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★がんばれデスアロマ

「人間たち! 動くなデス!」
 夕方の公園に大きな声が響いた。一度聞いたら忘れられそうにないほどの――悪い意味ではなく、鼓膜にまとわりつくような少女の声だった。
 帰宅途中の学生や子供連れの主婦など、多くの人々が何事かとそちらへ視線を向ける。注目を浴びた声の主はにやりと頷いた。
「この公園はたった今わたしが制圧したデス! 文句があるやつは手を挙げるデス!」
 彼女は声色からも想像できる、聞いた者がまさに思い描くような女の子の顔をしていた。毛先がウェーブになっている髪は胸のあたりまで伸びており、目が覚めるような金色に輝いている。大人の手の平ほども大きな花の髪飾りを着けていた。
 長い睫毛に大きく丸い瞳。その幼いながらも整った顔立ちから、彼女を連れている母親もきっと美人なのだろうと、誰かが辺りを見回したがそれらしい人物は見つからなかった。
 ぱっと見てまず人形のようだと形容する人が多いだろう。ピンクとホワイトがバランスよく調和されたロリータドレスは膝下スカートがふわりと膨らんでいて、縞模様のニーソックスと桃色のパンプスが細い脚を包んでいる。
「ふふふ、怖くて誰も文句が言えないようデスね? 無理もないデス。だってわたし――」
「きゃーかわいい!」
「ねえねえお名前なんて言うの?」
 二人の女子高生がきゃいきゃいと少女に群がる。
「な、なんデスかおまえたち、なれなれしい。わたしを誰だと思っているのデスか! 悪の皇帝デスサタン様直属の配下、“死の香り”ことデスアロマなのデスよ!」
 デスサタン――誰もが泣いて謝るほどの恐ろしいその名を口にしても、まとわりつく女どもは怖がりもせずに悪の幼女の頭を撫でた。
「ですあろまちゃんって言うんだ? へえ~、ハーフ? 日本語ぺらぺらだね!」
「そんじょそこらの人間と一緒にするなデス! つーかわたしは人間じゃなくて、おまえたちを恐怖のどん底に陥れる怪人なのデス!」
「あーん怒った顔もかわいい。えっと、演劇かなにかの練習なの? すっごい上手だねー」
「お、おちょくっているのデスか? 人間の分際で生意気な。しかたない、わたしの力を見せ付けてやるデス!」
 信じようとしない人間たちに思い知らせてやるべく、自身の能力を遺憾なく発揮することにした。まん丸な瞳にぎらりと鋭い光が宿る。
「くらえ! <クシャミ・エンドレス>! そーれっ!」
 デスアロマが頭を大きく振った。美しく長い金髪がぶわっと舞い上がり、同時に何か粉のようなものが放出された。太陽に照らされてきらきらと輝いている。
 光の粒子は空へ昇った後、粉雪よろしく地上へと降り注いだ。
「わーすごいきれい! ねえ、これなに――へっくし! あれ、ふぇっくし!」
 どこか神秘的な光景に女子高生の一人がに目を奪われていたが、突如として盛大なくしゃみを連発し始めた。
「あはっ、真理子なにそのくしゃみ? 変な――は、は、はっくしゅっ」
「美樹だってくしゃみしてんじゃん! へくし! なにこれ止まんなへぇっくし!」
 その現象は女子高生たちだけにとどまらず、公園にいる全ての人間に発症していた。学生も子供も主婦も誰もかも。
「はっはっは! わたしの発する粒子を吸い込むと様々な効果が表れるのデス! いまのは<クシャミ・エンドレス>という、その名の通り延々とくしゃみが出続けるという極悪極まりない技! どうデスか!」
 誇らしげにまっ平らな胸を張る。怪人だと自称している彼女の見た目はとても可愛らしいが、なるほど人間ではあり得ない能力の持ち主であった。
 これで恐れをなした人間どもがわたしにひれ伏す……そう確信していたデスアロマの表情はしかし、芳しくなかった。
「うっわ、美樹、鼻水すっごい! なぁにそれマジうける!」
「あんただって顔ひどいよ、あはは、めっちゃブサイク! は、はぁっくしゅ!」
「な、なんデスかこれは。なに笑ってるんデス? なんでそんなに楽しそうなんデスか!」
