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★悪魔っ娘サーたん

 異種格闘技というのは、異世界にも存在する。その場合は戦うスタイルのことではなく、異なる『種族』のバトルを意味している。格闘とはいっても様々な世界から参加するわけで、常軌を逸した能力を持った強者で溢れていた。頂点に立った暁には、途方もない富が得られるだとか、全世界を支配できるだとか、とにかくとんでもないものが手に入るそうだ。
 血みどろの戦いが行われるはずの会場を、バトルの熱さとは全く別の声援が支配していた。
「やっほーみんな元気ぃー? 悪魔っ娘サーたんだよー!」
 声量はあるがあまりに威厳がない、クセのある幼い声。体も小さい彼女も参加者の一人である。
 ぴょんと長く伸びたアホ毛が特徴である紫色の髪はショートヘアで、大きく丸い瞳も同じ色。卵型の小さい顔は鼻も口も全てが美しく整っていた。
 赤いフリルがついた黒いキャミソールからは腕が完全に露出していて、丈も長くなくお腹の肌がちらちらと覗いている。さらに、脚を少し広げるだけで中が見えてしまいそうなほど短いスカート。紫のオーバーニーハイソックスからちょっぴり見え隠れする太ももが妖艶さを際立たせていた。
 サーたんが悪魔たる証は背中の羽とお尻から生えた尻尾である。羽毛がないコウモリのような翼と、先端がハートのような形をした細長い尻尾は彼女のトレードマークであった。
「集まってくれてありがとう! あたしの活躍見ていってねー!」
 会場全体が震えるほどの大歓声が沸き上がった。ほとんどが彼女目当てのギャラリーで、悪魔界だけでなく他の世界からも注目を集めているサーたんは満足そうに頷いた。
「くぅ~、たまんない! やっぱり参加して正解ね」
 もはや悪魔界全土だけでは物足りなくなったサーたんは、別世界のファンも多く獲得しようと意気込んでいた。あのにっくき天使界の住人だってきっとすぐに目をハートマークにするだろう。彼女はそれだけの自信を持っていた。
 コロシアムのような会場が唐突にブーイングへと変わる。サーたんと向かい合うようにして対戦相手が現れたのである。ギャラリーはサーたん目当てのファンであり、彼女の敵はすなわち彼らの敵であった。
「あーあ、あたしの大舞台が台無しじゃーん。変なの~」
 サーたんの視線の先では、体全体が錆びかかっているロボットがぎこちない動きで歩いてきていた。ロボットとはいっても骨組みではなく鎧を着たような格好で、たとえばお城に飾られているようなタイプのものだ。機械界のことをよく知らないサーたんはそんなイメージしか思いつかなかった。
 機械界はどこか別の世界と戦争をして負けたらしく、故郷を復活させるためこの大会に参戦したと聞いている。ご大層な理由だが、そもそも戦争するのが悪いのだ。
『さあ、両者準備が整いました。これよりバトル開始です! サーたんファイトー!』
 会場の天井などいたるところに設置されているスピーカーから、若い男の声が響き渡った。彼はこの大会の実況と審判を同時に務めており、言葉から分かるように悪魔っ娘のファンであった。そういった意味でも、サーたんの勝利はほぼ確定的といえる。
 開始のゴングが声援の中を突き抜けた。勝利条件は相手を再起不能にすること。ギブアップ可。降参なんてみっともない真似はサーたんには考えられないことではあるが。
「相手があたしで残念だったね。こんなのさっさと終わらせて、一気に注目集めちゃうんだから!」
 アニメ声で力強く言い放つと、何を思ったかミニスカートの両端をほんの少しだけ持ち上げた。ちょっぴり見えていた太ももの肌が広がると同時に、地が響くほどの歓声が爆発する。
『うおおっ! 見る者を魅了するサーたんの絶対領域だぁ! 会場の皆はカメラの持ち込みは禁止されているが安心してほしい! バトルの様子は公式映像として録画されているから後で買ってくれ! 俺は予約済みだぞ!』
 大興奮しているファンたち。サーたんは心の昂ぶりを感じて微笑んだ。
 彼女はふざけているわけではない。相手を魅了して己の支配化に置くという、れっきとした戦闘方法である。これは悪魔としての能力でもあり、彼女自身という天然の素材が誘惑効果に拍車をかけている。男はもちろんのこと女でさえもサーたんの虜になってしまうのだ。
(これよこれ。みんながあたしを見てる! ああ気持ちいい!)
