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花びらたち 2-3

 マーガレットたちは遺跡の中を進んでいた。鉱山の中にある遺跡のため、当然内部は暗い。
 先頭に立っているカトレアはランプを手にしている。その後ろをチューリップと並んでマーガレットが歩いていた。
「そんなに狭くないね。もっとこう、岩肌がごつごつしてるものだと思ったんだけど」
「誰かが手を加えたと考えるべきでしょう。だからこそ遺跡と呼ばれているのです」
 チューリップの疑問に、カトレアは振り向かないまま答えた。
 確かに入り口からして不自然ではあった。ぽっかりと空いた穴のようだったが、いびつな形でもなく人がすんなりと入れる大きさだった。鉱山自体は一般の人間を立ち入り禁止にしているほど入り組んだ山であるし、この遺跡の内部だけはやはり自然の産物ではないように思われた。
「マーガレットは大丈夫? 暗いところは苦手なんじゃなかったっけ」
 ぐっ、とマーガレットは表情を強張らせる。
「昔の話ですわよ。十六にもなってそんな……」
「でもこの前部屋の明かりが消えちゃったからってあたしのところに寝泊り――」
「わ、わたくしは真っ暗だと逆に眠れないのです。あの時に限ってなぜ蝋燭や照明石のストックが切れていたのでしょうね。だから仕方なくです。決して一人が怖いからではありませんのよ? カトレアさんもよろしい?」
「そんなに大声でまくしたてなくても聞こえています」
 くすくすと小さく笑うチューリップを、不服そうに横目で睨むマーガレット。
 言葉を軽く交わしながら、三人は奥へと進んでいく。チューリップが率先して話題をつくり、マーガレットが突っ込み、カトレアが相槌をうつような流れだった。会ったばかりだというのに、既に馴染みのある友人同士のような関係になっていた。
 ふと、少し開けた場所に出た。周囲はある程度空間があり、見ようによっては小部屋のようにも感じられる。
 ぴたりとカトレアが立ち止まった。
「行き止まりです」
 狭い部屋の中で声が響く。
「ここで終わりなの? ゴーレムいなかったじゃない」
「まだ分かりませんわよ。全体を照らしてみます」
 マーガレットが小さく指を鳴らした。指先に淡い光の球が浮かび上がる。生きているかのようにふわふわと上へ移動していく。次第に大きくなっていって、やがて球技で扱うほどのサイズまで膨らんだ。輝きも増していき、三人がいる部屋全体を照らし出す。
「あたしの部屋よりも狭いかも」
 明るくなった部屋をチューリップは見渡した。
 壁や柱が削れていて、天井もさほど高くない。照らされたおかげで、三人では少し窮屈な場所であることが分かった。
「あら、この壁だけ色が変ですわね」
 マーガレットが壁の一部を指し示す。薄く汚れているが、他と比べてその部分は赤みがかっていた。人間の背丈以上の高さと幅がある。
「なにか文字のようなものが……」
 壁を探っているマーガレットの言葉に、カトレアが反応した。彼女と肩を並べ、頬がくっつかんばかりまで体を寄せる。
「どこですか?」
「あ、ええと……ここです」
 不意に接近してきた黒髪の少女に、マーガレットはぎこちなく答えた。言動は大人びているが、カトレアはまだまだ幼い顔立ちであることに改めて気付かされる。
 続いて挟み込まれるように、反対側から幼なじみが顔を寄せてきた。
「これ文字? 見たことないよ」
 赤みを帯びた壁には、彫ったような窪みがいくつか並んでいた。それは確かに文字のように見えるが、普段読み書きする文字とは異なっている。
 文字らしき並びを指でなぞりながら、カトレアは頷いた。
「古代文明の文字ですね。注意書きのようです」
「読めるの?」
「『この先……参加者以外……立ち入りを禁ず』――」
 見たこともない文字をあっさりと解読する。マーガレットは戸惑いながらカトレアを見つめた。
「カトレアさん、あなた一体……」
「古代研究は趣味ですから」
「チューリップはともかく、わたくしも知らない言語ですわよこれは。いつの時代の文字ですの?」