 この公園は恐怖の嗚咽で満たされるはずだったのに。デスアロマの予想に反し、人間たちは何が面白いのか笑い声を溢れさせていた。
「ぐぬぬ、わたしを怒らせるとはいい度胸デス! もう許してあげないデスから!」
 かくなるうえは、とデスアロマは再び己の能力を発揮しようと構える。できればこれを使いたくなかった……だが仕方ない。情けは無用だ。
「へくし! つ、次はなに?」
「せっかくだから先に教えておいてやるデス。これから放つ技はその名も<ワンハンドレッド・シャックリ>!」
 女子高生たちは「しゃっくり」という単語に気付くのに数秒を要した。
 唖然と黙り込んだ彼女たちにデスアロマはにやりと唇の端を吊り上げる。己の知識の高さに酔いしれる思いだった。人間には様々な生理現象が存在するが、特にこのしゃっくりなる現象はデスアロマでさえ肩を震わせるほどの恐ろしい効果を備えている。
「しゃっくりを百回連続でやっちゃうと死ぬ! おまえたは自分で死のカウントダウンを告げることになるのデス! はっはっは!」
 なんと恐ろしい攻撃方法だろう。自分自身が怖い。しかし現実とは非情なのだ。わたしを怒らせたことを後悔するがいい。
「さあ、いくデスよ――」
「まてぇい!」
 唐突に訪れた力強い声。残酷極まる技を放とうとしていたデスアロマは思わず動きを止めた。
 人々の視線がある方向へと向けられていた。デスアロマもそちらを見上げると、小さな時計塔の上に二人の人間を発見した。
 一人は金色に輝くライダースーツを身に纏っていた。もう一人は銀色だ。頭全体を隠すヘルメットは、目の部分だけがサングラスをかけているみたいに黒っぽい。
 はっ、と気付く。噂に聞くあれは……
「正義の使者、ゴールドライダー!」
「正義の使者、シルバーライダー!」
 若々しいエネルギーに満ち溢れた声で二人はそう名乗った。声からして男であることは間違いない。
 人々を悪の手から守る正義の味方がいる……デスアロマはそう聞かされていた。彼らに何人もの怪人が倒されているという事実もある。人間を支配するうえで避けることのできない相手だった。
「皇帝の手先だな。これ以上好き勝手はさせんぞ!」
 拳を握り締めるゴールドライダーに、おお、と幼い歓声があがった。砂場で遊んでいた男の子数人が眩しく光る金銀のヒーローに熱い眼差しを注いでいる。くしゃみをしながら。
「出たデスね正義の使者。名だたる怪人を散々倒してきたようデスが、それも今日で終わりデス! このわたしデスサタン様直属の――」
「先に行くぜゴールド! とう!」
 銀色の使者が大ジャンプで時計塔から飛び降り、脇目も振らずロリータな怪人へと駆けて行く。
「こら、まずわたしの名前を聞くデス!」
 このような場において名を挙げるのはモチベーションの向上と共に、周囲の人々に名前を刻み込むという重要な役割がある。それを邪魔されてデスアロマは憤慨する。
「くらえ、シルバーナックル!」
「だから話を、んぶっ……!?」
 抗議しようとしたデスアロマの頬へと銀の拳が、なんの遠慮もなく叩きつけられた。常人ならざる力でもって怪人少女の小さすぎる体は十メートル以上も殴り飛ばされる。
「がっ、いっ……!」
 地面を転がってようやく停止する。殴られた左頬が針で刺されたような痛みを帯び、赤く腫れてしまっている。
 近づいていくる足音。恐怖心に駆られたデスアロマは慌てて立ち上がろうとする。うつ伏せのまま顔を上げた瞬間、視界いっぱいに銀色のライダーブーツが広がった。
「シルバーキィック!」
「ぶぐぁっ!」
 シルバーライダーの爪先が顔面に激突する。潰れるような奇妙な悲鳴をあげたロリータ怪人は、まるで空き缶のように軽々と宙を舞った。髪から放たれた粒子ではない、赤い光の雫が飛び散っている。
「んぐっ、んんん――!」
 どさりと地面に落下した少女は顔を両手で覆いながら痛みに震えた。押さえていても溢れ出す鼻血が止まらない。痛い、痛い。骨が曲がっているかもしれなかった。
「なんだ、今回の怪人は大したことないぜ」
「待てシルバー。以前もそうやって調子に乗っていたら返り討ちにあったことを忘れたのか? 油断は禁物だ。敵の作戦かもしれんのだぞ」