 アイドル気質を備えている彼女の、まさに適材適所といえる能力であった。
「さあロボットさん、これであたしの――あれ?」
 普通なら魅惑的な肌を覗かせた太ももに見とれているはずの相手は、平然としていた。がっちゃがっちゃと耳障りな音をたてながらゆっくりと近づいてきている。ロボットなので表情の変化など分かるはずもないが、効いている様子がない。
「脚じゃダメ? じゃこっち?」
 今度はキャミソールの裾をめくる。またしても会場が割れんばかりの歓声。
『お、お、おヘソだ! サーたんの小さくて可愛いおヘソが顔を出したぞ! すっべすべなお腹撫で回したい!』
 だがしかし、一人――一体というべきか、錆びた体を持つそいつだけは何も感じていないようだった。ただひたすらに、黙々と、少しずつサーたんとの距離を縮めている。
「ええっ、お腹も違うの? あなたコアね。ということはこっちか!」
 お次は片手を腰に、もう片方の手を後頭部に添えた。天井が吹っ飛ぶかと思うくらい、観客たちは叫びながら立ち上がる。
『腋だぁー! 腋! 腋! 今日のサーたんはなんだか大胆だぞ!』
 実際大盤振る舞いである。太ももだけで既に鼻血を噴き出している者もいえば、今の三連続見せつけポーズで失神者も続出しており、彼女がいかに魅惑的であるかを表しているのだが――
 それでも、相手のロボットは歩みを止めることがなかった。
「なっ……太ももダメ、お腹ダメ、腋もダメって、あなた一体何フェチなのよ!」
「サーたんサーたん! 機械って心がないから多分意味ないよー!」
「ええっ? なにそれ、聞いてないし!」
 後ろの観客席から飛んできた声に振り向きながら唾を飛ばす。尻尾がぴんと上に伸びた。
 これは単純なミスだ。サーたんが機械界の住人について知識がなかったのがそもそもの原因である。
 性別関係なく魅了できる力を持っている彼女は、だからこそ勝負する前から負けるはずがないと決め付けていたのだ。彼女は常に誰かを虜にしてきたから。機械に誘惑が効かないなんて事実は知らなくて当然ともいえる。
「サーたん後ろ!」
 え、と振り返った瞬間、視界が急に横へとズレた。同時に感じる頬の熱。それは次第に痛みまで増していく。
「がっ……!?」
 バトルフィールドの床が目の前にある。さらに自分の名を叫ぶ観客の声。そこでようやくサーたんは殴られたのだと気付いた。じわりと広がる頬の痛みに呆然とする。
 殴られるなんてことはもちろん初めてのことで、ましてや大切な顔だ。怒りよりむしろ、なぜそんなことができるのか、という疑問の念が沸き起こる。
(だって、だって、あたしはみんなのアイドルなのに――)
 心を持ち合わせていないロボット兵は、倒れこんでいるサーたんの可愛らしい尻尾を掴み上げた。
「ぎぃやあぁぁぁぁ!?」
 電流でも流れたかのような悲鳴。痛みとは別の、なんだか体の奥を刺激するような感覚が彼女を襲った。小柄で細身な体がぶら下がりになり、ただでさえ短いスカートから黒の下着があらわになってしまう。
 そして沸き起こる歓声。
「ちょっ、ちょっとぉ! 見ないで!」
 サーたんは頬を真っ赤にしながら必死でスカートを押さえたが、ほとんど意味はなかった。下着がぎりぎり見えないくらいのところを維持するのがポリシーだったのに。
 恥ずかしさでこの場から逃げ出したい衝動に駆られるが、ロボット兵はそんなことなどお構いなしに右腕を引き絞っていた。
「ひっ!?」
 顔面を狙っている――! サーたんは目をぎゅっと瞑りながら両腕で顔を覆い隠した。
