモスの得意とする魔力属性を誰も――カトレアでさえそれを知らないし、もとより、戦う術を持っていること自体が驚愕に値する。ましてや、あの二人にたった一人で善戦するなんて。
「アザミ、大丈夫!?」
「……内臓損傷」
 顔を歪めながらの声はわずかに震えていて、薄い唇から血の糸を引いていた。攻撃を受けた箇所が破けたようで、小さな臍が人形のような法衣から覗いている。さらけ出された肌も殴られたかのように赤く変色していた。
「もういいでしょう? 抵抗をやめてほしいのだけど」
「うるさい! 絶対ここであんたを殺す!」
 亜人との共存がどうこうより、今はアザミを傷つけられたという事実が彼女を突き動かしていた。本来であれば当初のように冷静な状況判断をするであろうフリージアが、なりふり構わず強敵に突撃している。
 対して王妃は残念そうにため息をつきながら右手を前にかざした。美しい手指に淡い光が灯る。森の中を魔結晶が明るく照らしているにも関わらず、より強いフラッシュが全員の視界に差し込んだ。
「がっ……!?」
 距離にしてまだ五歩ほどある間合いで、フリージアは目を見開いて呻いた。神器を落として腹を抱えながら両膝をつく。
 まただ、とチューリップは息を呑んだ。他の二人には見えただろうか。赤髪の拳士は卓越した動体視力で王妃の魔法の一端をかろうじて視認していた。
 光弾だった。コスモスの掌から光輝く弾が撃ち出されたのである。マーガレットの<ファイアボール>によく似ていたが、迸る魔力の強さはそれ以上のものだった。凝縮された魔力の塊が、まさに光の速さでもってフリージアの腹部に着弾したのだ。
 光――それがコスモス王妃の属性。
「あなたはもっと頭が良いはずよ。大人しくなさい」
「けほっ……ぇほっ……!」
 アザミよりもダメージはいくらか少なかった。先ほどの攻撃で王妃は学んだらしく「ちょっと痛い」程度で抑えることに成功したようだ。とはいえ短く咳き込み続ける姿は十分な激痛を与えているように見える。
 苦しげに体を折りながらも、鋭い眼光は衰えを知らなかった。ぎらぎらしたその瞳は見るものを気圧す気迫があったが、いかんせん相手が悪い。
「みんな、もう動けるわね? 二人を確保してくれる?」
「……は、はい!」
 見事な攻防に見惚れていた三人のうち、チューリップがまず立ち上がった。上の空ながらもマーガレットが治療を施してくれたおかげで前衛の二人はある程度動けるまでに回復しており、今や亜人狩りの少女たちが受けたダメージの方が深いと言える。
「ちっくしょ……!」
 捕まるまいとフリージアが神器を支えにして立ち上がるが、両足は頼りなく小刻みに震えていた。
 ふと、チューリップの直感が自身に危険信号を告げた。漠然とした予感。別のところからやってくる強烈な威圧感が。
「チューリップ、ストップ!」
 王妃の力強い言葉で確信に代わり、小柄な拳士はフリージアの数歩手前で立ち止まった。
 この場にいる全員が上空を見上げている。チューリップが感じた気配は風を切る音と共に猛スピードで迫っていた。
「うわっ!」
 天から真っ逆さまに飛来してきたそれは、地上へとぶつかるようにして着地した。衝撃で地を揺らし、砂や木の葉が乱舞する。圧倒的な質量を持って現れた物体の正体を見て、一同は現実を疑った。
 爬虫類に似た体は赤黒い鱗で覆われ、象をも噛み砕く硬い牙、地面を抉る鋭い鉤爪、大木をへし折る太い尾、巨体を大空へ舞わせる翼。
「ドラゴン……!」
 カトレアが声を荒げる。古代の歴史に興味を持つ彼女は、ある種の恍惚な眼差しでかの伝説的な生物を見上げていた。
 ガアアアアアアアアアアアアア!
 大気を震撼させる咆哮は森を突き抜けて犬族の集落にも届くほどだった。心の弱い者ならその場で失神するか発狂するかのどちらかだが、魔法使いたちはそんな柔な存在でもない。
「二人を、守ってますの……?」
 着地と咆哮によってバランスを崩していたマーガレットが、杖を支えにしながら呟いた。