「そ、それを言われると何も言い返せないな。確かにその通りだ。次はお前に任せるぜ」
 猪突猛進タイプであるシルバーと、冷静沈着タイプであるゴールド。二人は正反対の性格ながらも戦闘において絶妙な相性でかみ合っていた。怪人たちの間で恐れられているだけのことはある。
「確実に仕留めるにはまず抵抗力を奪うのが定石なのだ」
 金色の戦士が右手をかざすと、手の平に球体が出現した。それは帯電している音を放っており、向けられている威圧的な視線にデスアロマが息を呑む。
「ゴールドスパーク!」
 雷の玉が投擲された。倒れこんでいる少女は立ち上がることもかなわず、飛来するゴールドスパークなる技をまともに受け入れた。
「ひぎゃっ! がっ、あがががががががが!」
 胸の辺りに着弾すると同時、全身が大きく痙攣を始める。腕、手、足、その細胞にいたるまで電気が駆け巡り、デスアロマは耳を塞ぎたくなるような痛々しい悲鳴を公園に響き渡らせた。
「あっ、ひっ、ひぅっ」
 ピンクとホワイトが可愛らしいロリータな衣服は、電撃によって黒く焦げてしまった。スカート部分も半分が燃えてしまい、縞模様のニーソックスもほとんど焼けている。
 ものの数秒間ではあったが、デスアロマにとっては何倍も長く感じられた。指先にさえ力が全く入らない。全身が脱力しているにも関わらず、電撃の余韻によって幼い体はいまだにぴくぴくと痙攣を繰り返していた。
 歩み寄ってきたゴールドライダーがボロボロになっている彼女の頭を掴み上げる。
「そして次に、強力な一撃でもって戦意を喪失させる。ゴールドアッパー!」
 引き絞られた金色の右拳が風を切り、電撃によって弛緩したデスアロマの腹部を突き上げた。
「ごぼっ……!?」
 拳という凶弾が突き刺さった瞬間、どぼっ、と筋肉ではなく内臓器官が歪む音が聞こえた。少女の目が零れ落ちそうなほど見開かれる。容赦のない一撃はデスアロマの腹筋どころか内臓をも刺激する。
「がはっ、うぶ、ぐぅええぇぇぇぇぇ!」
 きゅっと瞳孔が狭まり、喉が脈動して頭がぴくんと跳ねる。少女は押し上げられた胃から逆流した液体を吐き出した。黄色く濁った粘着性の高い胃液。
 金の戦士は、むしろ驚愕しているようだった。
「なんだ、この脆さは。もう少しで体を貫いているところだった」
 それもそのはず、実はデスアロマは怪人であることは確かだが戦闘経験が一切ない新米なのである。本人はやる気満々なのだが、保護者が許してくれなかったのだ。だからこうして内緒でアジトを飛び出したのだが、特殊能力を持っていることだけが単なる自信へと繋がり、体を鍛えるなんてことはほとんど行っていなかった。
「かはっ、ぁ、げっ……!」
 くの字どころかへの字にまで折れた肢体はめり込まされた拳だけで支えられ、だらしなく空いた口から胃液と唾液が混ざったものを垂れ流している。
 打ち込まれても吹き飛ばなかったのはゴールドライダーのなせる業であり、おかげでダメージは拡散されることなく内側だけで炸裂される。体が小さい分内臓たちも狭く密集しているため、拳一つで胃も肝臓も肺もなにもかも変形していた。
「怪人め、そろそろ本性を現せ」
 手首まで沈み込んでいる拳が右へと捻られる。
「うぎゅぅ!? げぷっ……!」
 再び内臓が歪む水っぽい音がして、デスアロマの体がびくりと跳ねた。胃袋から新たな胃液が絞り出され、青く変色した唇を割って飛び出す。
「その手には乗らんぞ」
 続いて左。
「んぐぅぅぅ! こ、はっ……!」
 限界までめり込んでいる拳が回転するたび、怪人少女は呻きながら粘液を吐いた。まるで蛇口を捻る要領で液を流しているかのようだった。
 肺の酸素もとっくに叩き出されているうえに呼吸もできない。体内がぐちゃぐちゃになる苦痛にデスアロマは悶絶するしかなかった。
「うーむ、おかしい」
 思う存分胃や肝臓をかき回した拳がようやく引き抜かれた。浮いていた体が真っ直ぐ落下し、顔面も地面に打ち付けられる。小刻みに痙攣しながら、デスアロマは腹部を押さえて悶絶した。