 だが無防備になってしまった腹部へと、ロボットはその鋼鉄の拳を突き込んだ。生地の薄いキャミソールが巻き込まれながら奥へと沈む。
「ぉ゛っ……!?」
 何の躊躇もない打撃が少女の腹を真正面から捉えた。柔らかな腹筋がいとも簡単に陥没し、内臓の形まで変えていく。
 見開かれた両目の瞳孔が針の先のように小さくなり、薄い唇から汚い呻き声が漏れる。
「は、ぐっ……ぇ……!」
 視界がロボット兵から床へと落ちる。拳がめり込んだ瞬間、逆さまの体がくの字に折れ、そのまま鋼鉄の腕一本だけで彼女の小さな体躯が高く持ち上げられた。まるで観客たちに見せ付けるように。
「かはっ――はっ――っ――」
 圧迫される横隔膜。腹の中に潜り込んだ異物に喘ぐように、サーたんは酸素を求めるが、口がぱくぱくと震えるだけでほとんど呼吸ができない。
 ロボットの腕を引き抜こうと両手で掴んだとき、その腕が反時計回りにねじられた。胃袋がごぽっと水っぽい音を立てて歪み、体全体がびくりと跳ねた。
「ごぇっ!? ぉ、ぅえ゛え゛え゛ぇぇぇぇぇぇ!」
 腹の底からこみ上げてきた熱いものが喉を小さく膨らませ、堪えることもできずに勢いよく吐き出した。少し黄色く濁った胃液がびちゃびちゃとフィールドに広がっていく。
 何も食べていなかったのがかろうじて救いだった。でなければファンの目の前で食べ物を嘔吐するなどという――そんなこと考えたくもない。
「げぼっ! げほっ――え゛っ――ぉぇっ――!」
 とはいえ、これだけ胃液を吐き散らしていれば十分に屈辱的。実際のところ、だらしなく舌を突き出して粘ついた液体を垂れ流している彼女の姿を見せ付けられた観客達は、しんと静まり返っていた。
 ドン引きという状況は最悪だ。腹の痛みは当然だが、誰一人歓声をあげていないことはアイドルである彼女にとって拷問に等しい。
 ロボットはゆっくりとした動きで拳を下ろす。悪魔っ娘はフィールドの床に投げ出され、胃液の溜まりへと転がった。
「おげっ、がはっ、ぇほっ、えっ――」
 びくびくと断続的に痙攣しながら腹部を抱える。咳き込むたびに粘液が溢れて止まらない。激しい嘔吐感は収まらず、内臓ごと吐き出したくなるほど気持ち悪い。
 苦しげに喘ぐ彼女の頬を、錆びた鉄の足がずしんと踏みつけた。
「ぶべっ!」
 奇妙の呻き声がこぼれる。床とサンドイッチ状態になり、苦痛で歪んでいた表情がさらに醜く潰れた。その様子はもちろん会場の高性能カメラによって撮影され、配信もされているのだ。
(もうやめて……みんなにひどい顔見られたくない……!)
 無我夢中でロボットの足首を殴りつける。駄々っ子のように。
 するとあっさり鋼鉄の足が離れた。安堵したのも束の間、再び腹部に激痛。
「ぐぶぁ!?」
 衝撃でサーたんの上半身が跳ね上がった。腹に落とされたロボットの足が、内臓をも押し潰さんばかりにめり込んでいる。仰向けになっていたはずの体がくの字になり、悪魔っ娘は自分の胴体に太い鉄の塊が突き刺さっているのを呻きながら見つめた。
「げはっ……ぁっ……うぇ……!」
 床とサンドイッチ状態になった腹部は文字通りぺしゃんこに圧迫されていた。様々な内臓器官から押し出されるような形で、サーたんの唇から赤の混じった液体が溢れ出す。
 思えば、実況者の声も聞こえない。彼らが崇拝する彼女がいいようにやられているのに、誰一人として「やめろ」という一言さえ叫ばない。
 それが、ものすごく頭にきた。なんなんだ。こんなに酷い目にあっているのに誰も助けようとしない。試合への乱入は禁止されているから?