「超古代文明かもしれません。『あった』とされる未知の文明です」
「それはトンデモ話というやつでは? なんだか急に胡散臭くなってきましたわね……」
「ねえ、あたしはともかくってどういう意味?」
 チューリップが顔を覗き込んできた。そんな幼なじみに微笑みながら尋ねる。
「最後に受けた歴史の学科試験、判定はいくつでした?」
 その言葉にチューリップは表情を硬くした。口ごもるようにして答える。
「え、えーっと……二だったかな?」
 遠慮がちの回答にマーガレットは目を大きく見開く。
「あららこれは意外ですわね! あなたのことだからてっきり一だと思いましたのに。とにかく、五であるわたくしが知らないのですからチューリップが知ってるわけないでしょう。おわかり?」
「そっかーなるほどね! やっぱりマーガレットは頭いいなぁ」
「ものすごく皮肉のつもりだったのですが……すがすがしいほどの天然ですわね」
 呆れたようにマーガレットはため息を吐く。カトレアは二人のやりとりを、やはり無表情で眺めていた。
 しかしさきほど読み上げられた文字の羅列は変だ。この先、といってもここはもう行き止まりだ。来た道を戻る他に選択肢はない。
 マーガレットの耳に小気味良い音が入ってきた。そちらに目をやると、黒髪の少女が刀を抜いていた。鞘から抜かれる音だった。
「どうしましたの?」
 カトレアは答えないまま、刀の先端で壁を軽く小突く。こんこんとノックするような音が小部屋に響いた。薄汚れた壁、続いて文字が書かれた赤い壁、交互に。確かめるようにして刀で突いている。
「なんだか音が違うみたい」
 いち早く気づいたのはチューリップだった。おそらくカトレアもすぐに分かっただろう。既に次の行動へと移っていた。
「下がってください」
 刀を納め、手で二人を促す。言われるまま、拳士と治療士は彼女の後ろへと移動した。
 柄を掴んで、わずかに膝を曲げる。尻尾のように束ねた黒髪は全く揺れていない。その体勢のままで静止する。
 時が止まったかのようだった。呼吸音すら聞こえない。何をしようとしているのかマーガレットには分からなかった。
 沈黙に耐えかねて口を開こうとしたときだった。
「――ッ!」
 息を吐く音と共に、刀が抜かれた。さらに紙を千切るような音がマーガレットの耳に届く。
 カトレアの目前にある赤い壁に、線が走った。斜めに走る切れ込みのような亀裂。それは一瞬のうちに、バツの字を描いた。
 刀が鞘に納められる。その音と共に、赤い壁はたちまち崩れ落ちた。あっという間に人が入れるほどの空間が出来上がる。
 呆然とマーガレットはその光景を眺めていた。カトレアの刀は他の戦器士の装備と違い、魔力を備えた武器ではない。彼女は言っていた。魔力を斬る刀だと。
「か、カトレアさん。あなたの刀は魔法で強化できないはずでは……」
「強化などしなくても、これくらいはできます。もとより刀というのは使用者の魂に応えるもの。斬れると思えば斬れるのです」
「いやその理屈はおかしいですって! こんな滑らかに斬れるものですか。チューリップも何とか言いなさい」
 喚きたてるマーガレットをよそに、チューリップは壁へと歩みよっていく。斬られて瓦礫となった壁の一部を手に取ると、おもむろに手刀を叩き付けた。魔力を込めた手だったのか、瓦礫はたちまち音をたてて粉々に砕け散ってしまう。
「あちゃー。あたしじゃ無理だなぁ。カトレアってすごいんだね!」
 カトレアは軽く会釈する。
「確かにすごいですがちょっとお待ちなさい! おかしいと思いませんの? こちらでは珍しいとはいえ刀とて剣ですのよ? しかもいつ二回斬りました?」
「すんごい速かった。それに、斬ってみせたんだから斬れるってことでしょ。マーガレットはもっと広くモノを見るべきだよ」
「よもやあなたから観察眼について助言を頂こうとは夢にも思いませんでしたわ……」
 もはや何を言っても無駄だと、マーガレットは悟った。納得はしていないが、カトレアの実力をまざまざと見せ付けられたことには黙り込む他ない。
 斬った壁の向こうは空洞になっていた。カトレアが身を乗り出し、左右、上下に視線を配っている。