「ゴールド、今回ばかりは深読みしすぎだぜ。こいつは正真正銘のザコだ」
「む……いや、そうか分かったぞ。まだ力が覚醒していないんだ。それにこの幼すぎる外見、人々を惑わせるためもあろうが、おそらくまだ成長段階……」
「それで?」
「これはチャンスだぞシルバー。おそらくデスサタンの勢力はもはや壊滅かもしくはそれに近しい状態なのだ。なぜならこんな子供のような怪人を送り込んでくるのだからよっぽど切羽詰っている」
「なるほどな! さすがはゴールド、頭がいいぜ!」
「ここからが重要なのだ。シルバー、お前がブロンズだった頃のことを思い出せ」
「な、なんでそんな昔のことを……ありゃ死ぬかと思ったな。おかげでシルバーに覚醒できた」
「そう、それだ! デスサタンはいまだ成長しきらぬ怪人を戦場に放り込み、死を目前とさせることで強引に強力な怪人へと進化させるつもりなのだ!」
「なん……だと……? そうだったのか! なるほどそれならこいつが弱っちいのも納得だ!」
「であるからして、進化する前になんとしても息の根を止めねばなるまい」
 デスアロマの境遇など知らない正義の使者たちは自分勝手にもほどがある理屈をつくりあげ、そして結論づけた。
「ぐ……ぅぇ……」
 再びゴールドライダーが苦痛に呻いている少女の後頭部を鷲掴み、晒すように高く持ち上げる。デスアロマの四肢は力なく揺れていた。鼻血や胃液がぽたぽたと垂れ落ちる。
「体内はもはや半壊状態だ。そこへとどめをさす」
 手が放される。足が地へと着く前に、金の両拳が後ろから振るわれた。左右の脇腹を挟み込むようにして突入する。
「~~~~~~~~~!?」
 くぐもった重い音の後、デスアロマは声のない悲鳴を見せた。すでに痛めつけられている内臓器官が一瞬にして中央へと押しやられ、お互いに衝突する。圧倒的すぎるパワーは肋骨全体まで軋ませた。
「頼むぞシルバー!」
「任せろ! これで最後だ! シルバァァァ――!」
「――! ――!」
 銀色の使者が右腕を大げさに引き絞っていく。酸素も胃液も出し尽くしている怪人少女は呻き声すらあげられず、両目をむき出しにしていやいやと首を振る。
「マグナァァァァァム!」
 小細工もなにもない純粋なストレートパンチ。頬を殴りつけらた時よりも遥かに威力が増した銀の拳は、左右から圧縮されているデスアロマの腹部――鳩尾へと真っ直ぐ突き込んだ。
「ぁっ……! ごふっ……!」
 ほとんど聞き取れないほどの声だった。一際大きく体が震える。青ざめた顔とは対照的な、赤く熱い血液を口からびしゃりと迸らせた。内臓が破裂した証拠である。
 脇腹をプレスされてがっちりと固定されている幼い肢体は、それでもくの字に折れ曲がることを余儀なくされた。衝撃で衣服の背の部分が弾け飛んで、貫かんばかりのパワーによって背中の皮膚にまで裂傷が入った。ゴールドには一瞬、拳の形が背中まで浮き上がるのが見えたかもしれない。
「がはっ、げっ……ぁ……ぇっ……」
 三つの拳は柔らかな腹に手首まで沈みこんでいた。細すぎるウエストは、傍から見てもグロテスクなほど醜く歪んでいる。金銀の二人には潰れた胃や肝臓、爆発的なインパクトにより砕けた肋骨の感触が伝わっているはず。
「よくやったシルバー」
 示し合わせたように二人が一斉に拳を引き抜く。解放された拍子に再びごふりと鮮血が吐き出され、胃液などの液溜まりにデスアロマは倒れ伏した。びくびくと痙攣する幼い少女の腹部からは内臓が震える音が響いている。
「やったな! なんとか進化を防ぐことができたぜ」
「うむ。これで皆の安全は守られたのだ。見よ、安堵し微笑みを浮かべている――」
 正義の使者たちは思わず口をつぐんだ。なぜなら、一部始終を目撃していた人々から冷えきった視線を投げかけられていたからである。
「あ、くしゃみ止まった――いやそんなことより! ちょっと、小さな女の子相手になに本気出してんのよ! しかも二人がかりってさ!」
「そうよバカじゃないの? 恥ずかしくないの?」
 特に女子高生二人組の威圧的な眼光は、正義の使者をたじろがせた。