「うう……ふざ、けないで……!」
 腹を踏み潰されたままなので声はほとんどかすれていた。誰にもその言葉は届いていないが、それでもサーたんは口内に溜まった液体を飛ばしながら必死で叫ぶ。
「ふざけんな……、ふざけんなぁ!」
 瞬間、彼女の体が輝き始めた。光ではない。しかしどこか透明感のある黒い光が、オーラとなって体を包み始めた。
 もうどうなっても知らない。みんながその気なら、自分だって。
 サーたんの額にもう一つ、目が生まれた。それは元々閉じられていたもの。第三の目。悪魔である証。
 ぎろり、とその瞳がロボットを睨みつける。すると錆びついた鉄の体が次第に宙へと浮き上がっていった。
 腹部から足が抜かれたとき、圧迫されていた内臓が一気に元の形へと戻る。なにか蠢くような、ごぼりと鈍い音。それは痛みも伴っていて、サーたんは再び重く咳き込んだ。
「んぐ、がはっ……!」
 もう構うものか。今更惨めな姿を見られたところでどうにもならない。眺めているだけで何もしようとしない観客たちに教えてやる。
「見なさい! これがわたし! 本当のわたしよ!」
 額の瞳が光が宿る。闇色の輝きが、光線となって撃ち出される。宙に浮いてもがいていたロボットの顔面に直撃。鋼鉄の頭部を破壊しても勢いは止まらず、そのまま天井まで貫いた。
 会場中にどよめきが走り、わずかながら悲鳴も聞こえた。
 瞳の大きさでしかない極細の光線だったため、穴が空いたものの天井が崩れ落ちるということはなかった。観客席には怪我人もない。バトルフィールドに横たわっている、頭のないロボット兵を除いて。
 サーたんは痛む腹部を堪えながら立ち上がり、周囲を見回す。殺人的な光線を放ったことに目を疑っていたであろうファンたちは、今はもう口を固く閉ざしている。
「ん、ふぇぇ……!」
 悪魔っ娘は涙を堪えることができなかった。両目と、第三の瞳からもぽろぽろと透明な雫を流している。尻尾もだらりと床に垂れていた。
 彼女にとってこれはコンプレックスだったのだ。悪魔界にはもちろんそういった、おかしな特徴を持つ住人がたくさん存在するし、それ自体が強力な力を有しているのも確かだ。
 だが、小さい頃に言われた。「怖い」って。同年代の子に真正面から告げられた。陰口も聞こえた。実際、瞳が三つもある悪魔は、どういうわけかサーたんだけだった。
「だから、隠してたのにぃ……! もうわたし、みんなに、かわいいって言ってもらえないよ……!」
 泣き出しながらその場に再びへたり込む。やっぱりイヤだ。みんなの視線がどこかへ行ってしまうのは耐えられない――
 突然、地鳴りが起きるほどの歓声が轟いた。
「ひぇ!?」
 びくりと肩と尻尾を震わせるサーたんへと、観客達が熱い眼差し送っている。それを彼女ははっきりと感じた。
「サーたーん! すごいぞー!」
「その目もすんごいキュートだ! ああっ、もっと睨み付けてほしい!」
「まだ隠し技があったなんて……ますます好きになっちゃうだろ!」
『勝者は悪魔界のアイドルサーたんです! 俺たちは決定的瞬間に立ち会えたのかもしれないぞ! きっとこの録画映像はいつもより何十倍も値が張るに違いない!』
 おのおの胸を熱くして声を張り上げる。ほとんど、いや全てが彼女を賞賛する言葉だった。一人も「怖い」などと目を背ける者はいない。
「そ、そうでしょ? すごいでしょ? かわいいでしょ?」
 まさか受け入れられるとは思ってもみなかったサーたんは目を白黒させたが、すぐに持ち前のキャラクターを前面に押し出した。涙の跡を残しつつもとびっきりの笑顔を咲かせる。
「みんな、これからもわたしを応援してくれるー?」
「うおおおおおおおおおおおおおお!」
 そうだ、涙なんか似合わない。泣き落としなんて邪道もいいとこ。それにコンプレックスを隠しておく必要なんてなかったじゃないか。
 ファンは何もかも全部、真っ直ぐ見つめてくれるんだから。

 後日、映像については実況者の言った通りになった。普段のライブ映像からしてプレミア的な値段がついているサーたんの試合映像は、他の物より明らかに桁が多かった。ファンは例外なく彼女の勇姿が捉えられた録画をその手に収めている。同時に他の様々な世界にまで彼女の名は知れ渡るようになった。
 一部では、殴打されて胃液を吐いたり喘いだりしているシーンに興奮する者もいるそうだが、サーたん自身はその事実を知る由もない。

Comment

No:45|
へ~!終に出てきた腹を踏み砕くリョナの話。敵がゴーレムみたいのロボットもいいアイデアね。あなたの短編が一番大好きですよ。エロシーンは全くなくて、腹責めオンリーだ。
次の作品期待してます!
No:46|Re: タイトルなし
>nagamori the gaijinさん
ありがとうございます。Thank you very much.

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