「階段があります」
 言葉通りだった。地下へと伸びる階段が赤い壁の向こうで待ち受けていたのだ。幅は狭く、一人ずつでなければ降りられそうにない。
 この先に何があるのかは見当もつかない。しかもさらに下層へと続く階段だ。部屋を照らしている光の球ですら先を見ることができないほど奥深い。
「進みます」
 不安はないのか、ランプを手にしているカトレアは堂々と階段へと足を踏み入れていく。
「チューリップはわたくしの後ろからお願いしますわね」
「うん。任せて」
 マーガレットが指を鳴らすと、部屋を照らしていた光の球が霧散した。 治療士はどのような状況でも活躍できる存在だ。戦闘においても最優先で守るべき対象だといえる。挟み込むようにして行動していれば、例え背後から何かが襲いかかってきても、真っ先にマーガレットが攻撃を受けることはない。
 階段を下りていた時間は実際短かったかもしれないが、長く感じられた。
 その先は暗闇が支配していた。カトレアが持つランプだけが唯一の光となっている。先ほどの小部屋とは違い、ランプだけでは壁も視認することができなかった。それほど広い場所であるということだ。
 物音一つなく、風もない。仲間の気配だけがそばに存在した。
「マーガレット、もう一回」
「ですわね」
 先ほどと同じように周囲を照らしてみるしかない。マーガレットが再び指を鳴らそうとしたときだった。
 ぱっ、と遥か頭上から火花が散るような音が降ってきた。呼応するように、周りに光が満ちていく。ほとんど闇だった視界に突然光が差し込んできたため、マーガレットは思わず目を細めた。
「わー、なんか闘技場みたい」
 チューリップが率直な感想を漏らす。
 広々とした大部屋だった。拳士たちが日頃訓練などを行う広場と似たような広さだ。視線の先にはこちらと同じような入り口が開いており、それこそ決闘する者が入場してくるような雰囲気があった。周囲は塀が設けられ、観客席のような空間がぐるりと一周している。床と壁は茶色がかっていて、天井にはランプと思しき光がいくつか点在している。
「やたらと強力なランプですわね」
「あれは電気でしょう。古代文明の科学技術です」
 さも当然、というように黒髪の少女が告げる。
「デンキ? 雷属性の魔結晶を使っているということですの?」
「似たようなものです。ただしあれは魔法ではありません。失われた技術――ロストテクノロジーですね」
「いろんな言葉が出てきて頭の中がごちゃごちゃしてきたのですが。そもそも古代文明など本当に信じていらっしゃいますの?」
「夢があっていいと思います」
 意外な言葉に、マーガレットは思わず口ごもった。カトレアの第一印象は、冷静沈着な人物だというイメージだった。周囲に惑わされず、当然このような根も葉もない話には耳を貸さないような性格であると感じていたのだが。
 そのギャップが、むしろマーガレットには好印象だった。
「意外とロマンチストですのね」
「恐縮です」
 こくり、とカトレアは頷くように会釈した。表情を変えないまま続ける。
「この遺跡はまだ生きているようです。歴史を紐解くヒントが――」
 言葉が停止する。視線が別の方向へと向けられた。
 つられてマーガレットもそちらを見た。妙な音が聞こえる。金属同士が擦れ合うような音。それは向こう側にある入り口の奥から、だんだんと近づいてくるようだった。
 チューリップも音に気づいたのか、口を閉ざしていた。あどけない幼なじみの顔は、戦う拳士のそれになっていた。マーガレットの前へと歩み出る。カトレアもそのすぐ横へと並んだ。
 杖をぐっと握り締める。こんな場所に誰かが住んでいるとは思えない。何かが出てくるとしたら、それは危険を及ぼしてくる。マーガレットはそう直感した。
 緊張が辺りを支配する。やがて音の正体が姿を現した。
「人……なの?」
 チューリップが呟いた。
 そいつは鎧を身にまとっている。ところどころさび付いていて光沢が失われていた。歩を進めるたびに金属同士が擦れ合う音。頭は目の部分以外は完全に覆われている。本来見えるはずの目は空洞になっていた。 