「な、なにを言ってんだ。こいつは悪の怪人で、キミたちに危害を加えようとしていたんだぞ!」
「くしゃみとかしゃっくりのどこが危害だって言うのよ。遊びたかっただけかもしれないじゃん」
「それはだなぁ……! ゴールド、なんとか言ってやってくれ!」
「うむ。見た目はどうあれ怪人であることは事実。悪の手先である以上――」
「悪ってだけでなんでもかんでも倒そうとするなんてサイテー。怪人は全部悪い奴なの? 良い怪人だっているんじゃないの?」
「良い怪人などいな――」
「いるかもしれないっつーかこの子はどう考えたってそうよ! 何も悪いことしてないし! あんた怪人全部知ってるの? 世の中にいる怪人を全部見たことあるんですかぁー?」
「……」
 さすがのゴールドライダーも閉口せざるを得なかった。守るべき対象であるはずの人間たちに反論されるとは思ってもみなかったのだ。しかも悪をかばうような形で。
 なんとかして正義の正しさを享受させようとする金の使者の足に、小さすぎる手が伸びた。そのか細い腕はあまりにも頼りない。
「げふ……ま、まだ……まだデス……」
 完膚なきまでに打ち負かされたデスアロマが、ゴールドライダーの両脚にしがみつきながら立ち上がろうとしている。痛みに歪む顔と口元は血と胃液で汚れきっていた。
「わたしは、デスサタンさまの……パパのためにも、負けられない……デス……!」
 内臓や肋骨を破壊しつくされた怪人少女はまだ生きている。体内は血の海となっているため身じろぎするだけで腹部の奥からは生々しい音がした。ほんの少し呼吸するだけで激痛が走り、全身がばらばらに砕けそうになる。それでも彼女は必死に膝を伸ばした。
 そんなデスアロマの姿を見て、女子高生二人組だけでなく、周囲の人々は一斉に涙を浮かべる。
「なんて健気なの……! こんながんばり屋さんなのにあんた達ときたら!」
「待て待て! 今デスサタンをパパと呼んだぞ! 皇帝の娘をキミたちは――」
「うっさい黙れ! そもそも女の子を殴りつけるってのがどうかしてんの!」
 デスアロマにはそれらの言葉はほとんど耳に入っていなかった。だから、女子高生たちの応援に応えているわけではない。ひたすらに、父親であるデスサタンのために正義の使者を倒すため体に鞭打っている。
 ゴールドライダーの体を支えに、膝を常に震わせながらもなんとか立ち上がった。そして、右手を思いっきり振りかぶる。
「このぉ……!」
「い、いかん! ……む?」
 こつん、と怪人少女の握られた拳が金のライダーの胸を叩いた。ただそれだけ。攻撃でもなんでもなく、軽く小突いただけのもの。
「この、この、ぐ、ぇほっ、このっ……!」
 涙を溢れさせながら、がむしゃらに金色の使者の体を叩き続ける。その小気味よい音と弱々しい声だけが沈黙の中に響き渡っていく。
 そして彼らに注がれる威圧的な視線。誰かが言った。空気読め。
「――ぐああああああああ! やーらーれーたー!」
「ゴ、ゴールド!?」
 突然胸を押さえて苦しみだした相棒に、シルバーライダーが狼狽する。彼が後方へと不自然によろめいたためデスアロマは支えを失って膝をつく。女子高生たちがすぐそばに駆け寄ってきた。
「きょ、今日のはこのくらいにしておこう。怪人よ、キサマの命はそれまで預けておく。さらばだー!」
「えっ? ちょっと待ってくれゴールド。おい! 置いていくな! お、覚えてろよ!」
 三下のザコめいたセリフを吐き捨てながら、正義の使者たちは強靭な脚力でもってその場から飛び去っていった。
 後に残ったのは、一瞬の静寂の後、割れんばかりの歓声である。
「きゃー! やったよですあろまちゃん! あなた勝ったんだよ!」
「ふぇ……?」
 女子高生に抱きかかえられながら、デスアロマは正義の使者が去っていった方角を呆然と見つめた。立ち上がったのもほぼ無意識だったのだ。だから今やっと、彼女は二人を撃退したことに気付いた。
「や、やったデス……、パパ、わたし、やったデス……」
 完全撃破とまではいかなかったが、正義の使者たちは間違いなく敗北という文字を辞書に刻み込まれたのだ。