 雄雄しき龍は、言葉通りあの二人を庇うようにして現れた。鋭利な牙を見せつけながら、ここからさ先へは通すまいと翼を広げている。
 その大きな翼が一際大きく上へと持ち上がった。たっぷり深呼吸一つ分の間を置いた後、地面へと叩きつけるように勢いよく下ろされる。発生した風が魔法使いたちを襲った。
 巨体が地を離れ、羽ばたく度に上空へと浮かんでいった。ほぼ真下にいるチューリップたちは暴風のごとく押し寄せる大気の流れのせいで見上げるだけが精一杯。同時に、フリージアとアザミの姿も消え失せていることに気づいたがもう遅い。夜空を天高く舞い上がったドラゴンは西の方角へと飛び去っていった。
「お利口ね。勝てないと判断したみたい」
 王妃は髪を整えながら龍が逃げた方向を眺めている。それは別に自惚れでもなんでもない。実際あのモンスターは戦わずに離脱したのだ。
「二人を助けに来たんだね」
 チューリップの呟きに幼なじみは眉を寄せる。
「いろんな事が起きすぎで頭がどうにかなりそうですわ……」
 無理もない。神器だの、ドラゴンだの、常識とはあまりにもかけ離れすぎていた。頭を悩ませる種はこちら側にも一つある。
「コスモス様、申し訳ありません」
 黒髪の戦器士が王妃の前で肩膝をついていた。慌てた拳士と治療士もそれにならう。コスモスはというと頭に疑問符を浮かべたような表情で見下ろしていた。
「逃がしちゃったこと?」
「全てです」
「相手が悪かっただけ。神器持ちの魔法使いなんて私も予想していなかった。無理をさせてごめんなさいね」
「それは違います。実力不足であることを実感いたしました。コスモス様に助太刀をいただくとは」
「まるで私に助けられるのが不名誉みたいな言い方だけど?」
「そうではなく……!」
「ふふ、冗談よ。カトレア、あなたは完璧を求めすぎる。今回の任務内容を述べなさい」
「……コスモス様をお守りすることです」
「そう。亜人狩りはイレギュラーだったわけだから、彼女たちを捕まえることは本来の目的ではなかった。私の言ってる意味分かる?」
 跪いているカトレアの頭が撫でられた。顔を上げると間近に王妃の美しい微笑みがあって、思わず視線を逸らす。
「それに、お城に帰るまでが任務よ。そんなに落ち込んでていいの?」
「失礼しました」
 立ち上がると深く一礼し、続いて共に戦った二人にも頭を下げた。
「ご迷惑をかけましたね。すみません」
「何を仰います。全面的にわたくしが足手まといでしたわ。攻撃にはろくに参加できないで」
「場所が悪かったのです。もとよりマーガレットさんは治療士ですから攻撃に参加する必要はないかと」
 真顔で言われて大火力魔法を有する治療士は乾いた笑いを漏らす。正論だから何も言えない。
 その隣で赤髪の拳士はため息ついていた。
「あたしが全然駄目だったね。アザミって子、すごく強かった」
「相手の戦闘タイプ如何で得手不得手が決まるのは、前衛には避けられないことです。それは私も同様ですよ」
 魔力を放出しない純粋な自己強化タイプであるチューリップは弱体魔法を苦手とし、魔力を断つ刀を持つカトレアは魔法使いに強いが、相手は魔力を必要としない神器をメインに据えて戦っていた。運命のいたずらか、示し合わせたようにお互いの長所が噛み合っていなかったのだ。
「そう、それよ」
 三人の様子を眺めていた王妃は嬉しそうに手を打った。チューリップらは何のことやらと主に視線を送る。
「戦いのことじゃないわ。そうやってお互いを励ましあうのがチームというものよ。理想的ね」
 確かに戦闘内容はお世辞にも良いものとは言えなかったが、コスモスが重視していたのは人間関係だった。誰を責めるわけでもなく、弱点などを理解したうえで次への階段を登る。チームとして固定させることを想定していた彼女は満足していた。
「問題なしよ。これからも三人一緒にがんばってね」
 それぞれが顔を見合わせ後、力強く頷く。こうしてチューリップ、マーガレット、カトレアは一つの部隊として正式に認められた。これが第一号となり、国に属する魔法使いたちも次第に構成が整えられていくだろう。