「いえ、ゴーレムです」
 カトレアは刀の柄に手をかけた。彼女が言うのであれば間違いないだろう。
 甲冑姿のゴーレムはゆっくりと近づいてくる。後続が現れる様子はなかった。今回は町で戦ったような巨大な敵ではない。体長は成人男性ほどのようだ。
 ならば、とマーガレットは杖を握りなおす。
「一体だけですわね。こちらは三人です。包囲して――」
 瞬間、至近距離まで甲冑ゴーレムは迫ってきた。数歩先に立っている拳士と戦器士の間をすり抜けて。一瞬の動きだった。
 なにかが埋まるような音。え、と思ったときには、すでに攻撃が完了していた。マーガレットは腹部に違和感を覚え、己の白いドレスのような法衣を見やる。
 彼女の鳩尾に、ゴーレムの拳が埋没していた。
「――がっ!?」
 自分のものとは思えないような潰れた悲鳴が漏れる。
「マーガレット!?」
 何かがぶつかるような音に、チューリップとカトレアが振り向いた。その時には既に、治療士少女の腹部に拳が突き刺さっていたのだ。十歩ほど先にいたはずの甲冑ゴーレムは、チューリップが目で追えないほどの速さだったらしい。
 甲冑の腕は固い金属でできたガントレットだ。その重みは通常殴られるものとはわけが違った。
「かっ、あ――」
 拳が引き抜かれると、マーガレットの体は一瞬ぴくりと脈動した。視界が明滅する。世界がぐるりと回った。杖を落とし、前のめりに倒れ込む。
 この間、わずか数秒だった。
 
 チューリップは一瞬パニックに陥った。目前にいるゴーレムが突然加速したのだ。横をすり抜けたところまでは覚えている。慌てて振り向むくと、マーガレットの腹に鋼鉄の腕が突き刺さっている光景が目に入ってきた。
「マーガレット!?」
 幼なじみが、糸が切れた人形のように倒れこむ。
「――ふっ!」
 いち早く状況を打開しようと動いたのはカトレアだった。背中を向けているゴーレムに対して刀を振る。壁を斬ったときと同じ抜刀術。この動きとて並の魔法使いには出来ない芸当だ。
 ゴーレムが体ごと振り向く。迫る刃を、指先で挟み込んだ。
「なっ――」
 カトレアは目を瞠る。信じられない反応速度だった。少なくとも一太刀浴びせられるはずだったその攻撃を止められて、思考が鈍る。
 その隙を逃さず、ゴーレムは一瞬棒立ちとなったカトレアの懐に潜り込み、腹に膝をめり込ませた。
「ぐっ……!?」
 両足が浮くほどの衝撃。肺から酸素を無理やり押し出され、一瞬呼吸が止まった。金属が腹部にめり込んでくる。
 くの字に折れ曲がったカトレアの頭を、がっしりとゴーレムが片手で掴むと、そのまま床へと叩き付けた。潰れる音。
「ぶはっ――!」
 顔を持ち上げられたとき、小さな鼻から血が一筋伸びた。
「カトレア!」
 チューリップの声に反応したのか、ゴーレムは鼻血を流す少女を彼女の方へと投げ飛ばした。
「わっ」
 慌ててカトレアの体を、羽交い絞めするような形で受け止める。
 同時に鳩尾のあたりを衝撃が貫いた。
「がふっ――!」
「うっ、くぁ――!?」
 まずカトレアが大きく呻いて、呼応するようにチューリップが息を漏らした。
 黒髪少女の腹にゴーレムの拳が深く埋まった。インパクト部分に、フリルをあしらった幼げのある黒い法衣が吸い込まれている。打ち上げ気味に見舞ったその攻撃は胃を揺さぶり、透明な胃液を吐き出させた。
「ごほっ! あぁ――げぇ――!」
 いつもの無表情は崩れ去り、カトレアは悶絶した。彼女は自己強化タイプとは違う。魔力で身体能力を向上させてはいるが、拳士のように肉体をパワーアップさせているわけではないのだ。体そのものは鍛えているとはいえ、十五の少女には到底耐えられない攻撃だった。
「あぐっ――カト、レア――!」
 チューリップはカトレアの背中越しに、腹部に強烈な重みを受けていた。ゴーレムの拳が重過ぎて、直接殴られていないはずのチューリップにまで痛みが走っている。
 分かる。カトレアが受けたダメージは相当なものだと。
「うぐぁ――ご、ふっ――ぁ――!」
 目を見開いてカトレアは呻く。口から粘ついた胃液が、突き刺さっている腕に垂れ落ちた。痙攣するように体が小刻みに震えている。