 後日、この事実は皇帝にも伝えられ、怪人たちの士気を向上させることとなる。
「こら! 危険だからあれほど外に出ちゃいけないってパパはいつも言ってるだろう!」
「ひいっ、ごめんなさいデス!」
 治療を受けたデスアロマは一週間ほど絶対安静だった。ようやく満足に体を動かせるようになると、父に呼び出されてこっぴどく叱られてしまった。
「しかしよくがんばったな。さすがパパの娘だ。えらいぞ」
「わ、ありがとうデス! えへへ」
 頭を撫でられて満面の笑みを浮かべる。彼女はたった一日で他のどの怪人よりも名声を獲得し、幹部へと君臨した。

Comment

No:72|
更新お疲れ様です

凄く面白かったです!
普段とは180度違う視点からの描写で、ヒーロー物の常識を覆すような作品でしたね

周囲があんな雰囲気だとヒーローの立場がないですねww

やはり黒葉さんの小説は素晴らしいです。尊敬しています

これからも頑張って下さいm(_ _)m
No:73|
>紅さん

いつも悪をやっつけてばかりなので、逆パターンをやってみたくなりました。正義の味方は人の話を聞かないから困ったものですね。

ありがとうございます。がんばりまっさ。
No:74|
はじめまして

先日腹責め合同誌を購入しまして、黒葉さんのSSを読み、痛みや苦しみが伝わってくる
精緻な責め描写と、それに引き立てられるキュアピースの健気さに思いっきり萌えさせて頂きまして、
「これ以上好みのリョナ作品には、もう出会えないかも…」とすら思いかけたんですが
お名前で検索してここに辿り着き、すぐに覆ってしまいましたw
あまりにも感動したので、僭越ながらコメントさせていただきます

まずデスアロマちゃんが凄く可愛いですねw
見た目も言動も幼いのにあれだけやられて心が折れないとか気丈過ぎて萌えます
特にヒーローに反撃するときの台詞といい反撃の仕方といい可愛過ぎてヤバいです
敵の強さを知ったり(成長フラグ?)、周りの人間に助けられたり(和解フラグ?)
色々今後の展開を妄想出来るような構成も素晴らしいと思いました
これだけボロボロでも一週間で回復とか意外と強いような…w
好みのSSに出会えた感動が大き過ぎて筆が纏まりませんが、とにかくこの作品には心を動かされました

乱文&長文大変失礼いたしました
素晴らしい作品を、本当にありがとうございます
No:75|
>ALGOTHさん

どうも初めまして。
合同誌の感想をここで貰えるとは思っていませんでした。本当はキュアマーチ推しです。
お褒めの言葉まで頂いて、画面の前で赤面しています。心躍ってます。ありがとうございました。
更新の頻度が最近よくありませんが、ちょいちょいSSは増えていくと思いますのでよろしければこれからも読んでみてください。
No:76|
更新お疲れ様です。
なんとなく金のマスクと銀のマスクを思い出してしまいましたw
しかしひ弱っこになんというむごい仕打ち、腹の中がどんな風になっているか想像するだけで、フフ

お忙しいみたいなのでのんびりいってくださいな。
No:77|
>星野さん
金と銀のマスクって昔なつかしいキン肉マンですな。
ロリキャラはあまり書いたことないので挑戦しました。でもやっぱり打撃とかのリョナでのロリは雰囲気が違いすぎて、あまり映えないかもしれませんねー。

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