「さあ戻りましょう。集落のみんなを安心させてあげないとね」
「あ、あの!」
 チューリップが思わず呼び止める。少女拳士はどうしても疑問に感じることが一つだけあった。
「なに?」
「コスモス様に護衛って必要なんですか?」
 王妃はきょとんとした後、腹を抱えて大笑いを始めた。国の主だとか、上品さだとか、そんなこととは無縁であるかのように爆笑している。護衛たちは唖然となるしかなかった。
 なにかおかしなこと聞いたのかとチューリップは動揺する。
「え、ええ? だってコスモス様すっごく強いし!」
「あはっ、はあっ、ごめんなさい、あまりにもストレートだったから」
 目尻に涙を浮かべるほど笑い転げたコスモスは、呼吸を整えながら三人を見据える。
「私の属性は光。もう気付いてるわね? でもこれは限定的なもので、周囲に光の要素がないと何もできないのよ」
「……ええと」
「光っていうのはすごく特別なもので、私自身はそれを生み出すことはできない。真っ暗なところじゃただの人間同然ね。一応魔結晶も持っているのだけど」
 そう言う王妃は軽く微笑んだが、言葉の内容は聞き逃してはならないほど重要だった。
 月明かり程度しかない夜では、彼女の魔力はほとんど機能しないという。先ほどの戦いでは、マーガレットが用意した闇を照らし続ける魔結晶が彼女の動力源となったようだ。炎には光の要素が含まれている。その意味では治療士は戦闘におおいに貢献したと言えるだろう。
「だからマーガレットには感謝しなきゃね」
「わ、わたくしはそんな、大したことではありません」
 おどおどしながらマーガレットは頭を下げた。彼女が王妃に対していつも体を硬くしているのは、地位的なものもあるが個人的な意味でも頭が上がらないからであった。いわゆる『伝統的』な家から出たいと考えていたまだ幼いマーガレットを引き抜いたのは他ならないコスモスなのだから。
 カトレアはわずかに俯いていた。もし敵の襲来に備えていなかったら? 亜人狩りであるあの二人でなくとも、明かりがない深夜に襲われればコスモスは満足に抵抗もできない。だから護衛が必要なのだ。
 チューリップは親近感を持って王妃を見つめた。かつて思い悩んだことと似通っている部分がある。女として例外なく魔力を宿して生まれてきたのに、それを放出することができなかった。恩師サクラによって能力が開花されるまで、出来損ないと罵られた。
「さっきも言ったけど、まだあなたたちのお仕事は終わっていないのよ。よろしく頼むわね」
 各々、強く頷くことで返答した。
 国の主とて完璧ではない。その事実が三人に様々な感情を抱かせていた。親しみや不安が入り混じっているものの、共通して決心する思いがある。
 きっと作り上げてくれるだろう。人間や亜人――もっと根本的な、魔法さえ度外視した先にある平和を。
 そして自分たちが支えるのだ。柔らかい微笑みを湛える彼女を。
「あの、もうひとつだけ」
「ん?」
「最初の攻撃を避けたのって……」
「別に難しいことじゃないわ。光の速さで移動しただけよ」
 とんでもないことをコスモスはさらりと言ってのけ、三人は再び言葉を失うのだった。

Comment

No:39|
お帰りなさい!!


コスモス様の強さに私も唖然になりました

試験勉強は大丈夫ですよ~
むしろ黒葉さんの小説のお陰で、いつもやる気が出てます

カトレアは私の原動力なので、『花びらたち』を1話読むと3時間勉強出来る自信があります!(笑)
No:40|Re: タイトルなし
>紅さん
ただいまです。
私の文章で何かしらお役に立てているのであれば、作者冥利に尽きます。嬉しいです。
それにしてもカトレア人気ですな。私自身もすごくひいきにしてるキャラです。

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