 鋼鉄の拳が引き抜かれる。まだ終わりではなかった。重い攻撃を受けて陥没したカトレアの腹部が修復される前に、続いて左の拳が叩き込まれる。
「ぐ――ぶっ――!」
「うぐぅぅ――!」
 再び二人の少女から苦悶の悲鳴。逃れる暇さえ与えられない。
 拳をもろに受けているカトレアの口から、赤の欠片が混じった息が強制排出された。内臓が歪められる感覚。体がくの字に折れる。
 背中まで貫かんばかりの拳は、カトレアといういわばクッションを間に挟んでいてもチューリップの腹にまで衝撃を及ぼしている。初撃よりそれは重かった。
 三度目の突きを入れようとする挙動が、チューリップには見えた。が、ゴーレムは拳を引き戻すと同時に、何かから逃れるようにして後方へと跳躍した。
 直後、横から火球が凄まじい勢いで通り過ぎていった。音と熱気を撒き散らす火の玉は、闘技場の壁へと激突し爆発する。
「かふ――かっ――」
 掠れた呼吸で、カトレアはチューリップに体を預けるようにして蹲った。
 抱きしめるようにしてチューリップは仲間の状態を確認した。顔は苦痛に歪み、体が小刻みに痙攣している。少量の血液が口元から流れ出ていた。
「くっ……カトレア、大丈――」
「休んでいる暇は、ありませんわよ」
 視界に影が落ちた。大きな帽子をかぶった幼なじみの治療士が、腹部を押さえながら敵の方を睨みつけていた。杖を掲げ、周りには火の玉が浮かび上がっている。
 チューリップは呆然となった。先ほどの一撃は致命傷だったはずだ。彼女は近接戦闘を得意とする魔法使いではない。とっさの攻撃に腹筋を固めるといった防御手段などとれるはずもなかった。油断していたとはいえ、ゴーレムの攻撃はチューリップですら捉えることができなかったのだ。気絶していてもおかしくない。
「不思議そうな顔していますわね。お腹を殴られたのは一度じゃありませんのよ?」
 ふっ、とマーガレットは微笑んだ。彼女の言葉には心がずきりと痛む。
 無理をしているのが見て取れた。笑みを浮かべた顔には汗が流れているし、口元は嘔吐したのかわずかに濡れている。言葉にも力が感じられない。
「マーガレット、回復した方が」
「無理ですわね。わたくしが治療に移った時点で攻撃されます。今はお互いに動けない状況ですのよ?」
 改めてゴーレムを確認する。敵はこちらに近づいてこようとはしない。が、隙があればいつでも飛び込んでくる態勢であることが容易に理解できた。今、マーガレットの<ファイアーボール>がかろうじてストッパーになっている。
 どちらかが動けば、状況は変化するだろう。
「ゴーレムの、かはっ、動きを止める必要が、あります」
 咳き込みながらカトレアは立ち上がろうとした。チューリップは慌てて彼女の体を支える。たった二発の攻撃だったが、痛みは鈍く残っているだろう。鼻と口元から血を流して、背中をやや丸めて腹部を手で押さえていた。
 黒髪の少女は鼻の血を手い拭う。荒い息のまま、
「コアを破壊できるのは私だけです」
 と刀を示すように一振りした。
 思えば、彼女はあれだけの猛攻を受けても刀を取り落とさなかった。その手にしっかりと握りこまれているのを見て、チューリップは感嘆の息を吐く。
「承知していますわ。チューリップ、あなたがゴーレムを押さえなさい。わたくしはサポートに徹します」
「うん」
 チューリップは幼なじみに頷き返す。
 ゴーレムは一体だが、強敵だ。チューリップ自身もそれは十分理解している。この中でスピードが速いのは自分だ。敵を捉える役目。先ほどは油断していたが次は決して見逃さない。
 最終的にはカトレアがとどめを刺す。そこに至るまでの状況をつくりあげるのだ。
「行くよカトレア」
「了解です」
 視線を交し合う。
 そこでチューリップは気づいた。いつの間にか彼女のことを呼び捨てにしていたことに。カトレアは特に何も言及してこない。
 こんな状態になりつつも、仲間意識が芽生えたことに喜びを覚えた

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